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俺、英優一、二十七歳。
役職は店長。
今日も客入りは上々。
天気も良くて、カフェテラスに降り注ぐ陽の光やそよぐ風がとても心地良い。
ここはカフェと雑貨屋が融合した店で、今日は比較的カフェの方が賑わっている。
客層は女性が八割を占める。
理由?
それは……――。
「いらっしゃいませ。二名様ですね、ご案内致します」
茶色い合皮製の二つ折りにされたメニューブックを小脇に挟み、眩し過ぎる笑顔を振り撒きながらテーブルへと案内する若い男性スタッフ。
「御荷物はこちらへどうぞ。決まりましたら遠慮なくお呼び下さい」
同じく手にしていたメニューブックを、流れる動作で女性客に差し出す童顔ではにかんだ笑顔が印象的な子供受けもする男性スタッフ。
そう、客のほとんどが店員目当てのため、圧倒的に女性客が多いというわけだ。
「てんちょー。そろそろ交代しますよ」
「了解。こっちももう終わるから先に着替えててくれ」
眩しい笑顔はそのままだが、口調が素に戻って緩々だ。
そんな彼、小笠原清一郎に頷きながら、俺は動かしていた手を速めて荷出しを手際良く済ませた。
着替えると言っても、カフェ用と雑貨用のエプロンを着け替えるだけ。
雑貨フロアを担当すると、扱う物によってはどうしても服が汚れてきてしまうため、衛生上エプロンだけはカフェとは分けて使用する。
「着替え終わったか?」
二階にあるスタッフルームの扉を開けると、肩に引っ掻けて着るタイプのエプロンの紐を、ぐるっと腰に巻いて腹の前で結び終えた小笠原が目に入った。
「完璧っスよ」
「荷出しは終わってるから、今日は接客と商整を中心に頼むな」
「さっすが、仕事早いっスねー」
「普通だろ、普通」
軽口を叩いてくる小笠原にこっちも軽く言葉を返しつつ、さっきまで彼が着ていたのと同じ腰から脹脛まで及んだソムリエエプロンを引っ掴む。
「そういえば、今日も店長目当てのお客さん、来てるっぽいっスよ♪」
「それはどっから仕入れてくる情報だ?」
「え? コレコレ」
言いながら自分の目を指差す彼に、俺は眉間に皺を寄せた。
「……見て分かるもんなのか? それは」
「大体は。女の子の熱い視線は半端ないっスからね~。それに気付かない店長も、ある意味凄いと思いますけど」
「俺はお前と違って自惚れてなんかないからなあ」
「自惚れっていうより、これは勘がイイかそうでないかの違いだと思うっスよ」
「お前……何が言いたいんだ?」
ギロッと鋭い視線を向けたが、相手は既に扉を開けて逃げた後だった。
本当に勘の働く奴だ。
溜息混じりにエプロンを取り替えて、俺は鏡の前に立った。
あれから数日が経過したことで、寝不足はそれなりに解消されている。――と思いたい。
もう吹っ切れたと思ってはいても、それはただの強がりに過ぎなくて……。
(っていうか、女々し過ぎないか? 吹っ切る時ってどうすりゃ良かったんだっけ……)
寝不足は解消されても表情が暗いままでは客の前になど出られるわけがない。
冴えない自分の顔を鏡越しに見ていたらもっと気分が滅入りそうで、俺は顔を洗うためにトイレに寄ってからカフェフロアへ行こうと決めて、スタッフルームを静かに出た。




