表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無忘探偵の偽物暴ーニセモノアバキー  作者: 厳原玄彦
3話 なりすましモンスター
PR
25/32

 記館さんとは、米野上家を出るとすぐに解散となった。僕は何もできないので、ただ彼女の行動を信じて動くしかないわけだが、しかし僕も考えようとはした。


 とりあえずは、泥棒が窓からの侵入をしていないと仮定する。つまり玄関の扉から入ったというケースだ。米野上さんでもさすがに、出掛ける際に家の鍵は閉めているだろうから、必然的に合鍵か、針金を通すなどして入ることになる。

 合鍵ならまだしも、針金を通して侵入となると、周囲の目線が気になるところだ。普通、針金を通して家に入る人間など誰だって怪しむ。

 米野上家は広さでいうと一般的な感じで、常に道に一人以上は歩いている状態が続いているくらいには、人通りの多い住宅街の一角に住んでいる――となると、余計に不自然だ。おまけに昼間だから、人の目に入らない侵入となると、相当厳しいだろう。


 そして僕が気にした、いや記館さんも気にしていただろうが、不可解な点がある。それは指紋だ。壊破さんがいつ、警察に指紋提供したことがあるのかは不明だが、それはいいとしても、その指紋が〈荒らされた衣類にだけ〉ついているということが不自然なのだ。

 つまりそれは、クローゼットに触る際には手袋か何かで、意図的に指紋をつけないようにしたことになる――裏を返すならば。

 衣類に、意図的に指紋をつけたということだ。


 一体何のために?

 決まっている――壊破さんを犯人にするためだ。

 一体何のために?

 分からない――壊破さんを犯人する理由が。


「ピィィィンポォォオオオン!」


 突然、部屋の外から大きな声が聞こえてきた。

 なんて聞き覚えのある声だ。

 最強の声。

 扉を開けると、やはり彼だった。

 漆黒の万屋。


「なんですか、万丈目さん――ていうか、どうして僕の家知っているんですか?」

「つれないことを言うな。友人の家を知っておくのは、当然だろう?」


 勝手に人の家を調べて、突然訪問してくる人を、僕は友人とは思わない。


「入るぜ」

「はあ……」


 万丈目さんに逆らうのは色々と面倒なので、ここは素直に頷くしかなかった。

 記館さんがやってきたときのままだったので、幸い、家の中は綺麗のままだ。まあ、この人に普段汚いとばれたところで、大したダメージはないが。

 とりあえず記館さんのときと全く同じ態勢になってから、話は始まった。


「で、何の用なんですか?」

「用がないと来ちゃ駄目なの?」めちゃくちゃ上目遣いで、さらに目が潤っている。


 なんだこれ。超うぜえ。


「美笑ちゃんが来たときから見ていたんですか?」

「いや、見てない。ただあの子なら、こういうこと言うんだろうと思っただけ」


 もしかしてこの人、記館さんより探偵らしいんじゃないか?

 ……できそうではあるが、その分、依頼金の問題が増えるか。


「で、何だっけ? 自殺しようとしたんだっけ?」

「それは僕じゃありませんよ――用ってそれですか?」


 何でも知っている――何でもお見通しってわけか。


「まあそんな感じだ。今回は、俺様はボランティアをしてやろうと思ってな」

「嘘ですね」

「ほう、どうして分かる?」

「あなたは金で動く人だからですよ」


 一銭の価値にもならない仕事――ボランティアを、するわけがない。


「それは好印象と受け取っていいんだな?」


 僕は頷いた。確かに現金な人間ではあるが、しかしその仕事の達成率は中々のものだ。金さえ払えば何でもしてくれるというのだから、人によってはかなり助かるだろう。


「でもよ」と、万丈目さん。「先日のコンビニについては、俺様はほぼ金をもらわずに動いたぜ?」

「それでも少しはもらったんですよね?」

「違いねえ」


 万丈目さんは笑った。

 ここで僕は、思いつく。


「そうだ。万丈目さん、やってほしいことがあるんですけど」

「へえ、どんな?」

「今から、というより日が沈むまでに、ある家に入ってきてほしいんです」

「……泥棒しろってのか?」万丈目さんは少し僕を睨んだ。

「そういうことですね」


 少し間が空いて、万丈目さんはため息をつく。


「ああ、いいぜ。何を盗んでくればいい?」

「何も盗まなくていいです。侵入したら、五分ほどうろついて、帰ってきてください」

「何でそんなことを……って、ああ、いいよいいよ。了解」


 何か思い直したようにする万丈目さんだった。


「それで、お金のほうなんですけど……」

「金はいい」

「へ?」

「金は結構だと言っている」

「へ?」

「金は一銭もいらねえ」


 聞き間違いではない……?

 そんな馬鹿な。

 この人に限って!


「ねーくん、俺様のことを心の中で馬鹿にしてやがるな?」

「ねーくんはやめてください」


 しかしそれは、地球が突然爆発しても、人間が生きていて、さらに宇宙を飛び回っているくらいにありえないことだった。


「安心しろ。一銭もいらねえと言ったが、一円はいる」

「いつから一円より一銭の方が高くなったんでしょうか?」

「冗談だ。本当に一銭もいらねえ。俺様が友人から金を取るような奴に見えるか?」


 ここは頷きたいところだったが、しかしそうすれば話が長引くと判断したため、ここは万丈目さんの望むままにしておいた。


「よし、それじゃあ今からでも行ってくるか」

「ああ、これ、そこまでの道のりです」


 と、僕は万丈目さんに地図を渡した。そもそも何故地図を持っているのかと言われると、恥ずかしい限りなのだが、僕自身、記館さんについていくのに必死で、米野上さんの家を正確に憶えていなかったからである。


「それじゃあ、自殺なんてするんじゃねーぞ」

「だから、それは僕じゃないんですってば」

「どうだろうな……その〈化物市民〉――化物は、なんで自殺未遂なんてしたんだろうな」

「前から死にたいとかなんとか、言ってましたけどね」


 自殺するほどの理由があったのか。

 そう言われてみれば、確かにないようにも思えた。

 壊破さんは誰にも恨まれず、誰も恨まず生きてきたのに――どうして自殺なんてしようとしたのだろうか。

 考え事をしているうちに、すでに万丈目さんは僕の部屋からいなくなっていた。

 ともあれ、そこから万丈目さんを待つことジャスト七分。扉が開いて、万丈目さんがやってきた。


「無理だな」

「……やっぱり」


 万丈目さんでも無理となると、いよいよ事件は深刻に、深々刻々と難しくなっていくばかりだ。


「人目につきすぎるし、さらに玄関の扉は針金じゃ開かない。おまけに窓は全部閉まっているときた。窓を割るにしたって、昼間だし……ありゃ不可能だな。ま、つーわけで、どっちみち金は要らなかったわけだ」


 失敗した場合、依頼金は返却なのか。まあこの人は中々失敗しないからこそ、そういう条件がつくのだろうけれど。


「まあ、とりあえずありがとうございました」

「今回は役に立てなくてすまねえな。俺様としても、さすがに捕まるのだけは勘弁してもらいたいからな……金も入らない仕事で捕まるなんて、間抜けなことはしたくねえんだ」


 金さえ払えば何でもやってくれる。

 金を払わなければ、何でもやってくれるわけではない。

 なるほど。

 金――か。


「万丈目さん……万丈目さんが泥棒したとして、一万円だけ盗むとします。それってどういう理由ですか?」

「……そりゃなぞなぞか?」

「いえ、謎です」

「んー……そうだな。俺様でも一万円しか盗まねえ理由があるとすれば、それはカモフラージュのためだな」


 カモフラージュ。

 なら本当にしたかったことは、クローゼットの中を荒らすことだったのだろうか。

 謎が謎を呼ぶ一方だ。

 衣類に何故か一つだけある指紋。

 窓さえ閉まっていれば入れない家。

 盗まれた一万円。

 そして――

 壊破さんが自殺する理由。

 僕は考えるのをやめて、寝ることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ