488ー2025クリスマスSS ぷれれんと
※本編とは全く関係ありません。
ルルンデの街にも冬がやって来た。外は寒いけど、俺はいつものように、ピカに乗って畑の中を行く。毎日の日課になっているからね。さすがに寒くて日向ぼっこはできないけど。
「ぴか、しゃむいのら」
「わふッ」
ピカの吐く息も白く見える。空気が冷たくて、澄んでいるように感じる。いつもは緑の匂いがいっぱいするのに、冬は同じ緑の匂いでも少し違う。枯れ葉の匂いや土の匂いの方が強く感じる。家々からは暖炉の匂いもする。
はぁ~ッと大きく息を吐くと、真っ白に見える。ピカの手綱を持つ手も冷たくて、俺のムチムチほっぺもピンとつっぱるような気がする。
こんな寒い日でも、クーちゃんの赤ちゃんたちは池に入っていたりする。元気だね。ああ、もっと元気な子たちがいた。リーダー率いるコッコちゃんの雛たちだ。それに、俺がコネコネして作ったプチゴーレムたちは、相変わらず畑の中を走り回っている。
「ロロ坊ちゃま! できましたよ!」
「うん! まりー!」
マリーが家の前に出て、大きな声で俺を呼んでいる。
何ができたのかと言うとね、俺からみんなへのクリスマスプレゼントなのだ。
俺が前に刺繍したハンカチ、あれをバージョンアップさせたものを、みんなの分刺繍していた。それをマリーがアイロンを当てて仕上げてくれてた。
前は小さな葉っぱ模様だったのだけど、ちょっぴり上手になったのだよ。
蔦で繋がった葉っぱを刺繍したハンカチを、レオ兄とニコ兄とディさんとドルフ爺に。小さな花模様を刺繍したものをリア姉とマリー、エルザ、ユーリア、セルマ婆さんに。
前のはちょっと嫌な感じがするという程度だったのだけど、今度のは違うよ。ちゃんと防御を付与している。もちろん運上昇も忘れない。何日も前からチクチクと刺繍をして、頑張ったのだ。
「まりー、どう?」
「はいはい、お上手にできていますよ」
「よかったのら。おりぼんを、つけようっかな」
「ふふふ、プレゼントですものね」
「しょうなのら」
マリーにはバレちゃっているけど、秘密のプレゼントだ。
今日はクリスマスイブ。夕ご飯に角兎を焼いてもらって、朝からマリー特製のいちごのケーキも作ってもらった。俺も少し手伝ったのだよ。ふふふん。
みんなはクリスマスを知らないけど、でも俺はやりたい。だから今日はマリーに相談して、そうすると決めていた。
ドルフ爺とセルマ婆さんも夕ご飯に呼んでいる。みんなびっくりするかなぁ?
「ふふふ、たのしみなのら」
「はい、そうですね」
マリーがハンカチを一枚ずつラッピングしてくれる。前の世界みたいに豪華なことはできないけど、おリボンだけでもね。
元気にお外を歩いていたピカも、おうちに入ると暖炉の前に陣取って寝そべっている。その周りには、親コッコちゃんたちだ。
俺はピカにダイブすると、モフッモフなピカの毛が温かくて気持ちいい。
「わふ?」
「ふふふ、もふもふなのら」
「コッコ」
「こっこちゃんもね」
みんな冬の毛になっているのだね。コッコちゃんたちも柔らかい羽毛が増えて、いつもより体が丸っこく見える。
「坊ちゃま、角兎は丸焼きにするのですか?」
「しょうしょう、こんがりと」
「はいはい。坊ちゃまはケーキにいちごを飾りつけてくれますか?」
「うん! ほいっぷくりーむも!」
「はいはい」
ケーキはもう仕上げだ。角兎も、あとはじっくりと焼くだけだ。周りにプチトマトやお野菜を飾り付けて、角兎のお肉には薄っすらと蜂蜜を塗って艶を出す。そのままオーブンに入れて、夕ご飯のタイミングで焼けるように。
「はやくかえってこないかな~」
「ふふふ、楽しみですね」
「しょうなのら」
俺がこの世界で初めてのクリスマス。去年はそれどころじゃなくて、いつもマリーにくっついて泣いていた。この世界の何もかもが怖かった。
突然、この世界で記憶を取り戻したからかな? まだ今より小さかったからかな? よく分からないけど。
でも今年は違う。マリーと一緒に歩いて教会まで行けるようになった。ルルンデを出てお墓参りに行ったし、ルルウィン祭にも参加した。俺はこの世界で、ちゃんと生きている。
だからクリスマスにかこつけて、みんなにありがとうを言いたいのだ。普段は照れくさくて言えないから。
「ロロ坊ちゃま、そろそろリア嬢ちゃまとレオ坊ちゃまが帰ってこられる時間ですよ」
「うん、おしょとれ、まちゅのら」
「ただいま!」
「ふぅ~、寒かったわ~」
ニコ兄とユーリアが帰ってきた。寒そうに、手にふう~と息を吐きかけている。
「にこにい、ゆーりあ、おかえりぃ」
「おう、ロロ。外に行くか?」
「うん、かえってくるのら」
「そうだな」
ニコ兄と一緒に外に出る。もう冬だというのに相変わらず麦わら帽子を被ったディさんが、お野菜を籠にいっぱい入れて戻ってきた。
「ニコ、ロロ、お出迎えかな?」
「でぃしゃん、しょうなのら」
「ディさん、またそんなに採ってきたのかよ」
「え? こんなの少ないくらいだよ」
ええー、大きな籠にいっぱいなのに。そのほとんどをディさんが食べるのだけど。
遠くの方に、リア姉とレオ兄の姿が見えてきた。俺は精一杯手を振りながら大きな声で呼ぶ。
「りあねえー! れおにいー! おかえりぃー!」
すると二人も手を振りながら、こっちに走って来てくれる。
今日も無事に帰ってきてくれた。こんな毎日が俺にとっては大事なのだ。
「ただいまー! ニコ! ロロ!」
いつも通りに俺に抱きついてくる。ニコ兄の名前も呼んでいるのに、俺にだけ抱きつくなんてちょっと不満だ。だってもれなくお腹をモミモミが付いてくるから。
「りあねえ、やめれ」
「もう、ロロったら冷たいんだからぁ」
「ただいま、ニコ、ロロ。寒いから家に入ろうか」
そうそう、今日の晩ご飯はドルフ爺とセルマ婆さんも呼んでいるのだよ。
みんなで食卓を囲む。おうちの中はずっと暖炉に火が入っているから、ポカポカだ。冷たかった俺のほっぺも、ほんのりピンク色になってくる。
「今日はご馳走じゃない!」
「マリー、今日なんかの日だったっけ?」
「あらあら、今日はロロ坊ちゃまが考えられたのですよ。皆さんで一緒に食べるのだとおっしゃって」
ふふふん、とちょっぴり胸を張る。ぽよよ~んとしたお腹じゃないよ、胸なのだ。
良い匂いがして、こんがりと美味しそうに焼けた角兎。本当はチキンの丸焼きなのだけど、とコッコちゃんを見る。
「コケッ?」
「なんれもないよ」
まさか食べたりしないよ、そんなことはできない。もう一緒に暮らしている家族なのだから。
「あら~、私たちまでご馳走になっちゃって良いのかしら~」
「まあ、たまにはいいか? ワッハッハッハ!」
遠慮がちなセルマ婆さんとは対照的なドルフ爺。
暖かい時期はお外でみんな一緒に食べたりもするのだけど、寒くなるとそれもしなくなった。だから久しぶりだ。
たまにはこうして家に招くのも良いだろう?
「さあさあ、ロロ坊ちゃま。先にプレゼントをお渡ししましょうね。食べた後だと眠くなってしまいますから」
「うん、わかったのら」
俺はマリーがおリボンをかけてくれていたプレゼントを手に、一人ずつ手渡していく。
「あい、りあねえ」
「ありがと! プレゼントなの?」
「うん、いちゅも、ありがと」
「やだー! 可愛いぃ!」
はいはい、さっさと次に行こう。
「れおにい、ありがと」
「ロロ、これってバージョンアップしたの?」
「しょうなのら。ちゃんと、ぼうぎょをちゅけたのら」
「そう、ありがとう。毎日持って行くね」
そう言ってレオ兄は優しくそっと抱き寄せてくれる。これだよ、これ。ガシィッと抱きつくのではなくて、そっとだよ。この包容力と優しさをリア姉にも期待したいとこだ。
「にこにいも」
「おう、ありがとな!」
「でぃしゃん、いちゅもありがと」
「え、僕にもあるの!? ありがとー!」
ほら、ディさんも優しく頭を撫でてくれる。リア姉、ちゃんと見ているかな? これだよ、これ。
「どるふじいと、しぇるまばあしゃん。いちゅもありがと」
「まあ~、ロロちゃんったら、ありがとう」
「ワシもか! ありがとうな!」
それから、最後になっちゃったけど。
「まりー、ゆーりあ、いちゅもありがと」
エルザは帰ってきたら、マリーから渡してもらう。
「ロロ坊ちゃま、大事にしますね!」
「あらあら、ありがとうございます」
よし、俺のミッションは終わった。あとは美味しく食べるだけだ。
みんなで一緒にたくさん食べた。デザートも今日は豪華に、いちごのケーキだ。
「ロロ、ほっぺについてるぞ」
「にこにい、ありがと」
ほら、いつものようにニコ兄が俺のほっぺを拭いてくれる。こんななんてことない毎日が、俺はとても好きだ。
「あらあら、雪が降ってきましたね」
マリーが窓の外を見ながら言った。もう薄暗くなっているお外に、白い雪がホワホワと舞っている。
明日は積もるかな~なんて思いながら、ぼんやりとそれを見ていたのだけど、その頃には俺はもうおネムだ。
「ああ、もう限界だね。ロロ、ベッドに行こうか」
「れおにい……」
もう目を開けていられない。だけどレオ兄に抱っこされながら、これだけはみんなに言った。
「めりーくりしゅましゅ」
きっとみんなは何のことだか分かっていないのだろうけど、それでも良い。俺の自己満足だから。
その日の夜、夢を見た。俺は積もった雪で雪だるまを作っていると、それが動き出す夢だ。そしたら何故か女神が慌てていた。
「だめですぅ~! 雪だるままで動いたらだめですぅ~ッ!」
なんて言いながら走り回って、動いている雪だるまさんを追いかけていた。
だけど雪に足を取られて、ズボボーッとスライディングしてしまった。お顔が雪まみれになっている。それを見て笑っている俺とピカ。
今日は一日楽しかったけど、夢まで楽しい。ふふふ。
来年もしよう。分かっていなくても、みんなで一緒に角兎の丸焼きといちごのケーキを食べよう。
「むにゃむにゃ……」
「ふふふ、ロロったら何か夢を見ているのかしら?」
「なんか食べてるんじゃないか?」
「ロロが楽しそうで良かったね」
俺の寝顔を、リア姉、レオ兄、ニコ兄が見ているなんて思いもしなかった。
「クリスマスって、辺境伯家で聞いてきたのかな?」
ディさんがそう呟いているのも知らなかった。
俺のクリスマスは大成功なのだ。みんな大好きだ。いつもありがとう。
――Happy Merry Christmas☆




