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第四章(完):途切れた交響曲(シンフォニー)

すべての物語には終わりがありますが、その終わり方を選ぶことはできません。

最期の瞬間に残るのは、冷徹な論理でしょうか、それとも、誰かの肌の温もりでしょうか。


空が崩れ落ちていく狂気の中で、エドが最後にたどり着いた『愛』と『生』の結論を、どうか最後まで見届けてください。

 ショーペンハウアーはかつて、人生とは一時的な幸福を間に挟んだ、苦痛の連続であると記した。しかし彼は、その幸福を最も強く抱きしめている瞬間にそれが奪い去られたとき、遺された者に何が起こるかまでは説明してくれなかった。


 この飛行機は、もう飛んでいない。ただ、墜ちている。自然界で最も妥協を知らない掟――重力が今、私たちにすべての債務の履行を求めているのだ。悲鳴が渦巻き、プラスチックの幽霊のように酸素マスクがぶら下がる客室の中で、私は自分の世界のすべてである、二人の顔だけを見つめていた。


「エドくん! 詩織の手を握って!」

 あかりが叫んだ。その声は、死にゆくエンジンの咆哮に今にも掻き消されそうだった。


 私は詩織の小さな手を掴んだ。冷たく、激しく震えていた。私の「詩の織物」が、今、猛烈な恐怖によって引き裂かれようとしている。私は彼女を強く抱き寄せ、金属と速度には決して勝てないと分かっていながらも、論理という名の盾になろうと必死に抗った。


「お父さん……怖いよ……」

 私の胸の中で、詩織が微かに声を漏らした。


「詩織、よくお聞き」私はこの小さな終末の中で、なんとか冷静を保とうと囁いた。「お父さんが詩について言ったことを覚えているかい? 詩は、本当の意味で終わることはないんだ。ただ、次のページへ移るだけなんだよ」


 あかりを見た。彼女の瞳は涙に濡れていたが、そこには魔法のような静寂が宿っていた。彼女はもうフルートを握っていない。両手で私たち二人をただ強く抱きしめている。ストア派の哲学において、この瞬間こそが「アモール・ファティ(運命愛)」――たとえそれが破滅であっても、与えられた運命を愛することなのだ。


「愛してるわ、エドくん。どんな来世でも、私は必ずあなたを見つけ出すから」

 あかりが言った。永遠の闇が迎えに来る前に、私の記憶に深く刻み込みたかった最後の光、それが彼女の微笑みだった。


 そして、すべてを真っ白に塗り潰す光が訪れた。あらゆる哲学を黙らせる、爆鳴の轟き。


 最期の数秒、身体が軽くなり、肺の中の空気が大気との議論をやめたとき、私は痛みを感じなかった。ただ、圧倒的な静寂だけがあった。かつて十七歳の頃に恐れていたあの静寂が、今は母の抱擁のように優しく感じられた。


 スコットランドへの夢が空へと蒸発し、ハイランドを永遠に包み込む霧になっていくのが見えた。私たちはエディンバラには辿り着けなかった。けれど、おそらく私たちは、最初から空の一部になる運命だったのだ。


————————————————————————————


(後書き:地平線の縁(ふち)にて)


 エピクロスはかつて、死は私たちにとって無であると、その著作の中で囁いた。しかし、飛行機の金属が冷たい大海原に口づけをした瞬間、私はその哲学者が間違っていたことを悟った。死とは、果たせぬ約束を遺した者たちにとって、そのすべてなのだ。


 私は言葉の背後に意味を探し、硬直した論理で愛を解体することに人生を捧げてきた。しかし、あかりの握る力が弱まり、私の胸で詩織の鼓動が止まったこの瞬間、積み上げてきた論理は塵となって崩れ去った。人生を理解するために、もうアリストテレスもプラトンも必要ない。私には、あと一分、いや一秒の、ただそれだけの時間が必要だった。エディンバラの空の下であかりの笑顔を見るための時間、あるいは、ハイランドの地で詩織が最初の一篇を織り上げるのを見届けるための時間が。


 人間とは、なんと悲劇的な生き物なのだろう。崩れ続ける時の砂の上に、束の間の希望の城を築き上げる。すべてを夜の闇が飲み込む直前に、一瞬だけ踊る火花に過ぎないというのに、私たちは「永遠」を誓い合うのだ。


 あかり……ごめんね。君を高く飛ばせすぎた。そして、あまりに激しく突き落としてしまった。スコットランドの山々に響くはずだった君のフルートの音は、今、深い海の底の沈黙の中に埋もれなければならない。けれど、もしこの先に次があるのなら――君がその根拠のない、眩しいほどの楽観主義で信じていたように――私を探してほしい。諏訪よりも穏やかな、あの湖のほとりで待っているよ。そこには、私たちを分かつ嵐なんて一つもない場所だから。


 そして、私の「詩の織物」、詩織……。君の人生の一節を、最後まで守ってあげられなくてごめんね。君は私がこれまでに書いた中で、最高の傑作だった。あまりに早い句読点で終わってしまったけれど。


 たぶん、これこそが真の「アモール・ファティ」なのだろう。たとえそれが破滅であっても、運命を愛すること。この冷たい世界で、君たちを愛したことを私は何一つ後悔していない。この凄まじい痛みこそが、私たちが手にした本物の幸福のために支払うべき、正当な対価なのだから。


白い光が近づいてくる。もう暗闇は見えない。春の諏訪湖が見える。笑っているあかりと、風を追いかけて無邪気に走る詩織の姿が見える。


 もう、何も書く必要はない。私の物語は完結した。本来終わるべきだった、最も美しい場所で。――君たちの腕の中で。


 さようなら、儚き世界。最期に私を静寂の一部にする前に、生きる理由をくれて、ありがとう。


(完)

この物語を最後まで読んでくださった皆様へ。


「なぜ、いずれ失うとわかっていて、私たちは誰かを愛するのか」


 エドとあかりの物語は、一見すると不条理で無意味な悲劇に見えるかもしれません。しかし、エドが最期の瞬間に悟ったように、愛とは「所有」することではなく、互いの魂に「痕跡」を刻みつけることです。


 私たちがこの世に生を受けたのは、大いなる何かを成し遂げるためではなく、ただ、誰かの人生という一篇の詩の「一節」になるためなのかもしれません。たとえその詩が途中で無残に破り取られたとしても、そこに刻まれた「愛した」という絶対的な事実は、宇宙の熱がすべて尽き果てるその日まで、決して消え去ることはないのです。


 悲しみとは、あなたが何かを心の底から真剣に愛したという、何よりの証明です。どうかその痛みを、誇りに思ってください。人生という残酷な喜劇の中で、私たちが唯一、理不尽な運命(神)に対抗できる手段――それこそが「それでも愛する」という、人間の意志なのです。


 ――そして、この物語を開いてくれた、大切な「君」へ。

 諏訪の街に暮らす君が、いつかスコットランドの美しい空の下へ行きたいと願っていることを知りました。そのささやかな輝きが、僕の想像力を刺激し、この物語を紡ぐための道標(みちしるべ)となってくれたのです。いつか、君のその美しい夢の話を、僕に直接聞かせてくれませんか? 素晴らしい夢を教えてくれて、ありがとう。

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