36話.優しい眼差し
目黒は俺に対して拒絶するような言葉を言った。
今までそんなことを彼女から言われたことがなかったから、余計にショックだった。
せっかく秋田まで行ったのに…こんな仕打ち。神様はなんて無情なんだ。
「…もう俺と会うつもりはなかったって、どういうことだよ」
「だって…」
目黒は制服のスカートの端を握っていた。
よほど言い辛いことなのだろうか。
彼女の表情も暗く見える。
そんなことを目黒に抱え込ませていたなんて…俺は無性に罪悪感にかられた。
「この前、スグルの携帯をちらっと見たとき、待ち受け画面が私の猫耳姿だった」
………ん?
目黒は…なんて言った?
俺の携帯の待ち受けがなんやら言ってるが…。
確か待ち受けにしてるのは、コミケに行ったときの目黒の猫耳の…
あっ、やべ。
「や!そ、それは!…お前の猫耳付けた姿がその…か、可愛すぎてつい」
俺は必死に目黒に弁解した。
だって仕方ないじゃないか。猫耳を付けた目黒が可愛すぎるのがいけない。
しかし、待ち受けにしていたのがバレるとは…。
謝ったら許してくれるかな…っと思って、俺は目黒の方を見た。
「……………………………………………」
目黒はまったく笑ってない目、少しつり上がった眉、そしてまったく笑ってない表情で立っていた…。
「すすすいませんでした。待ち受け画面変えます」
「画像も消して」
「え、消すのかよ…」
この画像を消すのはもったいない…。
あ、携帯内部のSDカードにバックアップ取ってあったな!消したふりをしてまたすぐに戻せばいいか。
「SDカードとかに保存してないよね?」
勘のいい奴め…。
俺は目黒に待ち受けの画像を消したアピールをした。目黒も納得してくれてよかった…。
俺と目黒は自然と、駅の方に行くバス停の方に向かって歩いていたらしい。
…このままだと、俺はそのまま帰らされるじゃん。
ここまで来たのに、たったの数十分世間話して終わるのは嫌だった。
「てか、そんな理由でお前は秋田に戻ったのか!?」
「ううん。最初からスグルの学校に転校するのは一学期だけって決めてたから」
「短すぎるだろ…。そもそも、なんでお前は俺の学校に転校してきたんだよ」
すると、目黒はいきなり寂しそうに笑った。
そんな風にして笑う彼女の顔を、俺は見たくなかった。
「思い出作り」
「えっ…?」
「私は養子として目黒家に引き取られたから…、たぶんこの先もそう簡単にこの街から出られないと思って」
やはり目黒は養子だったのか…。
児童養護施設にいたときにきっと、養子として引き取られて今日にまで至るのではないだろうか。
親戚に引き取られた俺と、目黒家という赤の他人に引き取られた彼女。
事情は似てるけど…大きく異なってる。
「そんなの…お前の考えすぎだろ」
「スグルだってわかるでしょ?」
その同意を求められると、頷くしかない。
きっと、俺たちはどこかに常に持っている。引き取ってもらったことへの負い目、引け目。
目黒が簡単に街から出られないって言ってるのも、そこからきているのだろう。
「だから…最後に私のわがままで、スグルのいる東京に行った」
「よく俺が東京の高校に通ってるってわかったな」
「児童養護施設にいる竹森先生に電話して聞いてみたら、教えてくれた」
「俺の個人情報…」
俺がどこの高校に通ってるという情報が筒抜けだったなんて…。
だから夏休みに養護施設に訪れたときに、竹森先生は目黒に「スグル君と会えてよかったね〜」的なことを言ってたのね。
それにしてもだ。
それにしてもだが、一つだけわからないことがあった。
「思い出作りって言ってたけど、なんでそこまでして俺に会いたかったんだよ」
俺は本当にわからなくて、純粋な気持ちで目黒に質問したのだ。
「……」
目黒はまるで、そんなこともわからないなんて…みたいにゴミを見るような、蔑んだ目をして俺を見てくる。
「いや、そんな怖い顔されても…」
「…どうせもう会えないんだし、言わない」
ああ…拗ねてしまった。
目黒はたぶん、自分の家の方に歩こうとしてるし。
「いや、ちょっと待てよ!」
「じゃあね」
まずい。本当にこのままだと目黒は帰りそうだ。
どうする?どうしたらいい?
俺はまだ、目黒に大事なことを話せていない。
こんなんで終わりじゃ…一生後悔するわ。
「め、目黒!」
俺は勇気を振り絞った。
今まで生きてきた中で一番緊張していただろう。
「俺はお前のことが好きだ。遠距離でもいいなら…俺と付き合ってくれ!」
「いいよ」
「軽っ!?」
目黒は俺の告白に対して、即答でオッケーした。
ええ…こんなに真剣に告白したのに。
なんか肩の力が一気に抜けたわ。
なんか目黒の返答が軽すぎて、本当に俺の告白を受け入れてくれたのか実感が湧かなかった。
「文句あるなら別れる」
「早すぎだろ!?」
危うく10秒で失恋するところだった。
でも、俺と目黒って彼氏彼女の関係になったんだよな。
養護施設で出会い、東京の高校で再会し、一緒の寮で過ごした女の子が彼女か…。なんかできすぎて怖い。
でも、目黒って俺のこと好きなのか?俺が秋田まで来たから気を使ったとか…遠距離だからすぐ別れると思ってるとか…
やべぇ、不安しかないわ。自分に自信が無さすぎる。
「…じゃあ、東京に戻ったら連絡するわ」
「うん」
目黒とやっと連絡先を交換し、ここでお別れとなった。
東京にいる俺と、秋田にいる目黒。会いに行くとしても長い期間の休みじゃないと難しいよな。
遠距離は続かないっていうのも聞くし…不安しかない。そもそも、目黒に好かれてる実感もないし、あいつから言葉にしてくれたこともないしな…。
「スグル」
俺の名前を呼ぶ声があったから、俺は自然と振り返った。
目の前には彼女の綺麗な顔、そして両目を閉じたのが見えた瞬間…。
唇に柔らかい感触があった…。
「またねっ」
優しい眼差しで嬉しそうに笑う彼女を…俺はずっと見惚れていただろう。
物語はこれで終わりです。
今まで読んでくださりありがとうございました!




