【番外編】補佐官レベッカの恋 8
結局、私は補佐官を続けることにした。
ミンミンちゃんには半狂乱の陛下、いや前国王ジルを鎮めてくれた借りがあるし、リンリンさんにも世話になった。
リンリンさんとジルは祝賀行事が終わり次第、巫女姫様の招待でしばらく東国で暮らす予定なので、イーサンが暴走しないよう、二人の代わりに近くでミンミンちゃんを見守りたいと思ったのだ。花嫁姿も見たいしね。
そういうわけで、竜の谷へ帰るのは、もう少し先の話になりそうだ。
それに、なんだかんだ言っても、私はこの仕事が好きなんだろうな。
新しい将軍には、第二騎士団長だったデルヴァンクールがなった。彼はこの数年の間に、めきめきと頭角を現し見事、武闘大会の準優勝を果たした。
三番手は相変わらずのアーサーである。彼は武闘大会の前日に、浴びるほど酒を飲む。つまり二日酔いの状態でこの強さだ。脳筋気味のこの男は、剣技だけなら前国王ジルを凌ぐと言われている。
アーサー曰く「国王とか将軍とか、性に合わねぇ」だそうだ。
宰相は引き続きユーゴ・バイエ。補佐官は私とシャーリー、以前は副補佐官だったエタンが昇格している。
かつて補佐官だった馬族のカミーユ・ルロアはもう年なので、最後の奉公と称して後進の教育に励んでいる。
そして、十年前にマクシム・カルネが引退して竜の谷へ帰ってしまって以来、空席だった参謀の席が埋まった。
なんと、レオナルドだ。
他種族の、それも他国の王位経験者の起用は例がない。第二の人生を自由に生きることが許されている獅子族は、大抵は働かずに自国でのんびり隠居生活を謳歌するか旅行をして過ごす。
「ははは、レベッカと結婚したなら、ちょうどいいですね」
新国王イーサンは、愛猫ミミの背中をなでながら痛快に笑った。
イーサンはレオナルドの寿命が延びたのをいいことに、彼の王としての手腕と経験を見込んでオファーを出した。
「番」狂いの竜王は、少しでもミンミンちゃんと一緒の時間を作るべく、使えるものはなんでも使うつもりのようだ。要は「手っ取り早く」楽がしたいのだ。
断るかと思いきや、レオナルドはその申し出を受けた。
「いや~、引退するには早いし暇だし、それに王宮にはお前もいるからな」ということだ。
そんなこんなで国王即位の祝賀行事は滞りなく進み、今宵は舞踏会である。
私は今、緋色のドレスに身を包み、夫のレオナルドにバラの髪飾りを挿してもらっているところだ。
かつて踊った舞踏会のファーストダンスを、再び私たちが踊ることになったのだ。
ちなみに前回は、ジルとリンリンさんが踊った。
新国王のイーサンにはミンミンちゃんがいるけど、まだダンスを習っていないので無理だった。
イーサンもほかの女性をパートナーにしたがらないし、国王が踊らなければならない決まりもない。
私の仕度がすっかり整うとレオナルドは耳元で「君はキレイだ」と囁き、恭しく手を差し出した。
「さあ、そろそろ行こう、私のバラ姫」
「ねえ、そのバラ姫ってなんなの?」
彼の手を取りながら、ずっと疑問だったことを口にする。
私は銀髪の紫の瞳で、バラの要素が一欠片もない。過去に賛辞を口にした男性は皆、月やスミレ、宝石にたとえはしても、バラはレオナルドだけだ。
彼はニカッと笑う。
「何……って、俺にとって君はバラだ。愛と情熱そのものだよ。一番好きな花で、時々、チクッと棘のように刺激的なところがあって、そして――」
「そして?」
「そして、とてもキレイだ…………」
レオナルドの唇に噛みつくように口づける。彼は私を強く抱きしめ、深い口づけを返した。
ああ、やっぱり……この人なのだ。
私たちは踊る。舞踏会の一曲目、二人だけのダンスだ。
レオナルドの唇の端が赤い口紅で染まり、直前の行為が誰の目にも明らかだが構いやしない。
竜族は、独占欲が強いのだ。
ヘーゼルの瞳が愛しい女をとらえ離さない。アメジストの瞳も熱を帯びた視線を受け止め、逸らすことは、もう、ない。
音楽に合わせ、大胆に足を踏み出す。ターンをするたび、赤いドレスが大輪のバラのようにフワリと広がった。
周囲から賞嘆の声とため息が漏れる。
私たちは踊る。
今までで一番、情熱的なダンスを。




