第十三話 その25 最後の歌
「……」
「どういう…」
「…ことです?」
「おまえに全く希望が無い、そして周囲は大逆風も大逆風」
「今この状況を用意してやったんは」
「おまえの真の気持ち」
「それを、その強さを証明させるためだお」
「………」
「この状況はまさしく!」
「おまえのためだけに用意されたものだお!」
「長らく守られてきた伝統を破り」
「長の首を飛ばし!」
「町の住民はおろか、相手の、そして自分の親さえも反対し」
「しまいには窓の向こうに想い人は居ない!とまで来た!」
「希望は完全に潰えたんだお!」
「貴方は…一体…」
「だが!エマーチ!」
「こんなあり得ない程の大逆境だからこそ!」
「なればこそ証明できる思いの強さがある!」
「………」
「希望があれば誰でも努力するお!」
「しかし!本当の想いの強さは!」
「希望が無い時にでも!」
「可能性が無い時にでも!」
「それでも胸を張って唄えるか!」
「そうだお!?」
「………」
「おまえはこのようなあり得ん位の逆境で反対されても」
「勇気をもってこの場に立った!」
「それは称賛に値すると思うお!」
「だが、ラストの曲を唄わぬ限り!」
「おまえの気持ちには決着がついていない!」
「決着を付けぬ限り!」
「老いて今日この日を振り返った時!」
「必ず、あの時、ああしていればどうだったか…?」
「その呪縛に永遠に囚われる事になるんだお!」
「それだけは断言できる」
「わしが分かっているのはその事のみ!」
「だからこの状況をおまえに用意してやった!」
「それだけだお!!!」
「………」
「さあエマーチ!」
「唄ってくれ!」
「わしがオッサンになる前に!」
「ちゅん助…もうなってるから…」
「イズサンはだまるお!」
「………」
「ううっ…」
「ちゅん助さん…」
「まったく、貴方って人は…」
「年寄り設定はどこ行ったんです…?」
エマーチはそう言いながら、泣いていた。
表情は哀しげに、それでも努めて、不器用な笑顔を作ると何か決心したようだった。
「最後の歌は!」
「自分のためだけに唄え!」
「聞かせてやれお!」
「おまえの気持ちを!」
「わしに!」
「親に!」
「ここの奴らに!」
「そしてこの場にはいないあの子に!」
「ええ、もとより…」
「最初からそうです!」
「決着を!」
「つけに行きますよ!」
エマーチは吹っ切れた様だった、崩れた涙声でも、静かに、それでも美しい旋律が、彼の歌が流れ出した。
大切な事や大事な事って
目に見えない
人はそういうけど
僕はずっとずっと昔から見えていた
大切にしたかったのに
そのやり方がわからずに
そばに居たかったのに遠ざけて
君が掛けてくれた優しさの毛布を払いのけていた
あんなに近くに居てくれたのに今じゃもう遠い もう遅い
でも届かないって分かってるけど精一杯歌うよ
反対されても
笑われても
嫌われても
僕にはこれしかない
でもわかってる
これは君のためじゃない自分のためなんだね
それでも歌う事だけが今の僕にできる事なんだ
もう戻る事のないあの日々を
思って僕は歌う
届く事も無いこの歌を
届く事はずも無いこの歌を




