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前世で介護士だった私は、異世界で吸血鬼をケアする聖女になってしまいました。

作者: 海月 花夜
掲載日:2026/07/27


「お願いだっ、ちょっと良いんだ」


「何ですかちょっとって」


「本当に少しで良いんだ、歯先がちょっと入れば」


「先っちょだけって言う人間は、いやらしいのでお断りです」


 血を流して包帯に巻かれた男性が、ベッドの上で横たわっていた。

 顔は整っていてカッコいい……とは思うけど、駄目なものは駄目。

 私は聖女何だから、そんな事は出来ない。


「良いじゃないか少しぐらい、それに俺は、吸血鬼だぞっ……!」


 そんな吸血鬼が口から血を溢れさす。

 見るからに重症だ。

 けれど、治癒をかけようとしたら死ぬほど嫌がられる。


「やっぱり、治癒をかけてあげましょうか?」


「殺す気か!? 私は吸血鬼何だぞ!?」


「でも、そのままでも死にそうじゃないですか」


「だかって魔族に、聖なる治癒を施す奴が居るか!」


「ここに居ますけど?」


 吸血鬼が黙った。

 そんな吸血鬼のそばで、子供たちが面白そうに見てくる。

 何がそんなに面白いのか。

 元を辿れば、全てはこの子達が私を困らせたがるのがいけない。


 私――リネット・ホワイトリーは、辺境にある教会で子供たちと住んでいる。

 聖女という肩書をもっているが、前世はただの日本人女性だ。

 介護の仕事を行う怒涛の日々。


 誰かを見送る事はあっても、まだ自分じゃない。

 そう何処かで思っていた。

 日々関わる人と比べたら、私はまだ人生の半分ぐらいの年齢なのだから考える必要もない。


 けれど私は、過労という名の現象には勝てなかった。

 一人暮らしの静かな部屋。

 私の生涯は、そこで音もなく終わった。


 誰に看取られるでもなく、ただ一人で。


 転生した先が異世界だったのは驚いた。

 魔法もあって、魔物も居る。

 勇者も居るらしい。

 なのに、医学や介護の常識は広がっていなかった。


 怪我を負ったらどうするか?

 この世界の人達は基本的には放置する。

 重症であれば、聖職者に診てもらう。

 それぐらいの常識だった。


 ならば自分で覚えよう。

 そう考えた私は見習い聖女となった。

 治癒魔法を覚え、この辺境にある教会に住む様になる。


 決して飛ばされた訳ではない。


 ――繰り返そう。


 私は、断じて飛ばされた訳ではない。

 お金が払えないと言う重症の人を、勝手に治したらから。

 などという理由では……ないと信じている。


 そんな私でも、子供たちと楽しく暮らせているのだから文句もない。

 寧ろこれで良かったとすら思えていた。


 この子たちが、――吸血鬼を森で拾ってくるまでは……。



『シスター! 大変だよ! すぐに診てくれよ!』


 教会の扉を開けると同時に、慌てた子供の声が聞こえたのが昨日の夕方。

 血の気が引く思いで走った私は、子供が怪我をしたのだと考えた。

 けれど違った。


 怪我をしていたのは、子供が三人がかかりで引っ張っていた人物。

 見るからに血まみれで、腕も折れ曲がっている。


 生きている方が不思議だと思ったが、脈も呼吸もあった。


 子供たちに足を持ってもらって、急いでベッドに運び入れる。

 理由は分からないけれど、死にかけている人を放って置く理由にはならない。


 そして私が治癒魔法をかけようとした時だった。


『止めてくれ……』


 向けていた腕が男性に下げられる。


 動ける事が奇跡だった。


 そんな状態で、治療を止めようとするのだから意味が分からない。


『このままでは死んでしまいます! 直ぐに治療を』


『止めてくれ……頼む』


『死んでも、恨まないでくださいよ』


 無理に行う事は出来なかった。

 崇拝するものがあった場合、それこそ命に関わってしまう。

 異世界から来た私からしたら、良く分からない感覚だけど、この世界では大切されている。


 治癒魔法以外の事を行い、私はどうにか止血を行った。


 そして今に戻る。



「頼む、ちょっとで良いんだ……血を……」


 傷口のふさがる速度でおかしいとは思っていた。

 けれど、目覚めるなりそんな事を言われてしまえば、私にだって分かる。

 この男性が吸血鬼だと言う事は。


 静かに眠っていれば カッコいい人が血を求めている。

 こんな不思議な状況が今までにあっただろうか。

 いや、あるはずがない。


「出来ません」


「どうしてだ……」


「貴方が治癒魔法を受けられないように、血を他人に与えるなどという事は出来ません」


「そんなっ……貴方は、悪魔なのか……! 悪魔なのだな……」


「聖女です」


「そうだぜ」

「聖女なんだから!」

「シスターは聖女さまなんだからね!」


 周りに居た子供たちが同調してくれる。


 今さら理解したのか、吸血鬼が私の身体に目を向ける。

 見習いシスターが着るほどかしこまった修道服ではないが、今の私は――修道服とメイド服を合わせた様な少し可愛くかっこいい衣服を着ている。


 どうせ子供たちしかいないのだからとアレンジした。

 毎朝、神様には祈りを捧げているのだからきっと許してくれる。

 お坊さんでも、クリスマスは楽しむ。

 うん、きっと許してもらえるはず……。


「頼む、殺さないでくれ……」


 吸血鬼の態度が急変した。

 本当に私が聖女とは思ってもいなかったのか。

 人間だと甘く見ていたのなら、お小言は言いたくなる。

 けれど、誰も殺すだなんて物騒な事は言っていない。


「別に殺しませんよ」


「なら、血をくれるのか!?」


「あげません。もぅ、どうして直ぐにそんな話になるんですか」


「ならば、お前らで構わん。血をくれ」


「良いぜ」


 子供のロイがそんな事を口にする。


「ほんとうか!?」


「待ちなさい! 言い訳がないでしょ! ほら、さっさと向こうに行って遊んでなさい!」


「はーい」

「何だよ、面白そうだと思ったに」

「そんなこと言わないの、ほら行くよ二人とも」


 マシュー、ロイ、エミリーの三人が離れて行く。

 これで私と吸血鬼だけだ。


「あぁ、待ってくれ……血を――」


 伸ばされた手を私は優しく、布団に戻していた。


「分かってると思うけど、子供たちに手を出したら――分かってるわよね?」


 口を閉ざした吸血鬼が首を縦に振るう。


「良かった、物わかりは良いみたいだね」


「そうだろ!? ならば血を」


「あげません。ほら、包帯変えますから、大人しくしてて下さい」


 傷口がふさがった箇所の包帯は取り除き、まだ治っていない部分だけ巻き直す。

 細身でありながら、鍛え上げられた腹筋やら上腕の筋肉が目に入る。


 何だか、見ているだけで……。


 あれ……。


「はぁっ――!」


 私は吸血鬼の肌から手を離し、立ち上がった。


「何かしましたか?」


「驚いた、我の――」


「変態ッ!」


「ぐへぇ――」


「あっ……」


 否定しなかった吸血鬼の頭を叩いてしまう。

 けれど私は悪く……ない。


 違うと言わなかったこの人……吸血鬼が悪い。


 きっと何か、そういう類の術を使おうとしたに違いない。


 本当に危なかった。

 あのままだったら……私、どうなってたんだろう。


 少し気になるまま、私は意識を失った吸血鬼を静かに見ていた。


「念のため、治癒の護符を背中に貼っておこう」


 治癒の護符。

 私が開発した、治癒魔法が込められた護符だ。

 任意のタイミングで魔力を起動させれば、勝手に組み込まれた治癒魔法が起動する。


 これで最悪、私が殆ど動けない状態になっても子供たちを守れる。

 子供たちが無事なら後のことはどうだって良い。

 まぁこの吸血鬼には、死ぬほど痛い思いをしてもらうかもだけど。

 そんな状況になった時点で、この人が悪い。


「これで良しと」


 巻き付けた包帯の中に仕込み、私はその部屋から離れる。


「あっ聖女さま、どうだった吸血鬼は?」


 子供たちの様子を見ようと外に出た私に、ロイが近づいて来た。


「手当してたよ」


「血、あげたのか?」


「あげてません」


「ならチューしたのか」


「して……って何でするんですか! する訳ないじゃないですか!」


「ちっ面白くねぇな」


「それは、こちらのセリフです。良いですかロイ、そういう事は」


「マシュー、聖女さまが吸血鬼とチューしたってよ」


 そんな事を言いながら、ロイが皆の所に走って行く。

 はいっ!?

 いやいやいやいや、待って。


「ロイ!? ちょっと待って。誰もそんな事は一言も言ってないでしょ!? いい加減にしなさい! 夜ご飯抜きにしますよ!」


「ひでぇえ! 飢え死にするだろ!」


「一日や二日であれば、問題ないですよ。それよりも、変な事を言い回るのは止めなさい!」


「もうロイ。聖女さまを困らせないの」


 エミリーが止めようとしてくれる。

 やっぱり女の子は味方だ。

 有り難い。


「聖女さま、大丈夫ですか? 顔が赤いですけど」


 けれど、無邪気な棘が私に突き刺さる。

 あぁ痛い。

 自分の顔を想像すればするほど、心苦しかった。


「うん……大丈夫よ」


「なら良かったです。ロイの事は任せて下さい。私、ロイを黙らせる方法を知ってますから」


「黙らせる?」


「はい」


 そしてエミリーが大きく息を吸った。

 離れて行くロイの耳に言葉を届かせるためだろう。

 けどいったい、何を……。


「ロイ! 今すぐ聖女さまに謝らないなら。あんたが朝起きて前にしてたこと、聖女さまと皆に――」


「ばばばかッ! 止めろ! 止めてくれ!」


 身体の向きを変えたロイが、物凄い速度で戻って来る。


「だったら早く謝りなさい。さもないと――」


「あぁぁああああああああっ!」


 ロイがエミリーに飛び込み、二人がふかふかの芝生に倒れ込む。

 伸ばしたロイの手が、エミリーの口を抑えたまま。


「んんっ! んん!」


「聖女さま、ごめんなさい。許してください」


「んんんん! んっ……!」


 良く分からないけど謝ってくれるならそれで良い。


「次はないからね」


「分かってるよ、あはは……」


 本当に分かっているのか。


「本当に分かってる? 前も言ったこと守ってないでしょ」


「ん?」


「シーツを汚したら、ちゃんと言ってって言ったのに」


「あぁああああああああああああああああ――! 言わないでくれよッ! 聖女さまぁあああああっ!」


「ふぅ、ようやく息が出来るわ」


 慌ててロイが今度は私に突撃するも、体格差がある。

 エミリーと違って、倒されることはない。


「うぅぅ、酷いぜ聖女さまぁ……」


「ごめん、でもほら。叫んだ訳じゃないから、聞いてたのは私とエミリーだけだと思うよ?」


 不安そうにロイが周りを見た。


「でしょ? 変な事を言われたら嫌でしょ? 次からしちゃだめだからね」


「分かった」


 先程よりもしっかりとロイが頷いてくれる。

 これで一安心だ。


「それじゃ私は、晩御飯の準備をしてくるから、二人とも、小さい子の事もよろしくね」


「はーい」

「おう、任せとけ!」


「勝手に森に入ったら、本当にご飯抜きだからね」


「……おう、任せとけ……」


 うって変わって信用できない声が返って来た。


「信じるからね」


 けれど私は、この子なら大丈夫だと信じる。

 この世界では、生きる為には子供たちの手が必要だ。


 これが大人の多い村とかなら関係ないんだろうけど、ここは辺境にある教会。

 子供たちも訳あって流れ来る子ばかりなんだから。

 協力出来る事は協力する。

 でも、どうしたら良いんだろう。


 私は――教会の中に居る吸血鬼に意識を向けるのだった。



 ***



「血を……」


「はいはい、血はあげないけど、ご飯ですよぉー」


 開いた口に食べ物の乗ったスプーンを入れる。

 子供たちと一緒に探した本いわく、吸血鬼でもご飯は食べられるらしい。

 間違っていたら、その時はその時だ。


 というか、食べられないのなら私達に出来る事はない、今すぐ森に返ってもらおう。


「美味い……」


「良かった。はい、あーん」


「我をこどもぉ――」


 うるさい口には食べ物を放り込むのが一番である。

 子供と変わらない。


「貴様、何だその顔は、いったい何を考えておる」


「何も考えてませんよ。はい、口を開いてくださいねー」


「む……」


 何故私は、吸血鬼に飯を与えているのか。

 冷静になればなるほど、訳が分からない。


「なぁこんな食事など取らずとも、血があれば――」


「はいはい、血に頼ってないで食べて。ほら、これには鉄分も含まれているから、人と同じなら自己で血を作る働きを助けてくれますからねぇ」


「何だから、凄く扱いがおかしい気がするのだが」


「おかしくないですよ。普通です。はい、あーん」


 文句を言いながらも吸血鬼がご飯を食べてくれる。

 それだけ美味しかったのだろうか。


 良いことだ。

 一緒に作った子供たちもきっと喜んでくれる。


「そう言えば、名前は?」


「今さら聞くのか……」


 私とした事が、吸血鬼という存在を目の前にして忘れてた。


「仕方ないでしょ、吸血鬼は初めてなんだから」


「良かろう我の名を覚える事を許す。我はルイスだ」


「ルイス? それだけ?」


「あぁルイスだ」


「分かった暫くはよろしくね、ルイス。私はリネット・ホワイトリー、一応怪我が治るまでは診て上げる」


「何、その後は森に捨て置くと言うのか!?」


 当たり前でしょ……。

 訳の分からない吸血鬼を、子供たちの近くにずっとは置けない。


「子供たちに悪影響です。えっと、近くに異種族にも優しい国があった筈」


 私は近くの机から地図を取り出そうと手を伸ばした。


「いてっ……」


 木の引き出し。

 いつの間に劣化していたのか細い木の繊維が指に刺さり、血が溢れてしまう。


「子供たちが触る場所じゃなくて良かったけど、危ないなぁ」


 大人が居ないここでは私が直す仕事だ。

 すぐに手を治療しようとする。


 けれど――それより先に動いたルイスが、私の手を掴んだ。


「ちょ――! ルイス! あんた」


「好機!」


 そのまま私の指先が食べられ、指先から温かい感触が伝わった。

 小さな傷口から血が抜け、身体の魔力が吸い取られる。


「だめっ……」


 片手で抑えていた食器が地面に転がり落ちた。

 身体から力が抜け、不思議と魔力の流れが乱れる。


 それに熱い……。

 何これ、これが吸血鬼の……。


「止めなさいっ!」


 空いた手で叩こうとする。

 けれど、私の手がルイスに止められてしまう。


 ――私は悪くないんだからね。


 私は、治癒の護符に魔力を当てた。


「うゔゔぁあああああああああいたいたいたいたたたいたいたい!」


 背中に手を伸ばそうとするルイスがベッドの上で元気にのたうち回る。

 私の手もすっかりと離されていた。


「はぁぁ……はぁぁ、この変態吸血鬼ッ! なんて事するのよ!」


 僅か数秒。

 なのに息が乱れ、身体が熱を帯びていた。


 危なかった、こんなのを首筋で吸われたら……。


 だめだめ、変な事を考えたら駄目なんだから。


 この吸血鬼の思うつぼじゃない。


「いたいたいたたいたいたいたいたいっ! 頼む! 止めてくれ! 悪かった! 俺が悪かったから!」


 持続型の治癒だ。

 そう簡単には、消そうとしない限り消えない。


 それに――吸血鬼からしたら毎秒、針を刺されているような感覚なのだろう。


「聖女さま? 凄い声が聞こえましたけど」

「どうかしたのか?」


 ロイとエミリーが覗き込んでくる。


「お前ら! 頼む、この悪魔を止めてくれ! このままでは死んでしまう!」


「誰が悪魔ですって?」


 私は更に魔力を護符に当てた。

 ちょっと威力が強まり、吸血鬼が激しくのたうち回る。


「いにゃぁあああああああああ」


 いにゃぁああああって何?

 っと思ったが、元気そうで何よりだ。

 さっきの一瞬で傷口は治ったのか、本当に元気になっていた。


「どうなってんだこれ……」

「さぁ、分からないわ」


「あなた達? 見なくて良いのよ? 向こうで食事。してきなさい?」


「お、おう……」

「はい。聖女さま」


 ロイとエミリーの二人が静かに扉を閉め始める。


「お願いだ、見捨てないでくれー!」


 子供に助けを求める外見がかっこいい吸血鬼。

 情けない……。


 こんなのがおとぎ話として、後世に語り継がれるかもしれないと思うと頭を抱えたくなる。


「あああぁぁぁぁぁぁあああ頼む、本当に止めてくれ!」


「聖女さま、血を吸ってしまい、申し訳ありません。はい」


「えっ?」


 手を向け、手からも治癒魔法を当てる。


「いたい! いたい! いたいぞ! 死ぬ、本当に死んでしまう!」


「聖女さま、血を吸ってしまい、申し訳ありません。はい」


「聖女さま! 血を吸い、申し訳ありません!」


 少し違うけど、良いか。

 手から出す治癒魔法を収め、背中の護符に当てていた魔力も弱める。


「ふぅぅ、はぁぁ、はぁぁ、死ぬかと思った……恐ろしい悪魔め……」


「ん? 何か言った?」


「いや、何も!? 何も言ってないが? ですが……?」


「そう? なら良かったわ。それと、この床に落とした食べ物。ちゃんと掃除するわよね?」


「もちろんだとも、俺様が汚してしまったのだからな。食事の後は綺麗にするのが礼儀だ」


「そう、良かった」


 私は吸血鬼のルイスに笑みを見せる。

 本当に分かっているのよね? それ私の夜ご飯だったんだからね?

 人の食事を奪っておいて、血も貰うってなに?

 許されると思ってるのかしら。


 どう落とし前をつけてもらおうかしらね。


「悪かった。ほんとに……」


「分かれば良いのよ、分かれば。それとさっきも言ったけど、子供たちには」


「分かっている。絶対に手を出さない、我の血にかけて誓おう!」


 吸血鬼のその言葉がどれほど意味があるのかは分からない。

 けれど、命じゃなくて血にかけるのだから、吸血鬼にとっては重いと信じたい。


「分かってくれたみたいで、良かったです」


「俺様は聞き分けが良いからな」


 どこがだ。

 何回、駄目って言ったのに血を吸ったと思ってるのよ。


「はぁ、もう次はありませんからね」


「それは困る! 貴様の血は実に美味しかった、また――」


「あげるわけないでしょ!」


「ぐへぇ――」


「あっ……」


 起き上がろうとしたルイスの腹に、拳を叩き込んでしまった。

 それも治癒を纏った手だ。


「あぁぁ……しぬぅ……」


「そんなけ元気だったら、死なないわよ」


 動けなくなったルイスの代わりに床を綺麗にして、私はその部屋を後にするのだった。



 ***



 それから一週間が経った教会の夜。

 聖女であるリネット・ホワイトリーは既に就寝中だ。


 その代わり、夜ふかしをしている少年たちとルイスが同じ部屋に居る。

 何だかんだあっても追い出そうとしたリネットと、反抗したルイス。


 拾って来た子犬を森に放つのか!

 などと訳の分からない事を言われ、リネットは頭を抱えていた。

 そして最後は――子供たちの提案で一緒に住んでいる。



 それはそれ、これはこれ。

 


 ――ギィィィ、っという音と共に木の扉が開く。

 そして部屋の中を、ろうそくの火と共に覗くのはリネットだ。


 誰一人喋らず、瞼を閉じたルイスと子供達。


 こんな時間に起きているのがバレてしまえば、先日のように何をされるか分かったものではない。

 一瞬にして部屋に緊張感が走り、全員が息を殺した。


「良し、今日は眠っているわね」


 先日起きていたルイスと子供達を見つけたリネットは、笑顔で怒った。

 それはそれは長く、朝から始まり昼が過ぎるまでは。

 お昼ご飯もなく、その後も教会の清掃。


 子供たち含め、全員がそんな思いは嫌だと思っている。


 そしてゆっくりと扉が閉ざされた。

 離れている足音を聞き、ルイスが合図を出す。


「良し、もう良いぞ」


 全員が布団から顔を出して、ルイスが生み出した魔法の光が部屋を薄っすらと照らし出した。


「ふぅ、死ぬかと思ったぜ」


「あぁ全くだ」


 同じ認識がルイスと少年たちの中にはある。


「我はもう、リネットだけは怒らせないと誓った」


「同じく」

「僕も……」


 男が揃えば馬鹿をする。

 それは人間でも吸血鬼でも同じだった。


 企んだ悪巧みの数だけリネットに怒られ、もうルイスですら歯向かう事はない。


「あれは怒らせてはいけない、悪魔だ」


「吸血鬼にそう言われるって、聖女さまは本当に悪魔なのか?」


「えぇどうしよう。僕たち、食べられちゃうのかな」


「心配するな、その時は我が貴様らをまも――」


「こんな時間に起きないって、何度言ったら分かるのッ!」


 扉が開かれ、全員が口を開けてすぐに声を出す。


「「ごめんなさい!」」

「これには深い事情が」


「ルイス! あんただけ謝ってない! ちょっと来なさい!」


「そんなここは連帯責任とうものになるんじゃ」


「子供と大人。なる訳ないでしょ! 良いから来なさい!」


「助けてくれ。ロイ! マシュー! お前達ー!」


「悪い、俺にはどうする事もできないぜ」

「ごめんなさい」


 ロイとマシューが口を開く。


「さっさと寝る! 何時だと思ってるの!」


 そして私は――ルイスを連れて行くのだった。



 ***



 その日。


 森に居た魔物たちが、何故か教会から離れた。


 一説によると、

 呻く吸血鬼の声を聞いたからだとか。



 理由はどうであれ、平和なのは良い事です。



 そんな平穏な教会でこれからも皆と一緒に、私は健やかに生きていいこうと思います。




 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


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 ――海月花夜――


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