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無忘探偵の偽物暴ーニセモノアバキー  作者: 厳原玄彦
3話 なりすましモンスター
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 目を覚ますと夜だった。厳密に言うならば夜八時だった。

 記館さんからの三件に及ぶ電話を、僕は無視し続けていたことに気付いた。


「……やっちまった」


 万丈目さんはいつの間にかいなくなっていて(寝るまでの経緯をさっぱり憶えていない)、置手紙だけがあった。


 記館探偵には、悪いが俺様が出ておいた。

 事情は全部説明したから安心しろ。

              金積万屋


 しかしどうあれ、その行動には少し感謝した。それでも僕は、記館さんと万丈目さんを会わせることはなるべくしたくなかったところもあった。

 いくら言ったところで、もうどうしようもないが。


 にしても、記館さんから電話が掛かってきたということは、何かしらの用事があっただろうに、それを置手紙に書いていないというのは、万丈目さんの悪意が伝わってくる。

 ……結局、折り返せということだろう。

 まあ記館さんが何か掴んだというならば、直接知りたいということもあったので、とりあえず電話を掛けた。


『ああ、神梨さんですか……どうもです』


 記館さんの声がめちゃくちゃ落ち込んでいる。一体どうしたというのだ。


「いや、ちょっと、昼寝をしてしまいまして、すいません」

『昼寝ですか。暢気でいいですね』


 なんか言葉に棘がある気がする。

 まあ、僕が悪い以上、文句はあまり言えないが。


「それで、どうしたんですか?」

『〈どうしたんですか?〉ですか。何も事情を知らないんですね』


 やっぱり言葉に棘がある!

 記館さんが何故かイライラしている!


「あ、あの――本当に、何かあったんですか? 記館さん、何か様子が変ですよ?」

『あーあー、そうですよ。私は無謀な探偵、無忘探偵ではなく無謀探偵ですよ。愚かでした愚かでした。もういいじゃないですか、万丈目さんに力を借りた方が賢明だと思います』

「…………」


 やっぱりか。

 だから会わせたくなかったんだ、この二人は。

 最初の出会いこそ最悪だったのもあるだろう。まあ僕にしてみても、人の記憶を勝手にいじったりする人間を許せるとは思えないが、それを抜きにしたって、今の記館さんの様子を見る限り、万丈目さんに小馬鹿にでもされたのだろう。


 まああの人もあの人で、記館さんに屈辱の敗北をしたわけだから――って、そう考えると、やっぱり最悪の組み合わせだった。

 本当に暢気な昼寝だったと、つくづく思う。


「あの、記館さん、僕は記館さんの方が推理は素晴らしいと思います」

『…………』


 無言である。

 と思ったら、これでもかというくらいの大きな溜息が聞こえてきた。

 そして、


『――よし! 気を取り直しました。さて、推理しましょう』


 と、記館さんは言った。

 どうやら、僕の言葉が響いたらしい――わりと単純な人だ。まあ、ともあれ、気を取り直してくれたのはありがたい。


「それで、何か分かりました?」

『ふむ……すみませんが、私、電話がわりと苦手で……ですので説明しづらいので、直接お会いするということで宜しいですか?』

「構いませんよ――というか、じゃあ何か分かったんですね」


 でなければ、わざわざ会う必要もあるまい。


『それでは、今から神梨さんの家へ向かいますので、そのままお待ちください』


 言って、電話が切れた。

 僕の質問には全く答えてくれなかったが、しかし答えなかったことが答えなのだろう。それが犯人特定までは、さすがに行ってないにしても、多くの謎を一つでも解いてくれると期待して、待つことにしよう。


 今度こそ寝るわけにいかないので、趣味の絵でも描いていながら待っていると、チャイムが鳴った――記館さんにしては、あまりにも早すぎるので別人だろう。けれどまあ、記館さんの可能性がないわけではないので、玄関のドアを開けると、そこには美笑ちゃんがいた。


「……また?」


 僕が少し不機嫌そうな顏をすると、彼女は何故か笑って見せた。


「それがねっ! 分かったんだよ!」

「分かった? 何が?」


 その台詞は、どちらかと言えば記館さんから聞きたいものだ。というか、記館さんの台詞であるべきだ。


「犯人じゃないのに犯人にされた人の気持ちっ!」

「へえ……」


 まあそれも、謎と言えば謎だったが、知ったところで話が進むわけではないよな。


「無実を証明しようとするよっ!」

「…………」少し間を空いた。「当たり前だーっ!」


 僕は叫んだ。


「違う違うっ! だからさ、〈証拠はあるのかよ?〉って言わないのっ! 絶対に〈俺は犯人じゃない! 本当に違うんだ!〉って慌てふためくわけさっ! 昨日、推理漫画読んでて、全部そうだった」


 推理漫画……。

 それはお前、容疑者を全て集めたときに、犯人がそこにいるというくらいに、信じられない話だぞ。現実では、犯人なら集合をかけても集まらずに、逃げて身を隠すだろう。


「ていうか、犯人だってそう言う可能性もあるだろ」

「どうだろうねえー、うちだって、〈証拠はあるのかよ?〉って言ったし」


 それは美笑ちゃんが漫画に影響されすぎなだけだ。普通は言わない。というかそういう場面自体、あまりないはずだ。


「ねえねえ、それでね、その推理漫画読んでいたらさ、探偵が出てくるわけよ」

「まあ、定番だな」

「探偵は毎回、証拠も何もかも自分で見つけ出すのっ! それで犯人まで言い当てちゃう! すごいっ! かっこいいっ! って思うじゃん?」

「まあ、定番だな」

「でもうちは思うのさ――警察無能かよっ!」

「まあ、それも定番だな」


 というより、そうするしか探偵が活きないのだ。警察がでばってしまうと、ならば初めから探偵などいらないとなってしまう――無論、警察を活かしつつ、ということもできるだろうが、いわば昔からの伝統というやつだろう。


「ゾンビ映画で特殊部隊も無能だよねっ!」

「あれも、主人公が生き残るための仕方ない犠牲だな」

「逃げ惑う一般市民を救うために、ある五人の特殊部隊がゾンビ殲滅作戦に向かった。しかし、彼らの前に立ちはだかるのはゾンビだけではなく、彼らの上の組織だった。組織の裏切りと、ゾンビの猛攻から耐え続け、その先に待っていたものとは?」

「ゾンビと戦う特殊部隊映画は、すでにあるぞ」

「えっ! すごいっ! どうしてそんなの知ってるの? マニア?」


 まあ、名前しか聞いたことがないが、ここは上手く話を合わせておこう。


「す、少し前に映画にはまってな。そこで知ったのさ」

「まじっ? 超かっこいい! 見たい見たい! 教えてっ! 名前教えてよっ!」

「へ?」


 なんだっけ。

 ええっと……ず、ず――


「は、話がそれたぞ? 今はそんなこと、どうでもいいんだよ。用事が終わったら、色々教えてやるから!」

「ええー……まあ、いっか」


 ふう――あぶねえ。知ったかぶりなんて、するもんじゃないな。わりとあっさり引いてくれて助かった。


「……それじゃあ、話はそれだけだからっ!」


 と、美笑ちゃんはそのままマンションを降りていった。

 ああ、そっか。

 ていうか、それだけのために俺の家まで来てくれたのか……。

 いい子だなあ。

 可愛いなあ。


「何にでれでれしているんですか?」と、美笑ちゃんが帰っていった方向とは逆側から声が聞こえてきた。

「……記館さんでしたか。別に、少しだけ、いいことがあったくらいですかね」


 まあ、美笑ちゃんとわりと喋っていたので、時間的にはこんなものだろう。


「それは良かったですね。私にはありませんでした」


 まだ引きずってるよこの人。


「冗談はさておき」と、記館さん。「さて、時間もいい感じになりました」


 時間?

 外は暗く、部屋の時計は九時二十分を指しているが。


「泥棒しましょう、神梨さん」

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