俺の日常にファンタジーが突き刺さってきた その19
■出発前はいつもこんな感じ その1
・異世界4日目 12:00
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七草を探すといっても、手掛かりすらない現状。
さてどうすっかな。
腕組みしてると、目の前を兄狼が疾走していった。
「ガウガウガウッ!」
”やっほーーーーーっい!”
もう、さっきからずっとこの調子。
うれしくてうれしくて、どうしようもないらしい。
あ、戻ってきた。
んで、また目の前を突っ切ってったわ。
「ガウガウガウッ!!」
”うっひょーーーーーーーっい!!”
テンション高すぎである。
でも、そろそろ落ち着け。
そして、よーく思い出せウィリアムよ。
七草を探しながら歩くんだぞ。
スローペースな散歩だぞ。
だから
『オレは走るぜぇ!チョー走るぜぇ!』
ってテンションは、逆に困るっつーか。
とか考えてたら、エドガーまで疾走し始めた。
あぁ……。
「ガウガウッ!」
”オレ、兄ちゃんより速く走るよ!”
「ガウ?ガウガウッ!」
”む?オレの方が、速いぞ!”
「ガウガウガウッ!!」
”今度はオレの方が速いもん!!”
「ガウガウッ!」
”オレの方が、もっともっと速いぞ!”
残像を残しながら戯れる狼兄弟。実に楽しそうだ。
と、同時に悟った。コイツら間違いなく走るわ。
でも、それじゃ困る。
お願いだから、俺の護衛をしてくだちぃ。
いっそのこと『ふぇぇぇぇぇ、お外怖いのぉぉぉぉ』と泣き付いてみるか?
いやいや、そんな情けない姿は晒せねぇ。
ここは毅然とした態度で『走るな、キケン』と、釘を刺すべきところだな。
飼い主権限をフル活用してやるんだぜ。
つー訳で。
エグいスピードで併走中の2匹を呼び寄せてみた。
おーい。イケメン狼さんやーい。
ちょっとこっち来て、お座りしてくれや。
「ガウガウッ!」
「ガウガウッ!」
ハイテンションの2匹が走り寄って来た。
でも、速度が速すぎる。どうやって止まるつもりなんだよ疑惑。
しかしそんな俺の不安をよそに、あっという間に近づいてきた2匹は俺の数メートル先でお座りすると、そのままズザァァァっと俺の前までスライドしてきやがった。
そう。まるで駅に停まる新幹線のように。
[鉄オタ写真 : 俺の前に停車した2台の狼新幹線 (凛々しい横顔)]
停止方法が斬新すぎる。
見るからにケツが痛そうなんだが、大丈夫だったか?
やや呆然としてると、首だけ回して俺をガン見する狼兄弟と目が合った。
”なになにー?”
”呼んだー?”
あ、こりゃ可愛いわ。
まんま振り向き美人。ぐぅの音も出ない神アングル。
[振り向きイケメン写真 : 身体は進行方向。顔だけこっち向いてる狼さんたち (イケメンズ)]
まぁ、どんなに可愛いかろうと
権力によるゴリ押しはやるんだけどな (真顔)
つー訳で。
ゴキゲンな2匹に対し、かくかくじかじか。
それはもう丹念に釘をブッ刺してみた。走るなキケン。
その結果。
[狼兄弟写真: 2匹揃ってションボリしょぼしょぼ (お耳もペタン)]
ガチ凹みさせちまったわ。
罪悪感がハンパねぇ。
でも、ここは譲れねぇんだよなぁ……。
なんたって人命 (俺の)がかかってるからな。
「走っちゃダメだぞ」
更に念押ししてみた。
「くぅーん……」
「くぅーん……」
何かを訴えかける2匹の視線がとても痛い。
”………………”
”………………”
マジでやめて。そんな目で俺を見るな。
何かスゲェ悪い事した気分になるじゃん。頼むから勘弁してくれ。
「だって仕方ないだろ。七草探しに行くんだからさ」
罪悪感に耐えかねて言い訳すると、ウィリアムの表情がパッと輝いた。
「ガウガウッ!」
”オレ、走りながらでも探せるよ!”
「お?ウィリアム七草知ってるのか?」
「ガウッ!」
”知らない!”
ダメじゃねーか。
続いて、エドガーも元気に吠えた。
「ガウガウッ!」
”オレの方が上手に探せるよ!”
「ん?エドガーは七草知ってるのか?」
「ガウッ!」
”知らない!”
重ねて言う。
ダメじゃねーか。
■出発前はいつもこんな感じ その2
・異世界4日目 12:05
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いいもんね。
七草探しはシバにお願いしてみるもんね。
つー訳で、5人集まってもこもこ柔軟体操中のシバ達に打診してみた。
「よかったら七草探しを手伝ってくんね?」
「わんっ!」
”任せてください!”
うむ。実に良いお返事。
クルッと巻いたしっぽをブンブン振り回しながら速攻OKしてくれた。なごむ。
シバ達は、しばらく「きゃふきゃふ」言い合いながら大興奮してた。
どうやら任務 (ってか、お願いなんだけどな)を任せてもらえたのが、嬉しかったらしい。
”に、任務だ!”
”初任務だ!”
”がんばって見つけなきゃ!”
”見つけた後はどうするのかな?”
”見つけ次第、突撃かな?”
まぁ、微妙に勘違いしてるんだけどな。
七草はモンスターじゃねぇぞ。だから突撃したらアカン。
その辺を踏まえ、改めてシバ達に七草を説明してみた。
つっても、俺もそんなに詳しくねぇんだけどな。
だって、スーパーで売られてるパック詰めのやつしか知らねぇし。
よく知らないヤツが、まったく知らないヤツらに説明する。
この時点で色々お察しだが、念のため結末まで書くぞ。
うん。お察しの通り
説明は超ぐだったぞ。
5秒に1回のペースで、シバ達が小首傾げて「?」って表情を浮かべてたもんな。
にも関わらず、最後まで真剣に聞いてくれたシバ達には感謝しかねぇわ。
ちなみに説明後ののシバ達は、こんな様子だったぞ。
”よく分からないけど、頑張るぞー!”
”おー!”
”よく分からないけど、見つけるぞー!”
”おー!”
ありがた過ぎて涙が出そうだったわ。
ともあれ、これにて準備は完了だ。
そんじゃ、七草求めてそろそろ出発すっかな。
つーか、そろそろ身体を動かさねぇとマジで風邪引きそうだしな。
「おーし、そろそろ行くぞー」
出発の号令をかける。
と同時に、狼兄弟が駆け出した。
「ガウガウッ!」
”オレが一番探すぞ!”
「ガウウウッ!」
”違うよ!オレが一番だよ!!”
いや、お前たち七草知らねぇじゃん。
と、ツッコむ間もなく遠ざかり、コンマ5秒後には姿すら見えなくなった。
どういうことなの (真顔)
あ、そういえば『走りながら探せるもんじゃ無い』って否定してねーや。
あー。うん。
なるほどな。
さて、どうすっかな (泣き顔)
■シバすげぇ
・異世界4日目 12:30
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狼兄弟が走り去った後、シバたちのテンションが目に見えて上がった。
スゲェ『キリッ!』とした表情で
”今度こそいいとこ見せるぞ!”
”おー!”
どうやら、俺を守る気マンマンらしい。
何だこいつら、可愛すぎかよ。
つーか、そんな健気なこと言われちゃったら
『初めて回るコースだから、狼兄弟の護衛がないと不安なのぉ』
とか言えなくなるじゃん。
まぁ、初コースつっても近所の河川敷だけどな。
割と近所。タックルライオンの進路でもねぇ。
シバ達も結構強くなったことだし、チョー危険とまでは言い難いのかもな。
でもなー。
護衛対象が、想像を絶するレベルのクソザコナメクジ (俺)だからなぁ。
あのクソザコナメクジ野郎 (俺)、すぐ「ふぇぇぇぇぇ……」ってヘタレるから
シバ達に余計な負担をかけそうで怖いんだよなぁ。
どうすっかなー。
とか考えてると、シバ達がキリッとした表情で『頑張ります!』ってオーラを発し始めた。
ホント、どうすっかなー。
とか考えてると、シバ達が俺の前で隊列を組み『この先、狼藉者は一歩も通しません』的なオーラをまとい始めた。
圧倒的、出発前感。
気づいたときには、今さら断れるムードじゃなくなってたわ。
そんな場の空気に負けた訳じゃねぇが
結局、シバ達をお供に出発することにしたぞ。
まぁ、何とかなるだろ。とナメた態度で歩くこと約2分。
辻を右に曲がり、遠目に河川敷が見え始めたところで、四つ足生物から襲撃された。ひぃ。
その四つ足生物はとにかくキモかった。
もうちっと詳しく描写するとだな。
体格は小型の熊くらい。
顔は醜悪の一言で、全身からぽたぽたと黒いしずくを滴らせていた。
吐き気を催す様相っての?
見た瞬間『あ、こいつはヤベェ』って直観させられるヤツだった。
ちなみにクソザコナメクジのご主人様は、この段階で既にちょっと泣きそうだったぞ。
ふぇぇぇぇ……。
だってデカいんだもん。
その上、全体的に黒いし。何か滴ってるし。圧倒的に顔キモいし。
そら、無意識的に
出発するんじゃなかった。
出発するんじゃなかった。
出発するんじゃなかった。
出発するんじゃなかった。
出発するんじゃなかった。
って、呪詛と後悔を垂れ流すにきまってんじゃん。
心の底から運命を呪ったわ。圧倒的恐怖体験だった。
だがしかし。
そんなクッソ情けないご主人様とは裏腹に、シバたちの頼もしい事、頼もしい事。
キリッと四つ足を睨みつけたシバファイブは、やる気マンマンだった。
お互いに睨み合ったまま動かない、シバとキモ生物。
「くるるる……」
「がうーっ……」
両者の威嚇の声が、クッソ寒い冬の風に乗って俺の耳に届いた。
数秒間の睨み合い。その均衡をブチ破り、先に動いたのはシバ達だった。
「わおーっ!」
”突撃ーッ!”
って叫びながら、真っ先に駆け出すシバ吉。
スコップを大きく振りかぶり、ありえないスピードでキモ生物へ襲い掛かった。
シバ吉ぃぃぃぃ、がんばえぇぇぇぇぇぇ……!
そんな俺の心の声に応えるように、シバ吉がスコップを振り下ろした。
と同時に、バシュシュッって音を立てながら【スコッ波】が発射された。
その数なんと5発。思わず目を疑ったわ。
弾速も明らかに速くなってた。シバ吉スゲェ。
で、避ける暇すら与えず全弾命中。
ドゲシッみたいな音を立てて、キモ生物が大きく吹っ飛んだ。
「くるるぅ!」
まじおこモードのキモ生物。
両肩から角のような器官を生やして反撃してきたが
『そんなの知らないワン!』とばかりに、この後も一方的にシバ達がボコる展開が続き、終わってみれば完封&完勝の完全勝利だった。
いやー、初撃の【スコッ波】で吹っ飛んだキモ生物が、2匹に分裂した時はどうしようかと思ったぜ。
思わず『ふぇぇぇぇぇ……。分裂するなんてズルいよぉぉぉ……』ってガクブルしちゃったが、
蓋を開けてみれば、工兵コンビによる【スコッ波】の飽和攻撃で、分裂体もろともすり潰してやったぞ。
シバ達しゅごい。
強くなりすぎ。しゅごい。
キモ生物がシューッって音を立ててながら消滅する。
それを見届けてから
「わふっ!」
”勝ちました!”
シバ吉、シバ丸の工兵コンビが『ほめて!ほめて!』と言わんばかりに寄ってきたので、シバ達全員を囲い込んでしばらくもふり倒してやった。
お前達、最高だぜ!
あんなキモ生物なんぞ、うちのシバちゃんにかかれば一捻りだよな!うぇっへっへ。
ってフラグを立てたのがマズかったんだと思う。
約5分後。再びキモ生物 (5匹)と遭遇した俺は、
性懲りもなく『ふぇぇぇぇぇ……。群れで攻めてくるなんてズルいよぉぉぉ……』とガクブルするのであった。
ちなみに【スコッ波】でブッ叩いたら、20匹くらいに増えやがったぞ。ふぇぇぇぇぇ……。
まぁ、群れたところでシバ達の敵じゃなかったけどな (震え声)
でも、もう出てくんなよ。
これはフリとかじゃねぇからな。
■ポンコツ狼もかわいい
・異世界4日目 12:35
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出発直後、コンマ5秒で走り去ったウィリアムが
お口に巨大なモンスターを咥えて、意気揚々と戻ってきた。
俺の前でお座りするウィリアム。
そのまま口をパカッと開けると、ドサッと重い音を立ててモンスターが地面へ落ちた。
「ガウガウッ!!」
”見つけてきた!”
何をだよ。
「ガウガウッ?」
”コレ、ななくしゃじゃない?”
どうやらウィリアムはウィリアムで、七草を探してくれてたらしい。
ただ、悲しいかな根本から勘違いしてるんだよなぁ。
「違うぞ」
「ガウゥ……」
バッサリと否定すると、ウィリアムがちょっとだけショボーンとした表情になった。
そして
「ガウガウッ!!」
”オレもう1回探してくる!”
七草を説明する間もなく、再びコンマ5秒で見えなくなった。
あ、虫の息で生きてたお土産のモンスターは、うちのシバちゃんズがキッチリ止めを刺したぞ。
ウィリアムが走り去ってから数分後。
今度は、エドガーが戻ってきた。もちろん口に巨大モンスターを咥えてな。
俺の目の前でお座りするエドガー。圧倒的デジャヴ。
口を開くと、ドスンッという重い音を立ててモンスターが地面に落ちた。
「ガウガウッ!」
”見つけてきたよ!”
何をだよ。
「ガウガウ?」
”ななくちゃってコレ?”
なんとエドガーも七草を探してくれていたらしい。
ただ、またしても悲しい勘違いが炸裂しとったわ。
「違うぞ」
「がうぅ……」
バッサリ否定すると、ちょっとだけションボリするエドガーたん。
そして
「ガウガウッ!」
”もう1回行ってくる!”
やはり七草を説明する間もなく、コンマ5秒ダッシュで走り去ってしまった。
あ、虫の息で生きてたお土産のモンスターは、うちのシバちゃんたちが以下略。
ちなみにこのやり取り、既に3回目だったりする。
うん。そうなんだ。
お察しの通り、こうやって巨大生物のお土産もらうのも6回目なんだ。
最初はビビったが流石に慣れた。
尚、未だに七草を説明する機会は訪れていない。