487ー物理です
登り出すとすぐに頂上が見えてきた。そんなに高くない。そこに着いて僕は驚いた。声も出なかったくらいだ。
「なんだこの数はッ!?」
お祖父様が思わず声を上げた。目の前に広がっていたのは、魔鳥の大きな巣だ。小枝や枯れ葉が敷き詰められ、奥にはこんもりと盛られている。そこを守るように上空を旋回している魔鳥の大群。巣にも魔鳥が群れていた。僕たちの様子を窺っている。
「なるほど……これは放ってはおけんな」
「大旦那様、どうしますか? きっとこの巣から魔鳥が飛んできていたのでしょう」
兵士さんがそう言った。辺境伯領からこの領地に来る道中でも、魔鳥の襲撃に遭った。ロロとエルが二人で冒険だといって外に出た時にも、魔鳥に襲われたという。お邸にも魔鳥が飛んできて撃退した。こんなに魔鳥がいるなら、納得できる。
「レオ」
「あ、はい」
「どうだ? 何か分かるか?」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「レオ、しっかりしなさいよ」
「姉上、分かってるよ」
驚き過ぎて、すぐに反応できなかった。だってそこには巣だけじゃなくて、大きな卵が数えきれないくらい産み付けられていたから。
登り切った先は、そこから一段盛り上がっているような場所にある巣に卵がびっしりと並んでいた。
その周りには魔鳥が運んできたのだろう、枯れ枝や枯れ葉で囲まれている。卵もその上に並んでいて、一旦火が着くと燃え上がるだろうと思えるような場所だった。
ここは産卵場なのか? しかも異様な空気が漂っている。縦に立ってびっしりと並んでいる大きな卵。
コッコちゃんたちの卵でも大きいと思っていたのに、そんなの比べ物にならない。1メートルはあるだろうか?
気持ち悪いのはその色だ。どす黒い赤と黒のまだら模様。ぼんやりと不気味に光って見えるのは魔力を帯びているからだろうか?
それを僕は鑑定眼で見る。何か情報をとじっと集中して見た。
「これは……」
「レオ、何か分かったか?」
「ここは以前からあるのではないですね。つい最近できたんだ。なのにこの数ってどういうことなんだ? それに……えっと」
「レオ、何なの? ねえ、もう燃やしてもいい?」
「姉上、待ってよ。ピカ、これってシールドの一種なのかな?」
「わふわふ」
「そうか、魔鳥はそんなスキルを持ってないよね?」
「わふ」
やっぱりそうだ。シールドの一種なんだ。魔法での攻撃は当然魔力を使う。その魔力を含んだ攻撃だけ道筋を歪めるものだった。魔法攻撃防御だけに特化したシールドとでも言うのかな。
僕たちが使っている魔石で作り出すシールドとは少し違う。あのシールドは物理も魔法も通さない。クーちゃんのシールドは味方と敵も区別するとディさんが言っていた。
「お祖父様、シールドの一種なのですが、魔法攻撃だけ歪めるみたいです。魔力を含まない物理攻撃なら通ります」
「おう、物理か!」
その通りなのだけど、でも魔鳥のスキルじゃないシールドなら、どこかに……あるはずだ。
「ピカ、どうかな? 探してみて」
「わふ」
ピカは僕の考えていることをよく分かってくれる。タッとどこかへ走って行った。ピカに任せておけば大丈夫だ。
その時いきなり、ガキン! と音がした。お祖父様が剣を振り上げ、卵を割ろうと殴っていたんだ。いやいや、剣で殴るってどうなんだ? マジでびっくりした。
「お祖父様、周りの魔鳥にも警戒してください!」
「おうッ! 分かってるぞーッ!」
お祖父様が大きな剣を、卵に向かって思い切り振り下ろした。
――ガキーンッ!
「うおぉーッ! 硬いぞぉッ!」
お祖父様は手加減というものをしない。全力で殴りかかるから、弾かれた反動も大きい。それでもお祖父様は、ひるまない。そのまま何度も剣を振り下ろす。
だけど魔鳥だって黙ってはいない。羽を畳み体を細くして鋭い嘴を向けて突撃してくる。上空から勢いよく落ちてくる魔鳥を、兵士さんが剣を構えて迎え撃つ。
「一班は卵を割れ! もう一班は魔鳥を迎え撃つんだぁーッ!」
お祖父様の指示で、おおーッ!! と雄叫びを上げながら兵士さんたちは動く。次から次へと魔鳥が落ちてくる。風の刃を飛ばしてくる魔鳥までいる。相手は飛んでいるから、その分こっちは不利だ。
「落とします!」
「レオ! 頼んだぞーッ!」
「はいッ!」
僕は大きな風の刃を幾つも作り出し、魔鳥目掛けて放った。魔鳥の間を一周しながら、大きく広げた羽を切り裂いていく。ボトボトと落ちてくる魔鳥。
「レオ! 焼くわよ!」
「待って! 姉上は魔力の温存だ!」
「ええー!? 分かったわ!」
姉上はまだ魔力操作が完璧じゃない。その上、どれだけの魔力を使うかも分かっていない。なら、姉上の魔力は温存だ。
まとめて焼き払ってもらうつもりなのに、肝心な時に使えなかったら意味がない。
僕がそう言ったら、姉上は落ちて来る魔鳥目掛けて剣を振り下ろす。
僕たちが魔鳥と交戦している間にも、お祖父様は卵をガンガン殴っていた。兵士さんたちも、お祖父様と同じように何度も卵を叩いている。
すると何度目かでパキッと罅が入り、お祖父様が叩いていた卵がバキッと割れた。卵が割れる音とは思えない重い音がした。
「うおーッ! なんだこれはぁーッ!」
お祖父様の叫び声の後、次々に驚いている声が上がる。




