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ヘタレ三十路本屋店主の童貞話は、今回でおわりです。

次回は、この物語のプロローグというか、前置きというか、ある種の精神性についての読み物です。

それを傍目から見たリッテ、


「いいなぁ……」


と、二人に気づかれないように零す。


それを聞き逃さないキギフィであった。いつの間にやらリッテの傍にすすっと忍び寄って、セリゼがしたのと同じように耳打ちする。


「この期に及んで、まーだじくじく引きずってるの? ずばっと言っちゃいなよ」


「だって私、どう考えても店長と不釣り合いじゃないですか」


うわ出たよこっちもノロケが、とキギフィ、砂糖菓子を思わず口に含んでしまったかのような顔をする。月読、フレア、その顔を見て大体悟ったようで、無言で「頑張れ」とエールを送る。


「もう長い付き合いでしょ? お互いをこの町で一番知ってるのは貴女たちじゃない。まさか、相手の出自――貴族出身なんてーのに気おくれしてるんじゃあるまいね? 前近代的な」


「……正直、それもあります」


「あれれ」


「だって考えてみてください。いくら実家と縁を斬ったからといって、大貴族ヒルトハミット家の規模というか、力は、ある程度の情勢に通じていれば分かります」


「んー、でもさ、それって答えになってなくない? 誘導しておいてなんだけど」


「?」


「それを、自分が諦める便法に使ってやしないか、ってこと」


何だかキギフィ、恋愛カウンセラーである。まあ、この美少女も、それなりに人生経験積んできたわけである。ただ呑んだくれていたわけではない。むしろ、呑んだくれていたからこそ、人情の機微がわかったりする。


そんなにキギフィとリッテの歳の差はないのだが、ここでは主導権はキギフィが握っているように見える。


「……それも認めます」


キギフィの言葉に、苦々しくも賛同するリッテ。


「でも、いろんな意味で、私と店長は不釣り合いなんです。知識においても、経験においても。それは、あの店で働いていればわかります」


「似た者同士って感じもするけどね。大の本好きと、超絶ビブリオマニア、という違いはあれど、それは量的な問題でしょ? 方向性的には変わりないじゃない」


「同じであるがゆえに、時として絶望することもあるんです。……というか……というか、うん、器が違うんです。貴族出身のことを気にしているのもそうです。器という意味合いで」


「で、自分の想いを隠して、一介の店主店員の付き合いでこの数年、と」


「それ以上、自分には想像出来ないんです」


「若いんだから、突撃すりゃいいじゃん」


「……ややこしい女と思われそうですが、臆病なんですね、私」

ああ、ほんとややこしいよ、とキギフィは思った。

ハタから見ていれば、どう見たってお似合いなのである。

それをどういうわけだか、自分ルールで勝手に自分自身を縛って、お互い臆病になっている。で、いつものように軽口をたたき合う関係に終始している。それでよしとしている。


誰もが思っている。「お前らもう付き合っちゃえよ」と。


が、まあ、理屈屋というか、理が勝る人間の恋愛の常のように、ここぞと言う時に、自分の境遇だの、資質だの、能力だの、コンプレックスだのを持ち出して、逃げ腰になるのである。


リア充どもめ! と言うのは容易い。


もうフラグ立ってるんだからルート入れよ! と言うのは容易い。


が、それは外から見たバアイであって、渦中の人間にとっては、ずいぶんグチグチジクジクしたものなのである。


恋愛なんてそんなものか、と、リアリティについて思いを馳せるが、


が、


この店主、そもそも「童貞は死ね!」とか言ってた癖に、いざ自分の恋愛となると、こうやってヘタレになるのだから、人のこと言えた義理か、と、この家の住人は皆思っている。多分読者も思われておられるのではなかろうか。


きっと、もうしばらくは、こうしたグジグジした状況が続くのだろう。


それをこの家の住人は、あるいは、物事や機微を知っているほうき星町の住人は、「もういいからリア充爆ぜろ」と思いながらも、微笑ましく

眺めていくのであろう。


リッテ、当初の目的に立ち戻る。自分の気恥ずかしさを隠すようにして。


「そもそも店長、ここで何を話してたんですか?」


レルエリィ、自分の気恥ずかしさを隠すために、あえて露骨なネタ振りをする。


「童貞意識の問題についてだな」


「ど、ど、ど、童貞って! 仕事サボってそんなことくっちゃべってたんですか!? もー、いーかげんにしてください! 仕事しますよ!」


襟首掴んで、真っ赤になりながら退室していくリッテと、それを苦笑しながらも、悪い気はしないな、みたいな顔をして引きずられていく店主・レルエリィ。


「なんつーか」


キギフィは言う。


「そうですね」


フレアは言う。


「お幸せに……というか」


月読は言う。


「リア充、もとい、ヘタレ恋愛童貞は死ねっ」


セリゼは吐き捨てる。


思い思いの、言葉にならない、ある種の諦めを嘆息する四人であった。ぼそぼそと。

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