511ー神獣だった
笑っていたディさんが、少し真剣なお顔で教えてくれた。
「だからね、エルとロロが冒険に出た時に僕を呼んだだろう? あの時もきっと魔族が魔鳥を動かしていたのだと思うよ」
「ぴぇッ!?」
「ぼくたちも、みられてたのか!?」
え、そうなの? 魔族に見られてたの? どうしてだ? 俺もエルも鑑定眼は持っていないのに。可愛いちびっ子だとか思われちゃったのかな?
「だってピカとチロも一緒だったでしょう?」
「うん、ぴかにのってたのら」
「おう、かっちょよかったな!」
エル、かっちょいいのは分かるけど、今はそこが問題なのじゃない。
「どうして神獣がいるんだ? て、思ったんじゃないかな?」
あ、忘れてた。ピカとチロはこの世界の主神である女神の神獣だ。いつも一緒にお昼寝したり遊んだりしているから、そういうのコロッと忘れちゃう。
「魔族には分かるからね」
「そうでっす。ピカとチロを見ていたのでしょう。なのに、ちびっ子が神獣に乗ってるぞ? とでも思ったでしょうね。ふふふ」
クリスティー先生が、お上品に笑いながらお茶を一口飲んだ。
いかん、それって俺たちがいるから目立っているってことじゃないか? レオ兄の鑑定眼とピカとチロだ。もしかしてそれでこの領地を狙っているのか?
それって、それって……と考えると冷静ではいられない。崖っぷちに追い詰められた気分になって、俺の前髪パッツンの額に汗が噴き出てきた。
「しょ、しょれって……ボクたちがいるから」
「本当に、ロロは賢いなぁ」
「ディさん、でもそうなら……」
「ロロもレオも違うよ。魔族が狙っていたところに、たまたま鑑定眼を持つレオと神獣がいただけのことだよ」
「そうですね。厄介な者がいるとでも思ったのでしょう。ですから執拗に魔鳥で襲っていたのでっす」
もしかして、レオ兄とピカとチロをやっつけようとしたのか? いかん、もう我慢できない。俺はレオ兄みたいに冷静ではいられない。
「れおにい! きけんなのら!」
「れおにい!」
俺とエルが、お祖父様みたいに取り乱しちゃった。レオ兄を守らなきゃ、隠さなきゃって。ピカとチロは神獣だもの、きっと大丈夫だ。いざとなったら、女神の世界に避難すればいい。だけどレオ兄は普通の人間なのだ。
「ロロ、エル、ディさんとクリスティー先生の話を最後まで聞こうな」
「あい、にこにい」
「おー、ちょっとびっくりしたな」
とっても落ち着いているニコ兄に言われちゃった。ニコ兄も心配なはずなのに。だって俺の手を握ってくれているニコ兄の手も、汗ばんでいるもの。
「にこにい、しんぱいなのら」
「おう、分かってるぞ。だからちゃんと聞かなきゃな」
「わかったのら」
「おやおや、ニコもお利口さんでっす」
クリスティー先生は、今度はクッキーを手に持っている。ここの名物ナッツ入りのクッキーは美味しいよ。
「くりしゅてぃーしぇんしぇい、なっつがおいしい」
「はい、とっても美味しいでっす」
ふふふ、そうだろう? 俺もこのナッツ入りのクッキーが大好きだ。ルルンデに帰る時は、このナッツをたくさん貰って帰ろうと思っている。
「おいしいのら」
「なっつな」
「しょうしょう」
俺とエルもモグモグと食べる。食べているうちに、ちょっと忘れちゃったりして。レオ兄が狙われているかもってことは覚えてるけど。
どうして魔族がこの領地に目を付けたのかは不明だ。もしかして早い段階でレオ兄を見つけて追って来たのか? それともピカとチロか?
そんなの関係なくまずは手始めにと、この領地を狙っていたところに俺たちがやってきたのか?
「まあそれは予測なので、真実は分からないのでっす」
「そうだね、それよりも対策を考えよう」
そうそう、前向きに検討しなければならない。俺はまた思い出したように、お顔に力を入れる。モグモグとしているし、手にはナッツのクッキーを持ったままなのだけど。
「ろろ、なんら?」
「まえむきに、けんとうしゅるのら」
「おー?」
エルが分かってくれない。ここは同じテンションでいてほしいところだ。
「クリスティー先生、300年前の辺境伯のご令嬢が魔族を討伐したと聞きました」
「ああ、そんなこともありましたね。リアはよく覚えてますね~」
え……『そんなこともありましたね』と、きたよ。クリスティー先生にとっては、そんなことなのか? とっても凄いことだと思うのだけど。リア姉はそこに拘っているよね?
「なら、私も! 私も魔族と戦います!」
ああ、絶対にそう言うと思った。でもリア姉の気持ちも良く分かる。
「はいはい、リアは落ち着きなさいな。あの時は令嬢だけではありませんでしたし」
「そうなのですか?」
「そうでっす。令嬢の従者二人も一緒でしたね。ご親戚も一緒でしたでしょうか?」
「アハハハ、クリスティー先生はあんまり覚えてないんだよ」
「何をいいますか、ディ。私はその場にいなかったからでっす」
「なら、クリスティー先生の手を借りずに、人の手だけで倒したのでしょう?」
「はいはい、まあ、そうですね。え? ディ、そうでしたっけ?」
「違うよ、確かほら、チビドラゴンやブラックフェンリルもいたよ」
「ああ、そうでしたね。ふふふ」
え? ドラゴンだと? チビってどうなんだ? ちょっとよく分からないぞ。




