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●ほうき星町のセリゼ公爵(前)

ざっと、このおはなし(ほうき星町の人々)というのは、こういうノリのおはなしです。

走りはじめた夢が止まらないなら、狂ってしまった夢はどこへ行くのだろう。


 星を、時空を貫く狂熱が、胸を焦がして終わるものか。それは骨を裂き、魂を殺し、ひとがひとであることを終わらせる痛み。


 神はいない。


 なぜならこの世界において神は……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夢を見ている。


 覚醒夢ってやつだ。私はその睡眠心理学タームを知っている。頭いいから。貴族だから。関係ないって? なにをいう、あるだろう、この私の高貴なるスタイルから滲みでる知性たるや……。


 ……。


 夢だから、誰もつっこんでくれない。寂しい。現実なら、月読つくよみや、フレアが、いかようにでもいじってくれるのに……。


 ……月読、か。フレア、か。


 私の家族。


 やっと得ることのできた、暖かい家庭というもの。それは、この荒野に私が居たころは、到底持てなかったものだ。


荒野。


 焦土。黒い。

 曇天、闇色、ひとの思いの映し鏡にして。


 私はそんな、絶望の色に塗りつぶされ、呼吸するたびに、酸素と一緒に、瘴気めいたアトモスフィアを吸い込んでしまうような、サイアクなプレイスにいた。

 

好き好んで居る訳じゃないさ。


 ただ、「あいつ」を殺さない限り、穏やかな日常なんてものには帰れない……違った。このころの私には、そういう意味での「日常」は、なかった。皆無だった。あるのは、キリングフィールドで同族同士で殺し合う日々だ。それを日常と呼んでしまうのなら、そうなのだろう。毎日だったし。……呼びたかないよ、でもね。でもね。


 ほうら、目の前に、「あいつ」はいる。私とは大いに違った、趣味の悪い光り物のスーツ姿。首にはストールを巻いている。柔らかそうだが、はて、材質は何だろうね? 正規ルートであればいいよ。ただ、この業界、処女百人を集めてレイプしながら抜き取った陰毛で……みたいなのがアリアリなんだから吐き気がする。


 私はいつものように、正装。黒の礼服、黒のパンツルック、赤いタイをして、ボレロつきの黒いマント。


 少女のときと--もう数百年も前になるか--変わらない年格好。色素の薄い髪、ツーサイドアップにして。


「相変わらずふざけた格好だ、『公爵』?」


 語尾の発音が、きわめてムカつく、尻上がり発音。こうしゃくんんぅんんぅん? みたいな感じ。ほうらムカついてくるでしょう。


 ていうか何だ。私は確かに、始終こういう格好しかしてないからバリエーションは少ないが、少なくとも、大層品のよいかっこである自負はある。お前鏡見ろよ……と言いたい。


「お前に言われたくないね」 


 しかしね、ふたりとも、その言葉の揚げ足取りあいに、価値を見いだしてるわけじゃないのだ。


 どのみち、妥協点はない--あいつが死ぬか、私が死ぬか。


 そして、私が死ぬ可能性は--私が許さない。


 私は剣を握る。奴は槍を両手で抱える。


 どちらともなく、跳躍。乾いた大地に粉塵舞って、姿消えたと思ったら、次には、轟音。つばぜり合いの音ではない。重機の激突音。


 そう、これが、


 吸血鬼の殺し合い--



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 肉を切り刻み、暗黒の血をまき散らし、断末魔の叫び声を聞きながら、私は、ようやく目を覚ますのだ。


 そんな生活を、もう飽きるくらい何年も。


 そう、みんなが定義する「日常」を得ても、ね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ぱちっ。

 

私こと、セリゼ・ユーイルトット、目が覚める。


 視界に見えるのは、暗黒。けど、これは、夢のなかのような、胸くそわりぃ「黒」じゃない。吸血鬼にもっとも適した「棺桶の中」の、暗黒だ。ああ、まったり……。


 そうか、人間にとっての朝のぬくもりベッドもこういった感じなのか、と私が実感したのは、この家で「こたつ」なる文明の利器にふれてからだった。


 こ、た、つ……


 まさに東洋の随の極みである。こたつ、君は飢えたこころ、閉じた心を、優しく包み込んでくれる……その上みかんというオプションまで……ああ、東洋文化万歳。


 だというのに。


「あのクソがぁっ!」


 どげしっ! と、私は棺桶を蹴り飛ばす。


 しーん。


 衝撃は吸収され、あとには残響だけが残る。むなしい。


 まあわかってるさ。こんなことしても、何のなににもならない、ってことはね。でも……でも、こんな理不尽な夢を、毎回見せられる方にもなれっつーの。


 それにしても。


「相変わらず私の棺桶は頑丈すぎるな……」


 さすが私特注の棺桶である。


 私レベルの貴族になると、棺桶なんてものは、オーダーメイドだ。当然である。貴族が寝台に合わせるのではない、寝台が貴族に合わせるのだ。


 しかし、とはいうものの、私はこの棺桶を作ってくれた職人、並びにお父様に対する尊崇の念を忘れない。「この私が蹴っても崩壊しない」なんていう、アホみたいな頑丈さと、世の厳しさを、せめて床について悪夢を見るまでは忘れさせてくれる、寝心地のやさしさ。ふつう、そのふたつを兼ね備えるものは、ありはしない。


 しかしここにある不思議。あな、不思議。だったらもちっと大事にあつかいなさい私。


「起きるか……」


 ぬぼーっ、と身を起こして、棺桶のふた、ぱかり。そして部屋の中も、完全遮光してるので、また暗い。


 ところがどうだ、私のこの吸血鬼アイズは、完璧に見渡してしまう……部屋の隅々まで。隅々まで。そう、薬品棚の惨状や、調合机の惨状や、生ゴミ入れの惨状や、散らばった紙屑の惨状や……。


 ……見ない方がよかった。良し悪しだな、この吸血鬼アイズ。

 

しょーがない。めし食ったら片づけよう。


 フレアは説教はせんだろう。さすがにアレも、きれいにはしてるが、趣味が趣味だし。工作少女が部屋の汚さを説教するな、的な。


 私はポールに引っかかっている上着と、マントを羽織り、下の居間に行く。室内なのに礼服でマント、と今までの人生でいくらつっこまれただろう。そのたびに私は、貴族らしく、超メンチ切るのだ。あいてはしぬ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おはよーフレア」


 朝早い、我らが大家さん。たぶん五時くらいから起きている。BBAか。


「おはようございますセリゼちゃん。ところで今すごい失礼なこと考えてませんでした? 家賃あげますよ?」


ロン・K・フレア様におかれましては、玉の露の花弁から滴り落ちし、朝ぼらけの極みに、健やかなるお目覚めをされましたでしょうか」


「土下座までしながら、そんな仰々しい挨拶をしなくても」


 だってぇっ! 家賃あげられるの、税金より怖いんだもん! 


 この目の前にいる、この家で一番エラいひとが、私の親友にして家主、そしてついでに、天才工学博士、フレアである。


 私は土下座を解除して、眼前の少女を見る。


 年格好は私よしも幼い。私とは別ベクトルの、冷ややかな感じに色素が薄い髪を、首を覆うくらいに伸ばしている。ちょい長めのショートって感じ。


 で、ロリ博士。いっつも好奇心旺盛って感じのくりくりした瞳と、それでいながら知性をたたえた表情。瞳は熱く、相貌は穏やかである。こういう奴が一番怖い。

 

ちっこい体を、いっつも白衣で包んでいる。その下は、常にラフな姿だ。だいたいセーターやシャツに、キュロットスカートやジーンズ。色気のかけらもねえ。女っけのかけらもねえ! 三百六十五日、パジャマと水着以外、同じ格好である。


「私もフレアも、なんかのゲームやラノベに登場したら、キャラデザの使い回し楽な存在だよね」


「あなたはなにをいっているのですか?」


 土下座を解除した私。謝ることはこれにて一件落着だと思い、思ったことを素直に発することにする。これが私のジャスティス。マイスタイル。守りたい、このあり方。


「まあわけのわからないことをおっしゃるのは、いつものセリゼちゃん貴族クオリティですけど」


「ほめるなよ」


 穏やかにほほえむフレアを向かいに、私はテーブルに赴く。座る。


 座るとはいうても、この家は東洋スタイル……特にZTNS(倭国)スタイルなので、冬は先刻申した通り炬燵、夏は涼やかなゴザに、縁側開けっぴろげである。


 今は初夏。そうかしょーか。


 なかなかのダジャレなのではないだろうか。


「フレアさ、いまはめっきり初夏だよね」


「しょーかしょーか、みたいなダジャレでも考えたんですか?……って、なんです、そのおもしろい顔は。ナマズが腸捻転起こしたような」


 私そんなに変わった顔してるか? ……まあ、完全に見通されたことはショックだったけどさ。


 まあそれより。


「ごーはーんー!」


「はい、そうですね。そろそろ起きてくる頃合いだと思って、用意してありますよ」


「ぐへへ私って王侯貴族? 上げ膳据え膳だってばよ奥さん」


「貴族でしょう?」


「……あ、いや、確かにそうなんだけど、いざ真っ向からそう言われると、すっごい罪悪感」


「だったら言わなければよいのではないでしょうか」


「……くぅー! こうやってボケを殺されるとはっ」


「なるほど、セリゼちゃんにとっては、貴族とはボケの対象だったのですね。安い覚悟ですね」


「んだとこらこの小娘、喧嘩売るってのか?」


「貴族は安い喧嘩を買うのですか?」


「むぐぐ……」


 ああ言えばこう言う!


 この家は貴族に対する敬意が足りない!


「敬意が足りない!」


 大事なことだからリアルでも言いました。


「セリゼちゃんの経緯を知っていますからね。そのような軽易なる発言で敬意を損なってはいけないと思いまして」


「うまいこといいおって……しかし、そのように思うておるというのは、なかなか」


「いえ、適当な文章を、適当に脳内ワープロ変換で遊んでいるだけです。大家さんは何も考えていません」


「考えろよ。お前さんは考えるのが仕事だろうが」


 そのつっこみには、春風のようなささやかな笑みでもって、静かに無言の回答がもたらされるのみであった。……あれ、これって、いいようにはぐらかされて、手に取られただけ?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 朝は麦飯、きゅうりの漬け物、カレイの干物、油揚げとわかめの味噌汁。お茶はほうじ茶。なんて堅実なスタイルなんでしょ。

 

そしてつまみ程度に、ガーリックミートソース和えのニョッキ二人分、チンジャオロース二人分、杏仁豆腐三人分。それを私仕様で付け合わせとしていただく。


「慣れましたけど、この仕様は、あきらかにおかしいと思うのですよ」


「ほえ? なにが?」


 一心不乱に礼儀正しく飯をかっこむ私。何が疑問なのだろう。


 フレアは嘆息し、言う。


「いえ、作ったご飯をおいしそうにいただいてくれる、というのはうれしいものです」


「よかよか。これからもよろしく」


 もぐもぐ。


 フレアも、漬け物をつまみ、ちょいと麦飯と一緒に食べる。


 もぐもぐ。


「血の問題さえクリアすれば、セリゼちゃんは、ほんと何でも食べてくださいますし」


「いくら精がつくいうても、血液系統はやっぱだしなぁ」


「私も、スッポンの生き血とか、ノーサンキューなのですから、いいのです。月読さんはどうなのかわかりませんが」


「あれ絶対タマキーンまで食うね。漢方だとかいうて」


「……シュールな光景ですよね、目の前には、数人分のディナー的な量を、すごい速さで食べる女の子。なぜか黒マントを羽織っていて、口からでるのは、睾丸だとか」


「どこの誰だそんなバカは」


「YouですよYou。Mrs.Lady Gunner?」


 まあ私は、異常形態とはいえ、銃を獲物として使うのだから、間違ってはない。


 もぐもぐ。ずるずる。ぱくぱく。


「いやあフレアのご飯はおいしいねえ。やっぱ家庭料理には、家庭料理の味ってもんがあるね」


「すごい邪気のない瞳ですね、ふふ」


「そう?」


「作りがいがありますよ。……でも、その異常体質、不思議ですよね」


「ああこれ?」


 フレアが言うのは、これだろう。

 「ガーリック」ミートソースを、ぱくぱく食べる、吸血鬼。ハハッワロスなにを戯けたことを……とか、まあ、通常だったらいわれるだろう。

 

ところめが、私においては、それが普通だという。このおかげで今まで何回吸血鬼であることを疑われたか。


 でも、私は吸血鬼である。そして、だからこそ私は吸血鬼コミュニティの敵となった。どういうことかって?


 順を追って説明する。


 私は、血が、吸えない。


 そんな吸血鬼なんです。


 それ吸血鬼と違うやん、と今まで何度となくいわれた。いわれるだけならまだいい。差別を受け続けてきた。吸血鬼にとって吸血とはアイデンティティでありレーゾンデートル(存在理由)だ。人喰いワニがひと喰わなかったら、ただのワニやん、みたいな。


 事態はそれより一層火急で、吸血ができないということは、……うーん、これいっていいのかな。まあいいや。言おう。吸血鬼にとっては、そんな奴、ゴキブリや、腐った残飯を喰う奴に等しいのである。裸踊りする奴よりも、よほど下級。存在として、ゴミ的な。


 そういった奴……私のことなんだけどさ、まあ迫害してれば、いじめていればいいだけの話なんだけど、なまじっか私、めっちゃくちゃ強かったからねえ……それが余計に吸血鬼コミュニティの逆鱗にふれて、すっげえややこしいことになってたの。


 んー、いいや、そんな話は。


 しかし血を吸えないことは、吸血鬼にとっては死活問題なわけさ。なんてったってパワーソースだ。そればかりか、吸血鬼が吸血鬼たる所以のもうひとつ、「吸血魔法ブラッドマジック」の可否にも関わってくる。


 おーざっぱに言えば、吸血鬼ってのは霊長最強なわけ。ほかにも強い奴らはいるけど、基本的に、「この世の覇者」たる人間=霊長類、よりも、身体能力、魔法行使力、スタンドアロンでの行動力など、単なる強さでいったら、強靱なのである、吸血鬼っちゅうのは。


 血さえあれば、体はすぐに傷を癒し、強大かつ陰湿な魔法を使うことができ、己が身を様々な魔物に化けることができる。空なんか簡単に飛べる。 


 その代償として、様々なデメリットがあれど、しかし「デメリットを回避する策を練れば」、あとは最強なのは、言うまでもなく。


 ……が、それもすべて、吸血魔法の行使と、吸血によるパワーソースの安定的な補充によるのが、大前提である。


 血が吸えない私は、それだけで、超不利なのだ。


 それでも、私が吸血鬼界で最強になったけどね。


 どうしてそうなったか。


 ひとえに、自分の肉体を改造したからである。魔法で。そして私は、自己の生まれつきの膨大な膂力と魔力を保持したまま、吸血鬼としてのデメリットを「書き換え」、なくしてみせた。


 んでもって、パワーソースは、血の代わりの、大量の食物。


「ふふん」


「なにを偉ぶっているのです?」


「私ってやっぱり最強なんだなぁって思って」


「否定はしませんけど」


「つっこんでよ、かまってよ。『あの子はひととは違うから、あなたが守ってあげてね』って、古い歌でもいってたでしょ」


「異界の幻想楽団ですか。『そこにロマンはあるのですか?』」


 打てば響く頭脳な相手がキュートだぜ! ネタ殺し、ダメ、ゼッタイ!


 フレアは軽く嘆息するようにして、


「そもそもセリゼちゃんの強さをこけにするのは、キレート山脈の高さを0mだと言うようなものですからね。科学的に無理があります」


「科学的に無理とまでいうかい」


 キレート山脈というのは、私たちがすむ、この「ほうき星町」から、この町のシンボルである大きな湖を越えに越え、ここ一帯の河川流域を作り出す、巨大な峰々のことっす。


 標高数千メートル。この北国において、んな巨大山脈がどかーんとあると、地形天候も不可思議なものになるってもので。でもこの山脈が隆起しなかったら、北国においてこのように豊潤な土地が生まれることもなかったわけで。


 ふぅ、まじめな解説は疲れるぞ……。第一フレアのちょいとした科学蘊蓄のフォローなんて、私は楽しめるけど、血の気の盛んな若人どもは楽しくなかろう。……ひょっとして私ってボケ殺し?


 つまるところ、


「やっぱ私って最強なわけね」


「調子のってますね、ふふ」


「そうやってつっこむわりには楽しそうじないの」


 フレアはそれを聞き、答えるのだった。


「どことなく、朝からセリゼちゃん、影がありましたからね」


 ……ふう、このロリババア四十代とは、もう二百五十歳以上の開きがあるんだが、私。なのに、こうして見透かされて、フォローされる、とはね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 朝食をとって、家を出る。家出ではない。ましてや追い出されたのではない。字は似てるが、私はそこまで落ちぶれてはいないはずだ。そう信じたい。

 

北国……アステラルダ大平原を隣に、イーシィ湖の湖畔に、我が町はある。


 ほうき星町。


 変な名前。このあたりはトーラ語圏に属しているわけである。

 

周囲の地名、例えば「アステラルダ」「マーサ・ル」「レヴァス・ファンジェ」のように、口を若干「アール」と「エル」の間のように巻きながら、軽く「あー」と発音するような感じの音韻がおもな言語発音体型であって、共通語と文法はわりに似ているが、より四角四面な共通語の発音、文法と違って、「木訥」といってよいほどのものがある。悪くいえばちょい田舎くさい的どんくささ。


 が、「ほうき星」である。


 トーラ語で「ほうき星」「彗星」を表す言葉でもなく、共通語でさらりと「ほうき星町」。タウン・コメット。


 なんだかそう言うと、この町が、ニュータウン的な進行住宅街のそれに思えるかもしれない。ほら、あるでしょ? 都会あたりで、昔ながらの横道に、空気読まない的オサレネームつけるようなの。「都会のごく平凡な道路」を、「シンデレラロード」と呼ぶような。おお寒気がしてくる。


 が、奇妙なことに--ほうき星町は、古都も古都。マーサ・ル、レヴァス・ファンジェといった、ここいらと隣接している都市も、それなりに古いものであるが、それでも数百年のスパンだ。


 ほうき星町は……何年になるのだろう? 多くの古参どもに、それを聞いた。


 東西魔法対戦より前とか言う爺がいた。それは軽く五百年前である。


 ワルキューレどもが学園都市を空中に築いて、一大勢力を保っていたころから、という獣人がいた。それは軽く千年に達する。


「ずっとずっと前ですよ」


 と、湖の精霊--この町で一番エライひとだ--が、わりにさらっと言った。が、こいつのこれまで経てきた年月、時代は、一個の生物のオーダーを軽く軽く越えていく。そいつが「ずっと前」というのだから、押して知るべしである。


 そんな昔から、この町は、静かに広がる湖のほとりに、湖と同じくらい静かにたたずんでいる。昨日の続きが今日で、今日の続きが明日なんだからさ、みたいな感じで。


 だれか「町史」みたいなもんをまとめてもいいと思うがね。この町、物書きや歴史学者もいるんだから。が、そういった奴らが片手間でできる仕事でもないらしい。昔話に花が咲くことがあまりに多すぎて、なにから手をつけていいやら、みたいな感じ。


 ……あれ?


 いやね、ずいぶん、私、饒舌になってるな、って感じて。なんだろう?


 私はてくてくと、湖のほとりのバイパスを歩いている。バイパスいうても、湖から、彼方の丘陵に広がる草原の中を突っ切っていくだけの、白い白い、長い長い道である。それが町の外郭を、絵を描くようにして囲んでいる。


 この道をずっといけば、イーシィ湖流域の、よりにぎわったところ、より寂れたところ、より剣呑な瀑布へと、さまざまにいける。あるいは大平原に赴くこともできる。


 わが家族の男の娘仙人こと月読は、こないだあいも変わらず、この長い長い道から、まーた旅に出やがった。あの放浪癖ショタは、気が向けばふらっと旅にでる。あいつとも百年以来のつきあいだけど、まだその習性は修正されない。なかなかのダジャレではないか……。


 ……。


 ……。


 思ふれど 誰も介せぬ このダジャレ


 一句詠んでしまったではないか。ああ、むなしい。なんだかんだで、月読は、のほほんとした人格でありながら、つっこんでくれる奴だったのだなぁ、と思い知る。


 なに話してたんだっけ……そうだよ、ほうき星町についてだった。


 私こと、セリゼ・ユーイルトット第十四代公爵は、あの悪夢のような日々を強引に終わらせ、持ち城をも手放し、今はこの静かな町で余生みたいなのを送っている、ってこと。


 「いま」というポイントをだけ切り取ってみれば、ずいぶん穏やかな人生になったのかもしれない。


 トラウマは、消えないさ。いつまでもジクジクと思いだし鬱をしてるのも、確かによくないことだっつうのは、知っとる。が……しかし、そも、傷って消えるもんなのかね? 誰か精神可視化しておくれよ。


 あるいは……


 私はあたりを見渡してみる。


 すると、鬱屈気味なトーンが、スクリーンが変わるかのように、ふっと、抜けていく感触。それほどに、自然が豊かに広がっている。


 どこまでも延びていく道路の横には、北国の春夏の、色濃くも落ち着いた緑が、巨人族のカーペットのように広がっていき。


 そのさらに隣には、星の砂のような白砂湖岸を挟んで。 そして。


 ……さあああーぁっ、と、広く深く水平線を埋め尽くし、たゆたうイーシィ湖……水、群青にして、澄み切って。


 水鳥が飛んでいく。一羽だけ。どことなくくすんだ色の鳥であり、恐らくいままで愛護されたことのない鳥だ。……誇りだけを心に抱いて、飛ぶタイプの鳥だ。


 そんな鳥が、獣が、この一帯には多い。生態系は豊かだが、そんな心持ちが、似てたりする。


 それは、獣だけではなく……あとはわかるな?


 透明な世界だった。あんまり濁りみたいなもんが見受けられん。時計の針が遅くなっていっとる錯覚。


 ……なんだか私、どうも饒舌なセカイ系詩人になっとるじゃないか。


 でも、たまにはよかろう。


 私は空を見上げる--血みどろの時間にはもてなかった行為--そこには、かすかに星が見えた。朝っぱらだというのに。果てぬ夢の躯のように。


 すぐ近くに、星のセカイがあるように思えた。5kmくらいみたいに。郊外のデパートかっつーの。


 かのように、さまざまな距離感がようわからん状態の地は、星とオーロラと水と空気によって、成り立っている。


 丘陵には、白い花が、朝の太陽を得ようとしている。さあっと、カーペットが広がるのだ、幻想めいて。


 草萌ゆる、白く。私の黒衣が、風にはためいた。かすかな力だったけれど、悪い気持ちじゃなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ずごごごご……

 

と、空に音が響く。


 くそが、いい気分だったのに……いや厄災がきたと決めつけるのいくない。かわいそうなのが、助けを求めているかもしれんし。


 私は立ち止まり、湖の上空彼方をみる。


 禍々しいオレンジ色に縁取られた、黒い円が、なんの前触れもなく、現出していた。魔法陣。召還系の。彼方より何かを呼び寄せるための術式……で、あるのだが、はてこの場合「どこぞの誰が?」ということは、さほど問題とされない。


 この世--レッズ・エララと呼ばれた世界--では、よくあることだ。どこからともなく、こんな魔法陣なり、特殊な魔術の励起なりがあり、どこからから--時空だの時代だの、歴史だの空間だのをひょいと越え……「最初の世界」からの、はぐれ者たちが、やってくる。


 禍々しい黒円が、バチバチと放電するかのように存在感をアピっては、さあでるぞでるぞ、みたいな煽りめいた感じ。これでチワワ一匹だったら怒るぞわたしゃ。

 

突風! 


 そして一気に陣は解かれ、彼方の空気が放出される。あちらの世界と、こちらの世界が、一時的にだけどリンク、そして彼らは現れる!


 「テケテケブブブーンチャッチャカチャー!ペロペロロン」


 ……ユーロビート? このやたらと軽薄な音の配列は。まー、やかましいやかましい。どこぞにウーファーでも積んでるのか、まるでクラブなみの音圧じゃないか。ズムズムダカダガドゥルルルン。その上に乗る、てってけてー、な軽薄なシンセメロ。


 姿、表すは、未来世紀の巨大宇宙戦艦。かつて海を駆けた軍艦をモチーフにし、対宇宙仕様とされた鋼鉄の船。


 しかし、それはいたるところがボロボロで、マストを模したアンテナはひん曲がり、艦橋は崩落寸前だ。ていうか船体下部。明らかに大穴開いてるじゃまいか。


 そんなボロ宇宙戦艦、レッズ・エララに召還さる。


 乗組員が、甲板に集っては


「アーーーーオ!」


「ギャヒーーーッ!」

 とか、野蛮人そのものの咆哮をあげておる。

 

んで。


 即座に乗組員、お手持ちになられたのは、銃器でしたね。


 「ヒャッハー!」


 「狩るぜえーっ! 犯るぜえーっ! 盗るぜえーっ!」


 ……そうか、わかった。


 バイタリティの横溢していること自体は、むしろ慶賀すべきことだろう。人間、エネルギーによって、ものごとの成功率とか、ポテンシャルとか左右されるわけだし。


 だがなぁ。どっかから勝手に現れた宇宙海賊に、この静かな生活を荒らされるというのも勘弁なのであって。


 しょうがない。話し合おう、紳士的に。


 私はマント内部の亜空間ポケットから、ひと振りの剣を取り出す。なかなかに大きい。


 両刃。がっしりとした作りは、むしろ盾としても十分に機能する。黒か白かで言ったら白よりの材質、の刃。ぎんぎらに煌めく刃というより、落ち着いた刃。しかしてその重量、ひと一人ぶん。見たれそのグリップの素っ気なさ。見よ鍔を、ただの、剣と交わる対角線。スタイルは、かくして十字。素っ気もない。ない……が、どう見たって、この剣は異常だ。

 

グリップあたりを中心にし、銃が……リボルバータイプの挿弾機構が備え付けられている。バレル (銃身)は、がっしりとした両刃と平行に、彼方を見据えるがごとく。


 内蔵式銃剣。


 フレアの作品である。そしてこれが、私の愛剣 (のうちのひとつ)だ。


 私は、ひょい、と、海賊船に向けて、空中を駆ける。空を飛翔するなど、私にとっては屁をこくより軽い。ガスだけに。なかなかのジョーク……だれか、だれかつっこんでよぉっ!


……後半に続く!(だいたいこれくらいの文量です)

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