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無忘探偵の偽物暴ーニセモノアバキー  作者: 厳原玄彦
2話 いれかわりチケット
16/32

 8


 無論、寝た順番を聞かれたわけなのだが、三人が三人とも、そんなこと憶えているわけもなかった――犯人は知っているはずだが、それを言ってしまえば、自白しているようなものなので、嘘をついたのだろう。


「でも、分からないんじゃ、どうしようもないですよね」


 僕が記館さんに聞くと、彼女はそんなこと耳に入れるつもりもないのか、というか僕の方を向かずに話した。


「どうせこんなところでしょうね。では質問を変えましょう。最初にコーヒーを飲んだのは誰ですか?」

「あ、それは僕です。二人に配るときに、先に飲んだのはしっかりと憶えています」


 福友井店長が言った。


「分かりました。だからと言って、最初に寝たという証拠にはなりませんが」

「……ていうか、犯人分かってるって言ってなかったっけ?」


 ここで美笑ちゃんが横やりを入れた。


「どうでしょうね……ほぼ、確定と言ったところです。というよりも、今は犯人までを順序良く説明しているだけです。大事なことですけどね」


 と言って、記館さんは続ける。


「ま、という風にですね、犯人の策略が皆さん、だんだん見えてきたのではないでしょうか?」


 僕も含め、皆頭を悩ましている。

 どの人が犯人でもおかしくないからこそ、どの人も疑いをかけづらい状態が続いているのだ。


「じゃあ、ヒントとして――というかもう一度可能性を潰していきましょう。私がもう一つ考えていた可能性として、犯人第三者説があります」


 そう言えば、記館さんはそれも匂わせていた。

 というよりも、普通、控室で全員が寝ている状況となれば、犯人は別にいるんじゃないかと思うはずだ。


「神梨さんと福友井さんには一度言いましたので、省かせてもらうと、第三者の犯行は可能でした――ただし」

「ただし?」

「探偵が私でなければ」

「ど、どういうことですか?」


 僕には何となく、記館さんの能力が高いことを知っているので、あまり気にしなかったが、他の三人から見れば確かにそれは〈どういうこと〉だ。


「もし、犯人が第三者なのであれば、無論、ここに一度訪れているはずです。でなければ、チケットは散らばっていませんでしたから」

「そんなことがあったんですか?」


 と、美笑ちゃんが聞いた。

 二つ目の事件に関して言えば、僕と記館さんと、それと福友井店長以外は全く知らないのだ――一から説明するのは大変だなと思ったが、その辺は記館さんが手際よく、二人に教えた。


「ほえー……大変でしたね」


「ともかく、さっきの話に戻りますが、チケットが散らばっている以上、犯人はここのロッカーに潜伏していたはずなんです。そうしなければ、薬の効果があったか確認できませんからね。そして私たちが帰ってきていないのを確認してから、犯行に移った――その後は、裏口から逃げれば、大成功というわけです」


「それって結構な賭けですねー」


 それも二度目の反応。


「ええ、ですが、不可能ではない限り、私はその可能性を潰さなければなりません。まあでも、これは簡単です。この控室と言えば、隠れるところはこの有り余ったロッカー程度なものです。だとすると、ロッカーから出るとき、一度扉を開けますよね。そして再び閉じる――でも、残念ながら、それって私に対して無力なんですよ」

「…………?」


 美笑ちゃんの頭がパンクしそう。


「私でしたらば、ロッカーが動いていることなんてすぐに分かります。一度開いてしまった扉があるとすれば、それは私の記憶力からしてみると、その少しの変化に気付いてしまいます。そして私の見る限りでは、全く変化はありませんでした。強いて言うならば――それこそチケットが無造作に散らばっていたくらいです」


 言いたいことは分かる。

 が、美笑ちゃん含め、三人の頭は大パニックだ。

 そんなことがあり得るのか? という話だが、記館さんにはそれほどの力があるとしか、言えないだろう。

 無忘探偵。

〈絶対記憶〉。


「犯人も迂闊でしたね。私の記憶力を侮るならまだしも、せめてロッカーの一つでも動かしていれば、それは私にしてみれば素晴らしいくらいの物的証拠ですからね」


 物的証拠は一つも残っていない。

 物的証拠を一つも残そうとしなかった。

 それが逆に、仇となった。


「ふう……ちょっと疲れたので、飲み物を皆さんで買いに行きましょう」


 記館さんが突然提案した。

 全員ちょっと困惑したが、まさか断るわけにもいかないので、控室を出て、臨時休業中の店内に向かう。

 そして皆、記館さんの後を追ったが、彼女は突然そこで止まった。

 そことは、

 大人向け雑誌コーナー。

 別名エロ本コーナー。

 ちらっと美笑ちゃんの方を見ると、やはり顏を若干赤らめていた。

 可愛いなあ。


「飲み物って、それっすかー?」


 弩頭くんが明らかに煽った態度で言った。

 セクハラだぞ、弩頭くん。


「違います」


 おおう。真面目な対応。


「よし」

 と、記館さんは、迷うことなく、中断にあるエロ本を一つ手に取って、

「やはり動いていますね」

 と、言ったのだった。

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