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氷上さんちの雪女 氷  作者: シルヴィア・紫の夜明け


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1/6

12月21日 1

 家の裏にある標高100mにも満たない山、氷上山。

 ただこの土地の標高を足せば低くはない山になるだろう。

 それで今まさに、そこらへんの山よりも丁寧に整えられている石階段を重たい荷物を背負って昇っているのは、今日が12月21日の冬至だからである。

 広くなく、畳もふた部屋くらいしかなく、外見も現代の一軒家と変わらない氷上家のしきたり。

 二十四節気。15日に1度、氷上山の頂上の社に荷物を届ける事。

 そしてそれは20歳以上の氷上家男児が行うこと。

 今日偶々なのか、自宅にひとりでいた僕にお役目が回ってきた。


 15分もしないうちに山頂へとついた。

 ついたのだけれど見慣れないものが。

 目の前に飛び込んできたのは氷の社だった。


 空が薄く膜を貼ってぼやけた太陽の光。

 それをいい加減に反射する氷の社。

 一から十まで氷で出来ているのか、木で建てた社を凍らせたのか分からない。

 だが、それは適当に建てられた社ではなく、誰かのために建っていることは、僕の眼からしても明らかだった。

 氷の社に気を取られていたがちゃんと氷で出来た鳥居もあった。

 鳥居前で一礼すると、耳にカランと音が響いた気がした。

 それはベルの音ではなく、バーでグラスに入ったロックアイスを転がすような音。

 目を開けると、目の前は社ではなくてバーになっていた。


 暗いけれども暖色のライトが心を落ち着かせる。

 5人掛けのロングテーブルの向こうには、銘酒や洋酒がずらりと並んでいる。

 けれどもバーテンダーはおらず、お客さんがひとりお酒を吞んでいる。

 そのお客さんは暗い雰囲気には似つかない程、明るく見えてしまう女性で、雪のように白い髪と着物をオレンジ色に染め上げていた。


 初めからここは彼女の居場所である。

 だから僕がここに入ったことはとっくに認識しているのだろう。

 ここはどこで美しい貴女は誰なんだと、尋ねる前から認識できる質問を投げかけようとした。

「今代の氷上よ、此処に来い」

 そう言って彼女は、自分の隣の席の4万円くらいはしそうなカウンターチェアを手で叩いた。

「おお、今代の氷上はめんこいのぉ、めんこいめんこい」

 椅子に座った僕を彼女は青くも銀色にも見える双眸で視たあと、僕の頭を撫で始めた。

 めんこいめんこいと言いながら。

 彼女の手は自分の体温より冷たく感じたが、なぜかそれが心地よく感じた。


 撫でられ続けると心の片鱗がむずむずするものだと今日分かれた。

 なでなでを中断するために持って来た荷物を彼女に差し出した。

 中身はまだ知らない。

 彼女はリュックサックを受け取るとカウンターテーブルに並べ始めた。


 冷凍チャーハン。

 冷凍エビピラフ。

 冷凍焼き餃子。

 冷凍からあげ。

 冷凍焼き芋。

 冷凍ブロッコリー。

 冷凍ブルーベリー。

 カップアイスにバーアイス。


 加熱済冷凍食品とそのまま食べれる冷凍食品。

 近所のスーパーマーケットやコンビニエンスストアで冷凍コーナーで買えるものばかり。

 特段珍しいものは入っていなかった。

 会話の切り出し方が分からない。

 この人? に何者かを訊ねたところで素直に教えてくれるかどうか。

「雪女じゃ」

 教えてくれるんだ。

「神様とかじゃないんですか?」

「神様か……。鳥居に社があれば誰でも神社に見えてしまうよな。まあ、大差はないが。それでも500年も前ならば、やれ物の怪だ、やれ妖だ、と切りかかって来た物じゃよ」

 まあ、慣れた手つきで冷凍ピラフの袋を開けて、その手に氷のスプーンを作り出し、硬いはずの冷凍ピラフをもっしゃもっちゅと食べ始めたのだから、雪女と疑う余地はないだろう。

 人間でも夏場に同じことをやる個体はいるが勢いよく食べれば、カキ氷を食べた時のように喉が刺激されて頭痛が起こるだろうし。

「祈りや、天災、意識体形に、菌に菌糸類、奴らがもたらす事はわらわにも容易く出来るが、存在の在り方としては古獣に近い。宙からの来訪者は色■が何とかしてくれるしの」

「聞いてる分には雪女っぽく感じませんね。初手で雪女ってカミングアウトしている所とか」

「人間の言葉的には雪女と分類されるのだ。けれど雪女にも種類があっての。妖の理に近く500年以上生きている個体もいれば、人の理に近くたったの60年で死ぬ個体もおる」

「あなた様は何年生きているんですか?」

「んー、無礼な藤原が1300年以上は前だから……。わらわって何なんじゃろうね」

「知りませんよ……」

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