24 100倍強化
オーガキングの棍棒と俺の鬼斬包丁がぶつかり合う寸前、一瞬だけ【限界突破】を発動する。
同時に【身体強化】と【狂化】を強め、強化倍率を引き上げる。
「ぬうっ…………」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
【狂化】の代償。
理性が薄れ、破壊衝動が身を焦がす。
今…………大体、50倍くらいか?
これで何とか、オーガキングと打ち合える領域に届いたはずだ。
「ふぅううううう……ッ!」
ああ。
体が軋む音がする。
身の丈に合わない力を振るう時の音だ。
普通、どんなに強化スキルを重ねても辿り着くのはせいぜい5倍か10倍。
50倍、100倍の強化なんて有り得ない。
「がぁぁあああああっ!」
巨大な棍棒を、真正面から受け止める。
避けるという選択肢は浮かばなかった。
殺さないと。殺さないと。殺さないと。
目の前のこいつを、壊さないと…………!
「あはァ!死、ねぇえええええええ!」
「気でもふれタか、人間」
棍棒が唸りを上げて地面を抉る。
飛び退いて躱したが、破砕したアスファルトの破片が全身に襲いかかる。
それに怯むことなく突進し、鬼斬包丁をぶん回す。
…………だめだ!【狂化】を切ろう!
「魔弾!」
一瞬だけ。
【狂化】が切れてステータスが半減し、新たな強化スキルを借り、発動するまでのほんの一瞬。
そのための隙を作らないと。
「魔法勝負か?面白い…………アイスランス!」
数十発の魔弾に、オーガキングは数十本の氷の槍を返してきた。
オーガって知力低くて魔法が下手なんじゃなかったのかよ!
喋ってる時点で知力が高いのは分かってたけど。
「魔弾んんん!」
「アイスランス」
くそ……だめか。
普段通りに考えられる程度まで【狂化】を緩めて、鉈のようで斧のような巨大な包丁を振り回す。
次に【狂化】を最大まで強める時、【過剰燃焼】を使おう。
そこで一気に決めなければ。
【剣術】【斧術】【大剣術】…………
ここ1ヶ月、色んな武器とそれに関するスキルを使って戦ってきた。
ここ3日は【斧術】と【大剣術】をメインに、体が動きを覚えるまで鬼斬包丁を振り続けた。
今なら、スキルなしでもある程度扱える。
魔力を込めて思い切り振るう。
ステータスが上がっているおかげで、包丁が軽い。
小枝を振り回すかのような手応えだ。
オーガキングは、それを棍棒で受け流した。
器用だな。
思わず体が前につんのめった。
力押しだけでなく、こういうこともしてくるからめんどくさい。
気を抜くと魔法が飛んでくる。
一撃一撃が速くて、重くて、正確で…………
これでまだ本気じゃないなんて悪い冗談だ。
本気を出された後に倒せるか?
本気を出す前に倒せるか?
本気を出すのは、勝ち筋が見えた時か対処できなくなった時だ。
だから。
「ふン……終わらせルか」
元々勝ち筋が見えていたはずのオーガキング。
そう呟いてオーガキングの姿が消える寸前、
(【過剰燃焼】!!)
対処できなくなった俺は、躊躇わず強化倍率を100倍まで引き上げた。
ミリミリッ
ピキ、パキ…………
体はこれまで以上に悲鳴をあげている。
5億程度しかないHPが80億のステータスに絞め殺されている。
鬼斬包丁を右手に。
迷宮倉庫から、斧を1本取りだして左手に。
『首狩り斧』
ファンタジーでよくある、身の丈を超えるような大斧では無い。
長さはせいぜい1m、先端部には30cm前後の分厚い刃が装着されている。
名前の通り斬首刑に使われるモノだが、武器としての性能も悪くは無い。
そして、その説明にはこう書かれている。
『──斬首刑をつつがなく実行する為、死刑執行人に【斧術】を付与する』
ギロチンの登場まで盛んに行われた斧による斬首刑だが、”死刑の中でも軽い刑罰”であるにもかかわらず、執行人の腕前によっては何度も切りつけるなど、残酷な刑罰に早変わりしてしまう。
その武器を扱うスキルに補正をかける武器は多いが、スキルそのものを付与する武器は少ない。
「──うしロだぞ」
「知ってルよよよぉお」
瞬間移動と見紛う速さで背後に回ったオーガキングの棍棒を、左右の武器を頭上で交差して受け止める。
【斧術】の効果は首狩り斧だけでなく鬼斬包丁にも及のだ。
【斧術】があればこの破壊衝動のまま戦っても無様なことにはならないだろう…………なんて、頭の中で思っている。
体はもう、勝手に動く感じだ。
「ぬ……面妖な。一体どこまで上がるのだ?」
「死ィーーーねェ!」
「正気は保っておらんのか、なるほど……」
思い通りに動かすのは、疲れるけどできる。
でもあんまり疲れるもんだから、いざと言う時のために取っておく。
(迷宮倉庫…………)
倉庫から電柱を10本くらい出して棍棒の軌道上に落とす。
【迷宮管理】でオーガキングのいるブロックを泥沼にする。
防壁生成、罠設置。
罠は全部避けられる。
予備の鬼斬包丁を1本投げた。
躱され、どこかへ飛んでいくが構わない。
迷宮倉庫の使用権を付与した眷属が収納すれば、また俺が出せる。
オーガキングの棍棒が、ガードの上から俺を吹き飛ばす。
そして、また……消える。
「終わりダな」
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