13話
その日、夕食を持ってきたのは料理長だった。
「坊ちゃん、これから保存食を作ろうかと思っているんですけど、一緒に作ってみますかい?」
―なるほど、それはいい案だ。
「ああ、俺も行こう。今日は親父もイシュトも泊りで帰ってこないんだったな。飯は久しぶりにそっちで食うことにする。」
そう言って俺は別邸に向かう。
食堂に入ると、ガランとして誰もいない。
これが親父やイシュトであれば、メイドやセバスが待機しているはずだが、俺の場合、誰も気を遣う者はいないのである。
「坊ちゃん、ちょっと待ってくだせえ。水を持ってきます。」
そう言うと、料理長は食堂から出て行き、コップと水差しを持って戻って来る。
「―すまんな、水は自分で注ぐからそこに置いておいてくれないか?」
「では、こちらをどうぞ。」
そう言うと、料理長はコップをテーブルの上に置く。
しばらく俺が黙々と食べているが、料理長は退出する気配がない。
「―ロドリゴ、今日の仕事はもういいのか?」
俺は料理長に確認することにする。
「ええ、今日は、ご当主様もイシュト様もいないですからねえ。この後は坊ちゃんの保存食を作ってしまいですね。」
「ならばここで待たせたとしても問題ないな。」
俺はうんうんと頷く。
「―坊ちゃんは料理したことあるんですかい?」
「・・・貴族は料理などすることがないと思うが、何故そう思う?」
今の俺が貴族という立場かどうかは怪しいところであるが、それはそれだ。
「いえね、坊ちゃん、いつもボアの血抜きをしているでしょう?貴族の方がボアの血抜きをできるもんなのかって調理室でちょっとした話題になりましてね。よく考えたらおかしなことだと思うんですよ。」
―そんなことを考えるとは思わなかった
だが確かに、血抜きができる人間は貴族はおろか、平民でも少ないだろう。
俺がボアの血抜きをしているのは、そうしなければ肉に血が溜まって不味くなることを知っているからである。
調理室の手間を減らそうとかそういったことを考えたからではないが、
「そうだな。血抜きをしなければボアの肉が不味くなるからな。特に料理人のことを思って、血抜きをしているわけではないぞ?」
俺は自分の考えていることをそのまま伝えることにする。
「そうは言いますが、坊ちゃん。どこで血抜きの仕方を教わったんですかい?」
―まさかこことは違うどこかの世界でと言うわけにはいくまい
「・・・色々と試していたらできるようになっていたんだ。」
「そういうもんなんですねえ。」
「ああ、そういうものだ。」
少し無理やりだが、それで納得してもらうより他ないだろう。
「―よし、食い終わった。調理室に向かおう。」
そうして俺たちは調理室に向かう。
調理室には俺たちの他に誰も人はいないようだ。
「―さて、では始めようじゃないか。」
「ガッテンでさあ。―ちょっと待っててくださいね。」
そう言うと、料理長は調理室の奥へ行き、材料を持ってくる。
「ボアの肉と、ラード、ドライフルーツ、それにナッツです。」
そう言って台所の上にそれらを置く。
「―俺がやろう。作り方を教えてくれ。」
「まずは、ボアの肉を細かく切ってください。みじん切りにする気持ちで。」
俺は小気味よく包丁を動かし、肉を細かく切っていく。
「おお、いい腕前ですねえ。さすがは坊ちゃん。」
ある程度肉を細かく切ったところで、料理長はすり鉢と棒を持ってきて、
「次にをこれですり潰してくださいな。」
そんなことを言う。
ひき肉にするつもりだろうか?俺は料理長の言うとおりに肉を棒ですり潰していく。
「―いい感じです。それじゃ、肉をこちらにどけて、次にこれを同じようにすり潰してください。」
そう言うと、すり鉢から肉を横のまな板にどけて、すり鉢の中にドライフルーツとナッツを入れる。
「これをすり潰せばいいんだな?」
俺は同じようにドライフルーツとナッツも棒ですり潰していく。
――ある程度粉状になったところで、
「―いい感じですね、それじゃあ肉と混ぜましょう。」
そう言うと、肉とドライフルーツとナッツを混ぜる。
「手で混ぜながらよくこねてください。」
「分かった。」
俺は肉とドライフルーツとナッツの塊を混ぜながらよくこねる。
「―もういいでしょう。後はこれを焼くんです。」
そう言うと、フライパンの上にラードを引き、その上に先ほど作った塊をのせる。
「これをよくほぐしてください。」
ハンバーグでも作るのかと思ったがどうやら違うらしい。
俺は肉をよくほぐしていく。
肉の焼ける香ばしい香りが辺りに漂う。
ある程度そうしていると、スイッチを押して料理長が火を止める。
ちなみに、火の制御は専門の魔道具でなされており、ガスが使用されているわけではなさそうだ。
「あとはこれを並べて乾燥させると完成ですね。これくらいの量だと明後日にはできていると思いますね。」
そう言うと、網のかかった容器に並べ、調理室の奥に持っていく。
「分かった。出来たら俺に知らせてくれないか?」
「ガッテンでさあ。」
保存食を作るのに、もう少し手間がかかるかと思ったが、思ったよりも早く作ることができそうだった。




