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全員が驚いたのは、記館さんがエロ本を手に取ったのも、勿論あるだろう。しかし僕は、それに対面したのは二度目だったので、むしろ彼女の言葉に驚いた。
エロ本がただ動いているだけ――ただ記館さんが言うそれは、かなり毛色が違う。
「いやあ、本当に上手く引っ掛かってくれました」
「どういう……ことですか?」
僕が犯人に代わって訊いた。
「エロ本の中に――ほら」と、記館さんが、エロ本のちょうど中間あたりのページから、何かを取り出した。「チケット!」
思わぬ収穫――と言ったところか、いや、違う。
記館さんは確実に罠を張ったのだ。
「いやあ、隠し場所としては最高でしたね。ここ――なんせ全く売れていない、売れる気配もない、誰も手をつけない場所ですから、客に間違って取られる可能性もありませんし、一年も放置したままの場所を、今更、店長含めるバイトの人が確認するわけもありませんもんね」
満足そうに、記館さんはチケットを眺めている。
しかし一体――どういうことなのか。
と、犯人は思っているだろう。
「ふふふ」と、本当に嬉しそうである……犯人目線で考えると、もの凄くイライラしそうな光景だ――この中で、内心イライラしている人間がいるということだが。
「あの、とりあえずどういうことか、説明してくれると助かるんですが」
福友井店長が言った。
「ですから、私の記憶力を侮らないでくださいってことですよ」
これだけでも、充分なほど説明になるとは思うが、しかしあえて蛇足の説明をするならば――彼女は僕とエロ本談義をしていたときに、エロ本の位置など全てを確認していたわけだ。そして犯人が、愚かなことにその罠に嵌り、そして記館さんは暴いた。
しかし、犯人に責任はないだろう。記館さんの記憶力を侮っていた――というか、そもそも誰が、本が少し動いただけの変化が分かるだろうか。たとえ無忘探偵と説明を受けようとも、それほど異常な、人間離れした記憶力を持っているなどと、誰が思うのか。
犯人は、逃れようもない、気付けるわけもない罠に引っ掛かっただけだ。
哀れだと――素直にそう思う。
偉そうに言ったが、恥ずかしながら、このトリックに僕が気付いたのは、記館さんがチケットを出したときだったわけだが。
「まあ、こんなことを仕掛けられるのは、この場に一人しかいませんね」
記館さんはご機嫌のまま、そのチケットを彼女に渡した。
「プレゼントフォー・五十嵐さん」
無忘探偵の笑顔は、美笑ちゃんのものよりも何倍も、無邪気のように思えた。




