プロローグ 証拠は嘘をつかない
はじめまして。本作が初めての投稿作品になります。
異世界×科学捜査をテーマにした、ミステリー作品です。
魔法やスキルが存在する世界で、主人公のミサキが残された証拠を一つずつ調べ、事件の真相に迫っていきます。
初めての執筆で至らない点もあるかと思いますが、楽しんでいただけましたら幸いです。
「――レオン。そこ、踏まないで」
伸ばしかけた革靴が、ぴたりと止まった。
「……何かあるのか?」
「たぶん」
私はしゃがみ込み、石造りの床へ顔を近づけた。
薄暗い部屋だった。
窓はない。
壁際の燭台だけが、ゆらゆらと室内を照らしている。
床には割れたガラス。
倒れた椅子。
壁には、何かを引きずったような跡。
そして――部屋の中央には、一人の男が倒れていた。
すでに息はない。
入口には数人の王国騎士が集まっていたが、誰一人として中へ入ろうとはしなかった。
私がそう頼んだからだ。
そんな中。
私にだけ見えているものがある。
床の一角。
淡い黄色の光が、微かに揺れていた。
「また光っているのか」
レオンが小声で尋ねる。
「うん」
光のある場所へ手を伸ばす。
そこにあったのは、ほんの小さな欠片だった。
「……見つけた」
「何だ?」
「まだ分からない」
「分からない?」
「うん」
私は欠片を慎重に拾い上げた。
決めつけちゃ駄目。
先入観は、見えるはずのものまで見えなくする。
まず調べる。
比べる。
そして、考える。
「これで犯人が分かるのか?」
「そんな便利なものじゃないよ」
思わず苦笑する。
「証拠は答えを教えてくれないからね」
欠片を小瓶へ入れ、蓋を閉めた。
「でも――」
立ち上がる。
部屋を見渡す。
あちこちに、小さな光が見える。
誰かが残したもの。
誰かが触れたもの。
誰かが歩いた痕跡。
人間がここにいた以上、すべてを消し去ることなんてできない。
「証拠は、嘘をつかない」
レオンが小さく笑った。
「また、それか」
「大事なことなの」
剣も使えない。
魔法も使えない。
騎士でもなければ、探偵でもない。
ましてや私は、科学捜査の専門家だったわけでもない。
ただの会社員だった。
二十八歳。
独身。
これといった特技もなく。
唯一、人より少し好きだったものといえば――科学捜査を扱った推理ドラマくらい。
そんな私が。
異世界で事件現場に立ち、騎士と一緒に犯人を追いかけている。
人生というものは、本当に何が起こるか分からない。
いや。
私の場合、一度死んでいるのだから。
これはもう人生と呼んでいいのかさえ、分からないけれど。
すべての始まりは――あの夜だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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