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私は正しい

『アウロ。今回は第七層になります。対象情報を送信します』


 デバイスにデータが流れ込む。

 倒産。浮気。多額の負債。


「うわ、フルコースだな」

『対象は“失敗を認めない傾向”が強いです』

「なるほど。だから成功してる夢か」

『スリープいけますか?』

「リンちゃんこそ寝ないと美容に敵だよ」

『……』

「ごめん! 行ってきます!!」


 拍手が鳴り止まない。

 まぶしい照明。

 スーツ姿の男が壇上で両手を広げる。


「皆さんのおかげです!」


 客席は総立ち。

 涙。笑顔。歓声。

 アウロは最後列に着地した。


「……うわ、なんだこれ」

『第七層。精神安定値、極めて高水準』

「幸せ絶頂ってやつか」


 壇上の男――四十二歳。

 胸元に光るバッジ。


「おいおい、あれか」

『ジョブ生成反応を確認』

「めんどうだな」


 りんの声が続く。


『分散人型フォレストです』


 アウロは客席を見渡す。

 全員が同じ笑顔。

 同じタイミングで頷く。


「つまり」

『客席全員がフォレスト構造体です』

「はは。マジかよ」


 拍手がぴたりと止む。

 全員の視線が一斉にアウロへ向く。

 揃いすぎている。


「社長は正しい」

「社長は成功している」

「社長は失敗しない」

 

 低い声が重なる。


「……気持ち悪ぃな」


 アウロは通路を歩き出す。

 社員の一人が笑顔で振り返る。


「おや、新人かな?」

「いや、ただの配達員だよ。社長さんに現実を届けに来た」


 壇上へ向かう。

 壇上の男が微笑む。


「現実?」

「倒産。浮気。訴訟。いっぱいあるなあんた。」


 フォレストは変わらず笑顔で拍手を続ける。


「冗談はよしてくれ。私は成功している」


 男の胸の光が強くなる。


『ジョブ反応、上昇してます。』

「なあリンちゃんここだけのはなしこんなやつのジョブいるか?」

『業務命令です。』

「いらないんでしょ!やっぱり。まあいいや」

  

 アウロは拳を鳴らす。

「誰と話しているのだ、わたしが話しているというのに」

「えっ?かわいい子と話す以上に大事なことってあるの?」

「無礼なおとこだ。みなのものこいつを摘み出せ。」

 

 「みなのもの、摘み出せ」


 床が歪み、客席の影が伸びる。

 無数の腕が形を成す。


「社長を守れ」

「社長は我々の誇りだ」


 アウロは肩を回す。


「七層ってのはよ」


 一歩踏み込む。


「幸せなやつほど、タチが悪い」


 床から伸びた無数の腕がアウロを包囲する。


「社長を守れ」

「社長は正しい」


 同じ声。同じ音程。同じ間。


「うるせえな」

 

 アウロは踏み込む。

 右拳。

 一体を粉砕。

 続けて左。


 二体目を吹き飛ばす。

 だが、崩れた影は床へ溶け――

 客席の別の席から、同じ顔が立ち上がる。


「社長は失敗しない」

「……無限湧きかよ」


『構造再生成を確認。中心核は壇上の対象です』

「だろうな」


 アウロは跳躍し、壇上へ飛び上がる。

 社長が静かに手を広げる。


「なぜ邪魔をする」

「邪魔?」


 拳を振り下ろす。

 直撃。社長の体が砕ける。

 拍手が止む。

 静寂。

 次の瞬間。


 客席中央に、社長が立っている。笑顔。


「私は成功している」


 壇上にも、社長。

 通路にも、社長。

 バルコニーにも、社長。


「……は?」

『対象意識が空間全体に分散しています』

「七層ってのは、こういうことか」


 社長たちが同時に口を開く。


「失敗は存在しない」

「失敗はなかった」

「私は正しい選択をした」


 胸元の光が、会場全体へ広がる。

 天井に企業ロゴが浮かぶ。

 株価チャート。

 祝福の紙吹雪。

 過剰な成功演出。


「見ろ」


 一人の社長が近づく。


「これが私の選択だ」

「現実では裏切られた」

「だがここでは違う」


 笑顔のまま、低い声。


「私は必要とされている」


 その言葉に、わずかな歪みが混じる。

 アウロは気づく。


「……必要と“されたかった”んだろ」


 拍手が、ほんの一瞬乱れる。

 社長の笑顔が硬直する。


「違う」

「私は成功している」

「成功してるやつはな」


 アウロはゆっくり歩く。


「“している”なんて言い聞かせねえよ」


 会場の照明が揺らぐ。

 胸元の光が強く脈打つ。


『ジョブ生成率、八十パーセント』

「リンちゃん」

『はい』

「これ、完成させたら面倒くせえな?」

『極めて』

「だよな」


 アウロは拳を握る。


「じゃあ、その前に折る」

 社長たちが一斉に叫ぶ。

「私は正しい!」

「私は成功している!」

「私は失敗していない!」


 アウロが低く呟く。


「失敗しても、生きてんだよ」


 右手のコインがわずかに光る。

「流石にまだ早いけどだすか、あれ。」


 拳を構える。


「来いよ、理想。選択をおれは否定してやるよ」

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