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459●『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026)④船は通天閣か神戸ポートタワーが良い? そして『トップをねらえ!』の凄さ。

459●『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026)④船は通天閣か神戸ポートタワーが良い? そして『トップをねらえ!』の凄さ。



       *


●疑問3:ワイヤーケーブルでぐるぐる回る人工重力は、強度と仕組みがヤバくない?


 宇宙船ヘイル・メアリー号の構造的特徴として、居住区と機関部を分離して二本のワイヤーケーブルでつなぎ、ぐるぐる回して1Gの人工重力を作る……という場面がありますね。

 ネットでは各種のイラストで、わかりやすく図示されておりますが……


 あれ、極フツーに、ヤバくないですか?

 1Gですから、地球上のブランコで、行ったり来たりではなく鉄棒の“大車輪”みたいにグルングルンと回転させるようなものですね。

 気になるのは、そのブランコに乗っているブツの重さです。

 ちなみに20世紀のアポロ宇宙船の司令船と機械船は、併せて自重30トンとか言われています。

 となると、メアリー号の実験室を含む居住区ユニットは、百トンくらいはあるでしょうね。

 一方、反対側の機関部はもっともっと重いと思われます。

 それが地球上と同じ1Gで引っ張り合って回転する。


 たった二本のワイヤーケーブルにかかる重量、ほんの一瞬でなく常時ですから、その物理的負荷は決しておろそかにはできないと思いますよ。


ネットのニュース

●川崎クレーン転落事故 19歳の元高校球児ら3人死亡 

2026 4/9(木)5:30配信 スポニチAnnex

川崎市のJFEスチール東日本製鉄所敷地内でクレーンの解体中に男性作業員5人が転落した事故で、(中略)救助された4人のうち3人の死亡を確認(中略)5人はクレーンの重りの上から作業していて、数十メートルの高さから重りとともに落下したとみられる。(中略)事故は7日午後4時15分ごろ発生。5人はクレーン先端の重りの上で、重機を使って作業していた。重りは直径約6メートル、長さ約9メートルの円柱状で重さは約500トン。


       *


 500トンの重りは事前の作業によって400トンにまで削られていたということですが、この重りが支えを失い1Gで落下したことで、その真下の高さ30メートル余りの足場をばらばらに破壊し、クレーンを載せていた台船の甲板から船底までをブチ抜いて大穴を開け、その下の海底まで落下したとみられます。

 1G環境下で400トンの質量を安全に保持することの難しさと危険性を目の当たりにさせられたわけでして、メアリー号は、これに類する質量をワイヤーケーブル二本で“ピンとぶら下げて”いることになります。


 ワイヤーケーブルはカーボンファイバーだかで、物凄く丈夫でしょうが、問題はワイヤーと船体を接続している巻上げと巻取りの装置部分です。滑車と歯車とモーターで構成された装置は宇宙空間に露出しているので、日が当たれば熱々の高温に、日陰になれば冷え冷えの低温になり、膨張と収縮を繰り返します。しかもここに、常時1Gの負荷がかかり続けます。

 どこかでワイヤーケーブルとの接続部がプッツンと破損すれば、機関部と居住区の間はケーブル一本だけで“ぶら下がる”事となります。

 やっぱこれ、危ないと思いますよ。芥川の“蜘蛛の糸”ですし、二本が一本になったとたん、グレースはハラハラドキドキで、メンタルやられると思うのです。

 もしも残った一本もプッツンすれば、居住区は回転の接線方向にア~レ~と飛ばされて一巻の終わりですから。


 それに居住区と機関部を結ぶのがワイヤーケーブルだけでしたら、なにか忘れ物をしていたとか機材を取りに行くとか修理が必要となったときに居住区から機関部へ行こうとすると、必ず船外活動で宇宙服を着なくてはならず、不便かつリスキーです。

 宇宙服でワイヤーケーブルをよじ登ることになりますが、なにかの拍子でケーブルから離れてしまったら、回転の接戦方向にア~レ~と飛ばされて一巻の終わりです。


 また二本のワイヤーケーブルでよって1Gの負荷で吊り下げたブランコみたいなものですから、ブランコの“尻載せ板”が何らかの外力を受けて、回転方向に水平にクルクル回るような状態になったら、どうなるでしょう。

 二本のワイヤーケーブルは二重らせんにじれて、注連縄しめなわみたいに巻きついてしまいます。そしてケーブルにはそれなりの弾性もありますから、じれきったら今度は元に戻るように猛烈に逆回転!

 これまたア~レ~と悲鳴を上げるしかない絶叫マシンと化してしまうでしょう。

 余った輪ゴム、庭に水撒くホース、パソコンの背後の配線、そういったケーブル類は何もしなくても、魔法がかかったみたいに、いつのまにか絡み合い結びあって手に負えなくなってしまいます。

 メアリー号のワイヤーも、長く伸ばせば捩じれて絡み合う恐れが十分にあると思いますよ。


 だからやはり、メアリー号は最初から、回転重力の発生を考慮した強度の高いタワー構造とすべきです。

 たとえば、機関部と居住区の間を百メートル級のトラス構造でガッチリとつなぎ、回転直径をそれよりも長くしたければ、トラス構造を消防のハシゴ車みたく伸長可能な“入れ子式”にしておくとか、ですね。


 イメージとしては大阪の通天閣、あれがそのまま宇宙を飛ぶデザインです!

 もっと洗練された姿としては、こちらがベストじゃないでしょうか。

 神戸ポートタワー!

 ほっそりした、ニッポンのつづみを思わせる籠構造のタワーです。


 夜間にライトアップされた写真を見れば実に美しく、そのまま宇宙を旅して欲しいくらいですね。

 1995年の阪神淡路大震災でもびくともしなかったようで、信頼性も高いですし。

 難点は、中央部の重心を軸にして回転させると、先端の居住区については、それまでの天井が床になってしまうこと。しかしそれは、実験室など一部の居住ユニットを回転式にして、左右に回転軸を付けておいて、かご構造の中でクルリと上下反転すればよろしいでしょう。


 機関部と居住区の間にはエレベータを内蔵した連絡筒を設置できるので、便利だと思いますよ。


 映画のメアリー号、見るからに構造が複雑です。

 比べて神戸ポートタワーはシンプルなうえ優美。

 あのかご型構造は宇宙空間でも建造しやすそうに思えるのですが……


 いかがでしょう、作者のウイアー様!


       *



●疑問4:アストロファージを燃料化するなら、それで地球暖房できるんじゃネ?


 それが出来ない理由は作品中でキッチリ説明されているとは思いますが……


 太陽エネルギーを超高効率に吸収して貯め込む単細胞宇宙生物アストロファージ。

 ならば貯め込んだエネルギーを吐き出させてやれば、エネルギー変換率の高い、理想的な燃料になる……

 ってことで、そうやって作った燃料でメアリー号を12光年も飛ばしました。


 ってことなら、フツーにその燃料を量産して、地球上もしくは衛星軌道上で発電や大気暖房に使えば、人類は延命できるのでは?


 「人類滅亡まであと30年」を百年とか二百年に伸ばすことができれば、その間に問題を解決する方法……アストロファージの天敵生物の開発……が十分に出来るのではありませんか?


 だって、太陽と金星の間にアストロファージがかけた橋、ペトロヴァラインは、エネルギーの大河みたいなもの。ここはひとつ、アストロファージの大量捕獲を実現して、冷えゆく地球を暖める、新たなエネルギー源として活用すべきでしょう。


 人類は欲が深い。

 金星を周回してアストロファージを大量に網ですくう無人捕獲船。

 相手は単細胞生物ですから、クジラがオキアミをし取るような仕組みですね。

 そして無人捕獲船と地球軌道の間を巡回する、無人アストロファージ・タンカー。

 地球の衛星軌道には荷揚げ港が建設され、アストロファージからエネルギーを抽出して地上へ送信するマイクロ波送電ステーションが接続されるでしょう。


 それでがっぽり一儲け出来るなら、人類は実に熱心に取り組むことと思われます。


 技術的に、可能と思いますよ。

 例えば、メアリー号に搭載している四機の無人宇宙機ビートルズ。

 12光年のかなたから、地球目指して自動帰還する技術があるのですから。

 しかも、とんでもない小型機で、です。

 ならばアストロファージの無人捕獲船や自律制御の宇宙タンカーなど、人類に建造できないとは思えないのですが……


 作品の“駄作スレスレ”を感じる部分は、タウセチ星系におけるグレースの奮闘とは別に、人口数十億の地球で多数の人材と莫大な富を投じて、「アストロファージの産業化」に取り組む一攫千金の連中がゴマンといるはずだ、という事実が、たぶんスルーされていることです。


 つまり、グレースがいなくてもオッケー!

 人類独自の“カネの欲望まみれ”の解決作が、地球上で先に実現する確率の方が大きいのではないでしょうか?


       *



●疑問5:人類と岩人がんじんの星系を救っても、他の無数の星系はどうするの?


 銀河系の直径は10万光年。

 となりますと、天球を満たす恒星の光のほとんどは、何百年何千年何万年も、もっと昔の光でしか私たちには見えていないってことですね。


 アストロファージの繁殖と、それによる恒星の光の減衰が観測され始めたのは、いつのことでしょう?

 グレースがヘイル・メアリー号でタウセチ星系へと出発する、十数年は前のことなんでしょうね。知らんけど。

 正直、私の貧弱な脳細胞では考えも及びませんが、「いつから、宇宙のどのあたりの星域でアストロファージが繁殖を始めて、今は銀河系のどのような範囲にその脅威が分布し、各種恒星の光が弱まっているのか」ということですね。


 太陽系から十光年とか二十光年ほどの距離にある恒星系ならば話は簡単です。

 最近、その恒星の光が弱まってきたと観測されたら「十年前、二十年前にアストロファージがその星系で繁殖を始めた」と、繁殖時期を特定できます。

 しかしこれが、百光年、千光年、万光年離れた恒星でしたら、私たちの目に見えるのが百年前、千年前、万年前のその恒星の光なのですから、「今現在、その恒星にアストロファージが繁殖しているのか否か」は全くわからないわけです。


 となると、銀河全域で、アストロファージが今現在、どのような分布で蔓延はびこってきているのか、正確な実態はまるきし不明なのです。


 本当のところは、どうなのか。

 もしかすると銀河系の大半の恒星は既にアストロファージによって光を失っていて、私たちは百年前、千年前、万年前のその星の光しか観ていないので、まだ銀河系は明るく、夜空の星々は輝いているように「見えている」だけなのでしょうか。


 そう考えますと、この物語でグレースとロッキーの活躍によって、タウセチの太陽は元々救われたとして、さらに私たちの太陽とエリダニの太陽が救われても、銀河系全体の恒星がアストロファージによって食いつぶされて暗黒化していく事態は止められないのか? ……という、切ない結果になってしまいそうですね。


 銀河系全体がどんどん暗くなっていくのは、止めようがない。

 しかもその事実を確かめられるのは、それぞれの恒星が暗くなってゆくことを観測できる、百年後、千年後、万年後になってしまいますね。


 その事実を、この作品はどのようにとらえ、観客に説明しているのか、興味深いところです。

 というのは、千年万年という長いスパンで見れば、銀河系はアストロファージに喰いつくされて滅びゆく運命だ……と結論づけられてしまえば、グレースの努力とその成果が地球を救ったとしても、結局のところ、根本的な解決に至ってはいない、という事実を認めるしかないのですから。


 それで良しとすれば、それでいいのですが……


 しかしそのままでは、お話がちょっと面白くないわけです。


       *


 SF作品として、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の結論として期待しますのは……


 そもそもアストロファージはいつ、どこからやってきたのだ? 

 それはいったい、どのようにして発生した何者なのか?

 そして天敵タウメーバもどのような理由で、なぜタウセチだけに発生したのか? 

 アストロファージとタウメーバは、宇宙史的にどのような使命を帯びて、どのような役割を果たしているのか?


 そんな、やや哲学的な命題に対する答えなのですから。


 肝心なのは、作品がその答えをどのように提示しているか、ですね。

 それが『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を、“駄作スレスレ”から“超傑作”に押し上げる要素だと思うのです。


 自分たちの恒星を救うことができたとして、では銀河系全体はどうなるのか?


 そこまで思考の視野が広がってこそ、傑作SFであると言えると思うのです。


       *


 アニメ『トップをねらえ!』(1989)では、宇宙から地球めがけて攻めてくる宇宙怪獣と戦う、搭乗型ロボット兵器の少女パイロットの活躍が描かれています。

 この作品を凄い! と思うのは、とりあえず“怪獣ありき”で、ただ戦って勝った負けたで終わるのでなく、「なぜ宇宙怪獣は人類を襲ってくるのか」という根本的命題の回答を暗示してくれるからですね。


「宇宙怪獣は、銀河系宇宙にとって最も有害な寄生虫的な存在である人類を排除するために、宇宙の摂理として発生しているのではないか?」

 ……と、至極ナットクの仮説が提示されているのです。

 つまり、怪獣が人類を絶滅させようとするのは、この宇宙の“自浄作用”なのだと。


 ホーっなるほど。

 これぞSFのセンス・オブ・ワンダーですね!


 宇宙怪獣には、ちゃんとした存在意義レゾンデートルがあったわけです。


 ならばそいつらの存在意義レゾンデートルに対して、我々人類はいかにあらがい、いかにして生存すべきなのか、それとも、敗けを認めて滅ぶべきなのか?


 その解答として「銀河中心殴り込み艦隊」という勇壮な戦闘単位が、宇宙怪獣の巣に対して最後の決戦を挑むわけで、その戦いに全てを賭ける主人公の少女と、かつての少女である二人の生きざまが、胸を打つのですね。


 そして最後のシーン。あの「オカエリナサイ」<イは左右反転>の、大感涙シーンにつながっていきますし、同じ場面が『トップをねらえ2!』にシンクロし、重なってくるあたり、もうSF的感動が十倍二十倍に増幅されるではありませんか。


 ……と考えて、いまさらに実感しますが、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』って、ネット評価などは非常に高いですけれど、『トップをねらえ!』と『トップをねらえ2!』の方が、実はSF作品としては、はるかに緻密でドラマチックで、感動の涙を誘うのではないでしょうか?


 アストロファージと宇宙怪獣、姿形すがたかたちは異なれど、「人類を絶滅に追い込む宇宙の脅威」という点は同じ。

 それぞれの脅威に対して、人類はいかに対処するかを描いた作品なわけです。

 いかにして脅威を駆除するのか。

 SFとしての作品テーマは、重なる部分もあると思いますよ。 


 ただ、物語として根本的な違いは、ラストシーン。

 『トップをねらえ!』の二人は、故郷に温かく迎えられます。

 しかし『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のグレースには、帰る故郷はたぶん、ありません。彼の生還を望んでいる人物は、おそらく、いないのです。

 そこのところを、モヤッとぼやかして終わったら、物語として拍子抜けになると思います。とても大事なことが抜けているみたいで。

 グレースには、地球の「おかえりなさい」が用意されていないということを。


 この点、両作品の違いが強烈に際立つのですが……


 ただ、観客の多くが、『トップをねらえ!』を知らないだけ、なんですね。


       *


 そこで、次の疑問点になります。


●疑問6:『惑星ソラリス:ソ連版』『未知との遭遇』『E.T.』と比較して、どうヨ?



  【次章へ続きます】


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