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カミシバイ La bildoteatro




 九つの年の時、わたしは紙芝居のなかで神隠かみかくしにあった。


 紙芝居の絵のなかにそれを見る子どもが吸いこまれることは、別段べつだんめずらしくもなく大人も騒がないけれど、わたしの場合、ある前歯のない小男こおとこが見せる紙芝居のなかにほかの子ども数人と入り、わたしだけが行方ゆくえ知れずになって戻らなかったのだ。


 子どもたちを見張っていたつもりの小男はあせったらしい。


 芝居の文句をそらんじて述べながら自分が絵のなかに飛びこんだ。


 一度入っただけでは見つからず、集まった青年団の面々に叱責しっせきされながら入った六度目の捜索そうさくで、ようやく彼はわたしを見つけた。


 その時わたしは一匹の大きな蟷螂とうろうにらみあっていた。


 自分の作った芝居に蟷螂など出てこないのに、どこから入ったのかと、小男は不思議に思った。


 だがやはり芝居中に演者は注意がおろそかになるらしく、絵のすみからいろいろな生き物がまぎれこみ、紙芝居のなかで繁殖はんしょくしていたのだった。


 わたしは全身が赤く尾だけが緑色の鳥や、青い玉を吐きながら泳ぐ魚、それに空中の同じ場所で白い帯がなびくだけのようななんともわからない生き物を見た。


 ほかに花や木もめずらしい色と形をしていておもしろく、よそ見をしながらふらふら歩くうちにはぐれてしまったわけだった。


 神隠しだと大騒ぎになったわりには、事実はたいしたことではなかったのだ。


 ただあの絵のなかになら、子どもを隠して遊ぶ小さな神さまくらいいたかもしれない。


 惜しいことに、小男はうちの父にさんざん頭を下げてあやまり、わが家の裏手の空地あきちを借りて自作の紙芝居の絵をすべて燃やしてしまった。


 その後、前歯のない小男はしばらくうちで下男げなんとして働いていたけれど、ある時別の町に使いに出たまま帰ってこなかった。


 道端みちばたで休みながらふと思い出し地面に描いた絵のなかに、いたずら好きの神さまが彼を連れさったのだろう。





 Fino







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