26話.表情
目黒の風邪も完治して、またいつもの日常が戻ってきた。
日常と言っても、今は夏休み中だから最高の時期である。
まだ学校が始まるまで10日はあるな…。この10日間が一生続いてくれたらいいのに。
喉が乾いたので俺は冷蔵庫の中でキンキンに冷えてやがる麦茶を飲もうと自室からリビングに向かった。
リビングには…いた。目黒がすでにリビングにいるとは。
目黒はソファーに座ってテレビを見ているようだ。
「目黒、何見てるんだ?」
俺が声を掛けると、目黒はこちらを向いてくれた。
「お笑い番組」
「…今なんて?」
「だから、お笑い番組」
「そ、そうか。俺も気になるから見てみるかな」
まさか、あの目黒がお笑い番組を見ているなんて…。
ぜんぜんお笑いとか好きなイメージなかったからな。正直意外である。
もしかしたら、目黒が大笑いするところを見れるのではないだろうか!?見たい!俺は目黒が抱腹絶倒してるところを見たいぞ!
俺も目黒の隣に座って、お笑い番組を視聴した。目黒を観察するほうが目的だけど。
「…っ!ぷぷっ…」
やべぇ…やっぱ芸人さんって面白いな。
喋りもそうだし、緊張と緩和が笑いのツボを刺激してくる。
俺は思わず吹き出してしまったが、注目の目黒は…
「…………………」
えっ…まったく表情変わらないんだけど。
くすりともしないから、こっちが心配になるレベル。
「お、おい」
「なに?」
「面白くないなら番組変えてもいいんだぞ…?」
「けっこう面白いよ?」
面白いって、本当かよ…。
そんな表情のない顔で言われても説得力がないんだが。
それにしても、目黒って喜怒哀楽をあまり人に見せないよな…。初めて会ったときからずっとそうだ。
俺は目黒に質問したいことがあった。
「なぁ、目黒」
「スグル、質問が多い」
「わ、悪い。…お前って、笑うときとかあるの?」
「あるよ」
「いや、全くお前が笑ってるところを想像できないんだが」
満面の笑みで笑う目黒か…ダメだ。違和感ありまくりだな。
実は一人でいるときは笑ってるとか…それはそれで怖いか。
俺は目黒が笑っている姿を想像できなくて「うーん」と唸っていると、目黒は急に俺の腕をツンツンしてきた。
「スグル」
「どうした?」
「くすぐられたら笑うと思う」
それは…今俺が目黒のことをくすぐってもいいという意味なのだろうか。
目黒の身体をくすぐるなんて…。なんだろう、とてもいけないことをしている感じになる気がする。
くすぐるなら、脇の下とか横っ腹が定番だよな。故意ではなく目黒の胸に触れてしまいそうな気も…。
「やってみる?」
「えっ」
ほ、ほんとにやっていいのか!?
女子をくすぐるなんて犯罪じゃないのか!?
俺と目黒は同級生だしそれなりに付き合いがあるからセーフなのか!?
「…変態」
目黒はボソッと言った。
俺が目黒のことをくすぐりたい気持ちが出ていたのが、バレバレみたいだったようだ…。
「べ、別にやりたいとは一言も言ってないけども!」
「スグルが面白いことを言ったら笑うと思う」
「無駄にハードル上げるなよ」
「3…2…1」
きゅ、急にカウントを取ってくるなんて。
面白いこと面白いこと…なんだなにがある!?
こうなったらもうあれしかない…!
「こ、コンドルが!ケツにくい込んどる!」
俺は自分の中で会心のギャグを言った。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………」
目黒は見たこともないような冷たい顔をしていた…。
「なんか…すまん」
「大丈夫。期待してなかったから」
「今日のお前毒舌だな…」
「スグルにはなんでも話せるし、なんでも言いやすい」
「まじか。けっこうお前に信頼されてるんだな」
「うん。だって…」
すると、俺の耳元に顔を近付けてくる目黒。
目黒との距離が近くて心臓がドキッとする。
周りには俺と目黒しかいないっていうのに、目黒は小さな声で俺に告げた。
「初恋だから」
「…………え?」
今…目黒はなんて言った?
初恋って俺に言ったよな?
それってつまり…目黒の初恋の相手が俺ってことなのか?
やべぇ、頭が回らない。心臓がバックバクで飛び出しそうだ。
「お、おおおお前、初恋って…」
動揺している俺に対して。
目黒は…くすくす笑っていた。
あ、目黒の笑ってる顔…。
「スグルの慌ててる顔、面白いね」
「またいつもの冗談かよ…」
楽しそうにしている目黒を見て、振り回されるのも悪くないと俺は感じるのであった。
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