12話
翌日。
俺は再び森に来ていた。今度こそボアを狩るつもりだ。
もう一度、あの二人に遭遇する可能性にも期待していたが―
今日の森の様子は、霧がかかっていることもなく、魔眼を使って茂みの奥を見れば、すぐ近くにボアがいるのが見えた。
―ボアはサンダーボルトで仕留めるのが一番いい。
突きや貫手を使うと肉を貫いてしまうし、迅雷などもってのほか。俺のサンダーボルトはまさにボアを狩るためにあるようなものだ。
「天に住まう神イシュヴァルよ、その名において我は命じる。唸れ!サンダーボルト!」
バチバチッ
そのまま電撃がボアに当たる。サンダーボルトを使うとこのようにボアはこんがりと、いい具合に表面だけ焼けるのだ。中の肉にまで被害は及ばない。
詠唱魔法は今の所、これしか使用することができない。だが、俺は見た。イシュゼルが使用するサンダーストームを。
魔法学院エルドリアでは、雷属性の魔法の使い手は少なく、サンダーストームという魔法は見たことがなかった。
―確か詠唱は
「天に住まう神イシュヴァルよ。その名において我は命じる。その大いなる怒りをもってあらゆる敵を滅ぼせ。サンダーストーム!」
・・・
―やはり発動させることは難しいか。
サンダーボルトの後に覚えるべきサンダーボールやライジングなどの基礎的な雷属性の魔法すら使用することできないのだ。鍛錬あるのみだろうか?
―あとは、あのドライブとかいう技
あれは何だ?魔力を使用してはいないように見えた。俺の縮地は一瞬で距離を詰めることはできるが、熟練した剣士が剣を振るったとしてあんな訳の分からないことにはならないはずだ。
―イシュゼルのドライブは跳躍以外に、剣にまで大きな速度上昇の効果があるように見えた
―魔力を使用しない技・・・。闘気か?
どういう理屈かは知らないが、まだまだ俺の知らない技の使い方があるようだ。
あえて剣の鍛錬をしてこなかったが、雷切を自在に使いこなすためにも、より戦闘の幅を広げるためには剣の鍛錬も必要だろうか?
「剣の鍛錬をするとすれば、問題は誰に教わるかだ。」
徒手空拳による戦闘ができるのは単純に前世の知識があったからだ。そのため、誰に教わる必要もなかった。だが、剣技となれば話は別だ。誰かに教わるか、自力で身に着けるしかない。
「―充分に強くなったと思っていたが、まだまだ弱い・・・。」
だが、それは同時にまだまだ伸びしろがあるということ。
わずかな時間だったが、イシュゼルとリーナとの出会いは、俺にとって自分の実力を客観的に見つめる実に良い機会になったようだ。
そう思って俺は帰ろうとするが、
「―っと。ボアを忘れるところだった。」
この森に来た本来の目的を忘れるところだった。
俺はこんがりとよい具合になったボアを拾い、いつもの川で血抜きをしてからズタ袋に入れ、まずは離れの方に向かう。
離れに着くと、そこでボアを一旦おろし、手ぶらで別邸まで向かう。
そしてセバスのいる執事室に入る。
俺はコンコンとノックをし、返事を待たず執事室に入る。
「セバス、ボアを狩ってきた。離れの方に取りにきてくれないか?」
「―さすがは坊ちゃん、さっそくボアを取ってくるとは。仕事が早い。」
クイッと眼鏡を調節しながらセバスは言う。
「・・・人をボア取り名人のように言うのはやめてくれ。」
俺はボア取り名人ではないのだ。
「・・・失礼ですが、ボア取り名人と言っても過言ではないかと。」
そんなことを言うセバスだった。
その後、セバス本人が離れまでボアを取りに来るというので俺とセバスは離れの館に向かう。
「―そういえば、今日は親父とイシュトの姿が見えないな?」
何故かは知らないが、あの二人が館にいるときは雰囲気ですぐに分かる。
「ええ、本日ご当主様とイシュト様は、メドゥイット家で宿泊のご予定とのことです。」
「―もしかしてしばらく帰ってこないか?」
「・・・そうであれば私たちも嬉しいのですが。」
セバスは浮かない顔をする。
「・・・気持ちは分からんでもない。」
「―坊ちゃん、そんなことを言うのはおよしなさい。」
「セバスが言い出したんだろうが、セバスが。」
そんなやり取りをしながら離れに到着すると、セバスはボアを持って別邸に戻って行った。




