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ご意見募集中、まだまだ続いてマスヨ?
さて、そんな感じでのんべんだらりと会話を楽しんでおります三人。あたり一面機械の残骸が黒煙を吹いていて、セリゼの手からは、今まさにもがれんとする牙から溢れ出る血、血、血、だらだらと、でろでろと。Oh、流血スプラッタ!
だらだらしてるのが悪かったか、吸血鬼、最後のあがきをする。唐突に。
思いきり口を開け、声にならない叫びを発する。
刹那、同時に、四方の残骸から、血で形成された棒状の刃が、長く、長く、蛇のように柔軟に、一挙に湧き出てきた。その刃、紅く、まさに吸血鬼の魔法。
夜の闇の中でも、その刃、紅く。
吸血魔術。
ブラッドマジック、ブラッド・シャッフリング・アート、寄夜紅血術、悪魔の御技、
さまざまに呼ばれ呼ばわれルビを振られ、それほどに異名があるものの、結局いい示すところはひとつ。
血を媒介にして(パワーソースにして)行われる、魔術体系の中でも最悪のもののひとつ。
あの刃にしてもそうだ。名刀、の切れ味ではとどまらない。そのような名刀に斬られた者どもの怨嗟をそのまま刀にしたのである。よって、その刀の切れ味を知っている。痛みを知っている。もはやその怨嗟しか残ってないから、斬れ味も、痛みも、より純化する。
てろりと妖しく光る黒紅剣、して、計八本。
その刃、セリゼに勢いよく飛びかかる!
「ほう、やるじゃない。最後っぺにしては」
のんびりと感嘆しているセリゼ。
避けることなどまるで考えていないように見える。
刃は大気を切り裂いて飛来する。飛来しながら、その空気の中に、濃密な血の匂いを撒き散らす。ぶくぶくと、細かな泡が刃面にたつ。斬ると同時に溶かすかのように。
獣を捉える罠のように、セリゼを縦横無尽に斬り伏せる!
…
…ということが一瞬で起こった。
吸血鬼は一矢むくい、退散の準備になれたかと思った。
釣り人は、その一撃についていけず、目を見開いていた。
だがその一瞬のうちに。
キギフィはセリゼの背後瞬間移動、そして立ち、槍を勢いよくぐるぐると回転させながら、その刃を全部打ち伏せる!
くるくる、くるくる、ヘリコプターのように。そして回転せし刃、風力発電の風車の残骸のごとく、地面に突き刺さり。
キギフィを背にしたセリゼ、後顧の憂いを完全に絶ち、吸血鬼に猛然と挑みかかる。退散の準備を終えた……と、ぬか喜びした哀れなる吸血鬼、「それより強い吸血鬼」にあえなく首根っこを掴みとられ。
しかして吸血鬼、叫ぶ。
「ゴキブリ喰い! ゴキブリ喰いの癖に!」
「強弱、という真理をわきまえろ、下郎。……そしてその言葉を吐いただけで貴様は殺しを回避できる権限を未来永劫失った」
まるで力持ちハッスルマンが、握力でトマトを握りつぶすように。
パワー的にも、絵面的にも、実にその表現似つかわしく。
ぐしゃっ! どぴゅっ! がりごきがきっ!
そして、ぴっ、と、手にこびりついた血・肉・骨のかけら、髪の毛といったものを、払うセリゼ。
トマトを爆ぜさせるように、吸血鬼の肉体を爆ぜさせた。このスプラッタが通じない御仁は、自分のお顔にセルフベアクローをかましてみていただきたい。その「ありえなさ」が、実にフィジカルにお分かりになられるかと。
セリゼは吸血鬼の核まで潰しきった。吸血鬼は、それなりに能力があるといっても、半端モノらしく、コアの自由自在な移動までは習得しておらなんだ。
もっとも、そもそも、それだけの肉体的修練・精神的自由度の高さがないからこそ、メカに頼るのだ、と言えなくもなく。
果たしてそのような吸血鬼、コアを牙から他の場所に移すということもなかったので、セリゼにより顔全部を砕かれて、一件落着である。
「しっかし、そこまでするかね」
キギフィは、羅刹の血だまりベアクローのあとをみて、セリゼに言う。
「血、嫌いなんでしょ?」
「飲まなかったら平気。私の全身には無数の魔術ドーピングがかかっていることは承知でしょ? その中のひとつに『ラップのように全身コーティング』っていうのもあってね」
「ちーと! ちーと!」
宴会とか披露宴とかで「きーす! きーす! ちゅっちゅちゅっち
ゅちゅ!」みたいなコールがかかることあるじゃないっすか。あれ第三者的視点から見たら結構冷めるんだけど、当事者からしてみれば、溢れんばかりのリア充爆ぜろ的やけっぱちで、キスコールを行うのである。何の話をしているのか。
まあそんなノリで、セリゼのチートっぷりをたたえるキギフィ。実際、そうでもしなければやってられない的なチートなのだから、まあ。
魔術ドーピング。セリゼが生きていくにおいて、辺境の魔女に学んだ魔法である。魔女魔法と呼ばれる、魔女が生み出した独自の魔法体系。それの極致が魔術ドーピングで、その対象となるところのものを、ことごとく「書きかえる」。使用者の魔力にも応じてだが、それ以上に覚悟にも応じる。
セリゼはそれを行った。血が吸えない、自分の身体をどうにかするために。どのように? そう、血が吸えないのなら、それ以外の吸血鬼としての弱点をことごとく「書きかえて」しまえばよろしい。
ほとんどワープロのノリであるが、それが可能なのは、魔女魔法の狂気にも似た奇天烈性と、セリゼの莫大な魔力である。結果どうなったか、というと、セリゼは吸血鬼が弱点とする、およそ全てを克服した。
流れる水、ニンニク、聖杭による心臓への一撃、
日光、聖餅、あらゆる宗教のホーリーシンボル、
大体吸血鬼が忌み嫌うものは、もはやセリゼにとって、日常のものと化してしまった。それほどなのである、魔女魔術の徹底性とは。
――それなのに、どうしても、「血が吸えない」だけは、書きかえることが出来なかった。これだけは、どうしようもない謎であった。
「そんなに血が吸えないって、悪いことなんだろうか」
キギフィは問う――ごく自然な質問を。
吸血鬼以外のもの、例えば人間からしてみたら、所詮は食い物の差にしか思えない。
が、吸血鬼の側からしてみたら、歴然とした差なのだ。
「ゴキブリ喰い、って、こいつ言ってたでしょ?」
「それ、なんなの?」
「吸血鬼にとって、血が吸えない吸血鬼ってのは、人間がゴキブリ喰うのと同じようなもんなんだよ。それはただの欠落じゃない。もっと『汚らしい』対象なんだ。ましてや私は名門貴族。そんな奴が貴族として、上位にいるのが、さぞ気にいらない御様子で、皆々様は」
あからさまに、侮蔑と皮肉と、怒りを隠せていないセリゼだった。
しかし筆者思うのだが。
排泄物や嘔吐物しか食えない、知的で優しい人間と、
常にまともなものを食っている、冷酷で差別的な人間、
どちらが皆様、「人間らしい」でしょうか?
わたしは前者と付き合っていたいと思うのですが。
だからこそ、キギフィもそのようなセリゼの告白を聞いて、とくに何も思わなかった。そのようなロジックが自然に通ったから。
ただ、キギフィはようやく、セリゼの「どうしようもなさ」の片鱗が、またひとつわかったような気がした。ああ、そのような環境は、どうしようもない地獄だったのだな、と。
「セリゼはどう思うの? 自分のこと」
愚問と知りつつも、聞いて見たかった。
「自分は自分。ただ……お父様、お母様に迷惑がいくことは、嫌だったな。……結果、私が殺したようなものだし」
キギフィは思い返す。かつてセリゼが話してくれたこと。謀殺の果てに、セリゼの両親が吸血鬼界で死んでいったこと。そしてそれ以降、セリゼは追われる身となり、セリゼ自身も吸血鬼コミュニティを許せず、返り討ちの地獄の日々に突入したこと。
それを踏まえて、しかしキギフィは言う。
「悔やませるためばっかりじゃないでしょ~、親御さんが亡くなったのは」
それはドギツい返しだったかもしれない。人によっては無神経、となじるかもしれない。
ただ、キギフィは、嘘はつかない人間なのだ。その自然さこそが、あるいはキギフィの美しさの担保なのだ。
だからセリゼは、その素直さに、救われている面がある。憎まれ口を叩きながらも、この美しい少女との同居生活を楽しんでいる自分がいる。
こんなに年が離れているのにも関わらず、何か、こう、ふっと、自分の心を和ませ、解き放ってくれるような、存在。
キギフィ・シロップ(仮名)とは、そのような存在だった。
セリゼは、
「ふふっ」
と微笑んで、それに返す。
いやほんとにご意見ほしいんです……これのどこがウケてるのか、っちゅうことが、実は作者わからないんです……もしよろしければ、メールや、メッセージでも、あるいは活動報告でも、お書きになってやっていただけませんか……? わたしは、いま、それを非常にもとめているのです……!




