512ー温度差が
コホンと一つ咳払いをして、クリスティー先生が言った。でも、あんまり覚えてないのだろう?
「まあとにかく、令嬢だけでなく何人もの人が力を合わせて討伐したのでっす。それも二度戦ってやっとでしたね」
「二度……」
クリスティー先生が、確か……と言いながら教えてくれた。一度倒したと思ったら、翌日巨大化して復活し当時の王城を半壊させたらしい。
それでまた総力戦で臨み、やっと倒した。しかも令嬢の超特大級の魔法でだそうだ。その令嬢って凄いのだ。リア姉より、おてんばさんだ。
「リア、落ち着かないと駄目だよ。一人焦ると倒せるものも倒せなくなるよ」
「だって、ディさん」
「気持ちは分かるけどね、ここは落ち着こう。みんなで力を合わせなきゃいけないから」
「はい、分かりました」
みんなで力を合わせたら、やっつけられるのか? なら俺もやるぞ。ピコピコハンマーは持ってきているし、ディさん作の杖だってある。
ピカやチロもいる。そのチビドラゴンやブラックフェンリルはいないけど、神獣が二頭もいるんだ。なんとかならないか?
「ここの兵も強いですからね」
「そうだよね」
エルフさん二人は、ナッツのクッキーを美味しそうにサクサクと食べている。あれれ? なんだか温度差を感じるぞ。
「でぃしゃん、おいしい?」
「うん、美味しいよ。とっても香ばしいよね」
うん、そうなのだけど。そうじゃなくて。
「ろろ、ちゃんといわなきゃ、だめっぽいぞ」
「しょうなのら」
エルは俺が言いたいことを、分かってくれているらしい。
「でぃしゃん、まじょく」
「うん、魔族がどうしたのかな?」
いやいや、だからね。
「たおしぇる?」
「ロロが? ロロ一人では無理だよ~」
「しょうじゃなくて」
「ふふふ、大丈夫だよ。心配いらないって」
「ディ、ロロは不安みたいですよ」
「ロロは可愛いね~!」
違うから。そうじゃなくて、みんなで頑張ったら魔族を倒せるのかな? だってお祖父様が、別次元の強さだって言ってたもの。
「さて、美味しいお茶とクッキーもいただいたことですし、少し真剣なお話をしましょうか」
やっとだ。クリスティー先生が、一口お茶を飲んで話し出した。
「魔族だからと言って、人に倒せないわけではありません」
おお、そうなのか。それを聞きたかった。
「ですが、油断はできない相手でっす」
「だからこれから特訓をしよう」
クリスティー先生とディさんがニッコリと微笑んだ。
特訓? 何の特訓をするのかな? 俺はまだ剣を持てないよ? 手だって小さいし、しかもこの丸いフォルムの体を見てほしい。機敏に動けるタイプではない。
「魔族と戦うのでしたら、精神異常や状態異常、毒をシャットアウトするシールドは必須でっす」
ん? えっとぉ、なんだって?
「えっちょ、えっちょぉ……しぇ、しぇいしん?」
「ふふふ、可愛いでっす! その舌足らずな感じがなんとも言えませんねッ!」
「アハハハ! ロロったら、チロができるんじゃないかな?」
なんですとッ!? チロさん、チロさん、なんとか異常を防ぐシールドができるの?
ピカと一緒におやつのクッキーをサクサクと食べていたチロが、頭を上げた。
「キュル?」
ほら、分かってないぞ。ピカさん、説明して。俺もよく分かってないから。
「わふ?」
え……ピカも分かってないぞ。どうするのだ?
「クリスティー先生、ディさん、魔族は私たちの娘夫婦の仇なのです。もちろん、同じ魔族かどうかは分かりませんが、私たちまで娘夫婦と同じことになるわけにはいきません」
今まで黙っていたお祖母様が、瞳に決意を浮かべながらそう言った。お膝の上に置いた手をギュッと握りしめている。
それは俺たちだってそうだ。リア姉が言ってた。両親の仇だって。マリーの息子夫婦の仇でもある。ここに同じ思いの人たちが集まっている。
そんな場所を狙った魔族も、因縁なのかと思ってしまう。
だから俺はクッキーを置いて、拳を上げて言った。
「ボクたちが、たおしゃないと、らめ!」
「ろろ、ろうした?」
えー、エル。ここは一緒に拳を上げてくれるとこだろう?
「ロロとエルはまだちびっ子だからね」
「そうでっす。ちびっ子は守られるものなのでっす」
「らって、でぃしゃんがちゅくってくれた、ちゅえもある!」
「ぼくも、ぴこぴこはんまーがある!」
おう、良い感じだ。エルと一緒に決意の拳を上げよう。おー!
「ロロ、落ち着け。ちゃんと話を聞こう」
「あ、あい」
「にこにいは、おとならな」
そうそう、今日はニコ兄ったらとっても冷静だ。いつも一緒に騒いでくれるニコ兄が。
「絶対に負けられないんだ。俺たちがここで負けたら、たくさんの人たちが犠牲になる」
「ニコ、少し会わないうちに大人になったね」
「ディさん、なんだよ。だってそうだろう? クリスティー先生、ここで守れなかったら次はきっと辺境伯領に行くんだろう?」
「そうなるでしょうね。ですが、辺境伯家はみなさんお強いでっす」
クリスティー先生が教えてくれた。辺境伯家の人たちが、一緒に来ると言っていたそうなのだけど、領地の防衛を最優先にしてもらったらしい。
なにしろ、お祖父様の領地にもルルンデにもダンジョンはあるけど、一番大きなダンジョンがあるのは辺境伯領だから。




