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文具戦争  作者: 文音マルタ
第二章:先輩と協会と
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残留

その宣告は、突然に。


「藍はここで待機だ」


今、文具協会の会議室では、帰還した会長のもとで、昨日の会議で決まった通り世界各地で予言書を捜索するためのチーム決めをしようとしていた。

「・・・な、なんでですか!?」

藍としては捜索に参加したかったらしい。

「お前・・・確かダイヤモンドを一度使ったんだったな。それで、いつでも使えるわけではないということだったが・・・」

会長はそこまで言ってから定子をチラッとみる。定子が頷く。

「それをいつでも出せるように特訓をする。」

もちろん、私とだ、と会長は付け加えた。

藍が何か言いたげだったがその前に会長は部屋中に聞こえるように言った。

「その他の残留は、カッター、ルーラー、ペーストだ。」

ルーラーは定子のことらしい。

僕は聞いた。

「どうして定子を残すんですか?」

会長は答える。

「こいつはな、あまり動かせないんだ。ええと、なにから言おうか・・・そうだ。実はな・・・」


定子は数少ない文具使いのなかでも特に優れた能力者の一人だという。「マージン」とやらを突破したとか。それを突破するとその文具によって特殊な能力が備わるらしい。定子はそれによって単に物質的な能力だけでなく、付加能力として、“ルール”という能力を得たそうだ。文具協会内での言語の境を無くしたのも彼女だという。また、空間を捻じ曲げ、この文具協会の立地する不思議な空間さえも彼女の手によるそうだ。だが、その力も無限大というわけではないらしい。


「というか、その力で敵の勢力をブッ飛ばせないんスかね」

僕の率直な意見だ。

「無理だ。まず、目の前に敵がいたとしてもそういう“ルール”を作るのにはかなりの時間がかかる。そして、組織ごと潰すつもりでも、場所が分からないと無理だし、離れすぎていても不可能だ。」

なるほど、万能でも無い、と。






「じゃあ」

と会長は話を転換させる。

「日本部隊は隊長は創。副隊長は常盤。それから隊長補佐にシュナイダー。付き添いでヒロシ。そして・・・おまけでこいつ。」

そう言って僕のことを指差した。

「僕、おまけなんスか・・・」

「当たり前でしょう。戦い方も知らないやつがおまけ以外の何だっていうのかい?それともなにか。付属のごみとでも言って欲しかったかい?」

と少し厳しい口調で会長は言う。

「あ、あの・・・!」

常盤と呼ばれた女性が口を挟む。見た感じでは二十代半ばくらいか。

「シュナイダーさんは、どうして日本部隊なんです?」

会長は少し黙った後

「シュナイダーじゃ不満か?」

「い、いえ、そうではないんです!!・・・ただ、シュナイダーさんは自分の国・・・ドイツに行きたいんじゃないかと思いまして・・・」

「それなら」

今度はシュナイダーだ。

「心配は無用だよ、ナズナ。」

そう言ってシュナイダーは常盤に笑いかける。常盤 ナズナが本名なのか。

「第一、僕はあそこを母国だとは思っていないからね。僕の故郷は」

言いながら靴で床をトントンとならして

「『アメリカのロンドン』。此処だけさ。」

「・・・そう、ですか。」

心配無用と言われたけれど常盤の顔には苦々しい表情のみが残った。

それから他の国の部隊を会長が編成した後、その日もお開きになり、僕らは一時帰宅の準備をする事になった。準備、と言っても正直なにも持ってきてないのだから後は帰るだけだ。定子、藍、僕の三人で「日本部隊」と新しい表札が掲げられたばかりの部屋に居た。

それにしても今週は

───────色々ありすぎたな。

そういえば、藍と文房具研究会に行ってから一週間も経っていない。

だからそういう意味では“心の準備”という事かもしれなった。

僕と藍は黙ったまま、時間が過ぎていく。

その時突然ドアが開いて、ヒロシが入ってきた。

「いやぁ~、まさか俺も行く事になるなんてねぇ~、はははっ!」

ヒロシが陽気に話しかけてきたけれど僕達は黙っていた。

ヒロシは今回日本部隊に配属された事によりこの部屋までは立ち入る事が許可されたから少しはしゃいでいるようにも見える。

定子はどこかボーッとした様子でヒロシを見もせずに

「ヒロシ、黙って、出て行って」

と言った。ヒロシは頬を少し膨らませて

「なんだよぉ、つれないなぁ~!てゆーか、出て行くのはそっちじゃん?君は日本部隊でもないんだし?」

「それ、イヤミのつもりでいってるのかしら?」

「はてねぇ、分かりかねますなぁ」

定子は深いため息をつく。

「勘違いも甚だしくて笑えるわね。私は万が一の時にここを守るために残留するのよ。戦力外という事ではないの。というか、貴方こそ本部にいては邪魔だから部隊に配属されたんじゃないかしら?」

「なにをう」

「だってそうでしょう?・・・フフ、そう考えたら貴方の方が戦力外と呼ぶにふさわしいんじゃなくて?なにかしら、『付き添い』って?本来ならおまけ以下だわ。」

「俺が文具のチカラを持たないからってあんまバカにしてっとキレちゃうぜぇ・・・?」

「やめて!」

藍が叫ぶ。

「仲間同士で喧嘩したって利益はないでしょう・・・!」

「そうね」

「・・・全くだぜぃ」

ヒロシは顔に苦笑を浮かべて部屋を後にした。

しばらく全員黙っていたが

「さて、そろそろ行くわよ。」

と、定子が口を開いた。

「ここにいたら逆に気持ちの整理ができないかもしれないものね。」

そこで定子は藍の視線に気づく。

「大丈夫よ。もう、しないわ。」

そういうと定子は部屋の隅にクローゼットを見つけると歩み寄り、きた時と同じような通り道を作った。

さっきの会議の時シュナイダーが教えてくれたが、こうやって別空間へ移動できるのは会長の能力で空間を曲げ、“ペースト”がそれをくっつけているからだそうだ。そしてそれを安定させているのが定子の“ルール”という訳だ。

藍がまず入り、次に僕が入る。

通り抜けながらふと思った。


───会長の能力って、なんだろう───

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