●龍教授の工作室(1)
これも、前作と同じ、月読が、ほうき星町に来てはじめの頃のお話です。
フレアが話す昔話とでもいいましょうか
(やたらと大きな木箱に入った)荷物(おそらく重機関銃)が運ばれてから、フレアは工作室にこもりっきりである。
「こうなったら出てこないよ」セリゼが呆れた顔をして月読に言う。
「好きなんですね」
「まあフレアだし。こういうのを何て言うんだっけ?」
「オではじまりタを中にはさんでクで締める例の方々」キギフィが言う。
「素直に工作オタ乙と言いなさい」
「ひでぇ。私ですらボカしたのに」
「オタクと言うよりは……マニア、って気がしますけどね」月読が言う。
「大した違いはないんじゃない?」キギフィが言う。
「そうなんですけど。……まあ区別するとすれば、学究的な面のあるか否かですけど」
「執着心って言った方がいいんじゃない?」セリゼが言う。
「皆大家さんのこと嫌いなんですか?」
「いや、んなことは言ってないけど」キギフィが言う。
「そうそう」セリゼがうーむと唸って、そして言う。「アレかな、月読は『龍教授』の幻想を引きずっているのかな」
「思わない方が変だよ」月読は何を今更、と言った感じで言う。「学究肌、ということを言ったらあの人の他に出る人はいないでしょう」
「否定はしないけどね」セリゼがうむうむ、と頷いて答える。「ただ、それ以上にフレアはマッドサイエンティストというか、やっぱりオタクというかマニアというか、要するに趣味人だから……見に行ってみる?」
「お邪魔じゃないかな」
「だったら遠慮なしにそう言うでしょ。家族なんだし」
家族……その言葉に、この家における自分の立場というものをぼんやりと再確認して、和やかな気持ちになった月読であった。
そしてセリゼと月読は、フレアの工作室のところまで行った。前言った通りにセリゼは「工作中」の張り札を見て、ブザーを鳴らす。
するとどこからか、
「はいはい何でしょう」
というフレアの声が鮮明に聞こえてくる。先ほどの無線インターホンと同じ原理である。
「入って大丈夫?」セリゼは言う。
「危険な薬品を扱っていると言ったらどうなのでしょう」
「部屋ごと吹き飛ばす」
「またまたご冗談を」
「よーしそれじゃ3,2,1……」
「鍵は開いてますよ!」
その程度の破壊行為など片手間で出来るということはこの場の全員が分かっている。そんな言葉のじゃれ合い。
セリゼと月読は工作室の中に入って行く。
「あれ?」
月読がついそのように口を突いて出てきてしまったほど、その部屋は意外だった。工作室。研究室。マッドサイエンティスト。そのような言葉から連想される部屋は、どれだけの混沌としたおぞましいものであるか、と思っていたのだが、ずっとずっときちんと整頓されていたのだ。そればかりか清潔感すら感じられるくらいである。
もちろん各種工作器具、実験機材は部屋のあちこちに設置されている。それで埋まっている状態でもある。だがしかし、それらは「はめ込まれるべくして」という感すら与える。そして使いこまれていることがうかがえるそれらの機材は、しかし入念に手入れ・掃除がなされている。配置にせよ状態にせよ、フレアの几帳面な性格が現れている。
が、それ以上にこの部屋が「明るく」見えるのは、壁から天井にかけて、大きくガラス張りになっていることによるだろう。
――まるで温室のようだ。
そう月読は思った。そして言う。
「で、いつものように工作ですか」
「私がこれをしなくなったらキャラ崩壊もいいとこですからね」
「キャラ言うな。漫画やゲームじゃないんだから」
「ではセリゼちゃん、この現代において人間なるものがキャラ的でないと言えるでしょうか?」
「おお、そう返すか……真面目な議論をすれば確かにそう言えなくもないのだけれど、一般解を言うなれば『オタク必死だな』と言い返してやる」
二人の会話を聞いていて、「どっちもどっちだ」と月読は思ったが思うだけにしておいた。
「で、何かご用ですか?」
「用がなければ来ちゃいけないわけ?」
「時と場合によりますね。インスピレーションが沸きに沸きまくっているとき、集中力がMAXになっているとき……」
「ごちゃごちゃ言うな。私が暇なとき、フレアは笑って相手をすればいいんだから」
「月読さん、この吸血鬼、今日限りでこのお家から追い出すことになりまして」
「それがいいですね」
「はっはっは、冗談はお止し」
「月読さん」
「はい」
そう言って月読はセリゼのおでこに札を張り付ける。
「陰使伏肢、兼磁兼酔、縛!」
東洋系魔術の初歩、捕縛術でセリゼの動きを封じる。初歩とは言ってもそこにつぎ込まれる魔力が莫大な上に、追加で電磁波と麻酔で身体を動かなくさせているので、早々にセリゼは身動きが取れなくなる。
「え、何?」突然月読に術式を喰らって困惑するセリゼ。「……マジ?」
「さて月読さん、こないだ私に聞きたいことがあるって仰いましたけど」
「ええ、大家さんがどうしてこのような隠遁生活をしているのか、純粋に興味がありまして」
「……そうですね、そろそろ月読さんにも話しておきましょうか。」居住まいを正してフレアは言う。「とりあえず、コーヒーでもお飲みになられますか?」
「いただきます」
「あのー……私の捕縛を解いていただけるとありがたいんですが……」
「お砂糖とミルクは?」
「お願いします」
「……ねえ、マジで追い出すつもり?」
返答はない。
ちょっと涙目の貴族、位は侯爵、ユーイルトット家第十四代目である。




