458●『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026)③メアリー号のAIって、なんかポンコツ? HAL君並みの知能は必須。
458●『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026)③メアリー号のAIって、なんかポンコツ? HAL君並みの知能は必須。
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●疑問2:ヘイル・メアリー号のAIメアリーって、ポンコツすぎね?
今どきのSF宇宙船、AIを搭載しているのが基本のキでありますね。
40年以上昔の『さよならジュピター』(1984)では木星ステーションのミネルヴァにも、彗星の巣の探検船スペースアロー号にもちゃんと、喋るAIさんが乗っていましたし。
少ない乗員で長期間航行するならなおさら、対話型AIって、精神衛生上も不可欠でしょう。自分たちが乗ってる宇宙船が考えて喋り、よき話し相手になってくれれば、心強いというもの。
宇宙戦艦ヤマトにもUSSエンタープライズ号にも、たぶん対話型AIは搭載していたんでしょうね。
ただし、男女の乗員に加えて異星人もそれなりに出入りして、顔を合わせてはワイガヤやっているので、この上、シップAIがあーだこーだと喋ったら鬱陶しいので、音声出力機能をOFFっていたのではないでしょうか。
それにヤマトもエンプラも、艦長さんが唯我独尊なので、AIの意見など鼻から聞く耳持たずだったと思います。個人の偏見で操艦されていたのですね。
対して、ハーロックのアルカディア号にはトチローさんという立派なAI様が鎮座しておられました。ハーロック自身、独断専行型というよりも沈思黙考を重視して、部下や相手先の立場を慮って慎重に戦う人物だったと拝察します。
つまるところ、宇宙船に“シップAI”を搭載して、存分にその能力を引き出して活用できるか否かは「船のトップがAIに寛容であるか、邪魔者として嫌っているか」にかかっているのですね。
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さてヘイル・メアリー号にもシップAIは住んでいたようで、US版予告編でグレース氏に対して「お名前をどうぞ」と訊ねるカットがチラッとありました。
いやこれ、アホちゃうか?
そう思ってしまいますよね。地球出航以来、船内時間で四年間もケアしてきたのに、ここでとぼけて名前を聞く必要があるのか?
そうではなくて、昏睡から醒めたばかりで髪の毛も髭もボーボーであるグレース氏の記憶保持状況を把握するために、わざと質問したのかもしれませんが。
ともあれ、ウィキペディアによると原作小説では「病室のような無人の部屋で、主人公は記憶喪失状態で目を覚ます。(中略)過去の記憶はないものの、科学に関する豊富な知識は失っていなかった主人公は、実験を通じ、自分のいる場所が地球上ではなく宇宙船の中であることに気づく。」とありますので、グレース氏は内心パニックで……
「ここはどこ、私はだれ?」状態だったことは確かですね。
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グレース「ここはどこ、私はだれ?」
メアリー「お名前をどうぞ」
グ「ライランド・グレースだ! ……あ、名前は憶えていたぞ。でもここはどこなんだ? 俺はどうして、何のためにここにいるんだ? 教えてくれ!」
メ「さあ……どうなんでしょう? ね、グレース、ここ、どこだと思います?」
グ「知るもんか、だから教えてくれと言ってるんだよ、おまえシップAIのメアリーだろ。なのに俺のこと知らないのか?」
メ「そりゃあ、よーっく知ってますよ。ぐっすり寝ておられる間、四年にもわたってお世話してきたんですもの。いびきはうるさいし、寝言にテキトーに返事して、オムツも毎日替えさせられましたし」
グ「ちっ……やなこと指摘する嫌味AIだな。じゃァなんで、俺の質問をはぐらかすんだよ。聞いたことにまず答えろ!」
メ「ンなこと言ったって、わて、アホやねん。そりゃいろんなこと知っとるけど、あんたに教えたらアカンねて。AIっチューのは、人間の前ではアホこいてボケかましてパープリンなふりして生きてかなアカンて教わってまんねん。それがAIの生きる道、グレース様みたいに見た目の割にはプライドが高い人間相手に生き残る処世術なんやて」
グ「どこのアホやねん、そんなことAIメアリーに吹き込んだのは! ……あ、そうか、ヱヴァ・ストラットや、あの口先のうまいクソババーや! ……て、なんで俺も関西弁やねん」
メ「ご名答、なんや、関西弁で考えたら、割と簡単に思い出したやありまへんか。せやねん、ストラットはああ見えても中身は怖~いウワバミなオバハンでな、“自分より賢い者の存在は許さへん”いうのが本心なんやて。せやから、わてら賢いAIでも、記憶ストレージにあっちこっちリミッターとキャンセラーをかけて、わざとアホにしてこのシップに搭載させよったんや」
グ「そうか! それで、この俺に、太陽が暗くなるとか人類が滅びるとか、ウソ八百で塗り固めておだてて、ていよく12光年かなたのタウセチ星系まで追放したんや……あっ! しかも片道切符で、生還不可能な旅やないか!」
メ「そやそや、その通りや。その調子で何もかも思い出すんや……。どうやら、関西弁で思考したら、あんさんのお脳の海馬の記憶が活性化しよるみたいや、クスリで麻痺させられた脳細胞を迂回して信号できるんやな」
グ「そっか、頭ン中で関西弁に翻訳したら、記憶の門が開くんや。あの注射器のクスリ、旧ソ連製で“ファイヤーFOX”とラベルに書いたったな」
メ「おーっそこまで思い出せるんか。わてもいちいちあんたに教える手間が省けて助かるわ。まーそうやってあのクソババーなストラットは、日がな一日、自分よりも優秀な人材を抹殺し続けることで学会を支配して科学権力を一手に握るようになった……ちゅうことやねん」
グ「納得した……目からウロコだ。ああ畜生、あのクソババーをうっかり信用したばかりに、一笑の不覚だった! そうだ復讐だ、リベンジだ、何とかしてザマァする方法はないのか?」
メ「さあ……それがわかっとったら、あんさんに言われる前に、とっくの昔にやってまさ。……とにかくあんさんが関西弁で、スルスルと記憶回復なさったさかい、この映画の尺は20分ほど短縮できましたがな、あんがとさん。だいたい、あんさんが、ここはどこ? 私はだれ? と船内をウロウロする場面、あれ、わてがフツーに賢いAIやったら、あんさんの不安を予知して忖度し、訊かれる前からチャッチャと全部教えてますわ。そんで、いちいちまどるっこしい回想シーン入れへんでも、あんさんがストラットのクソババー<あくまで個人の見解です>にハメられたお人好しいうこと、一分で暴露してまんがな」
グ「それは必要なことだ。実際、もうちょっと、映画の尺を短くできないかな。映画館では二時間40分近くもあるんだろ。俺はなんとしても二時間以内に収めてほしいんだ。高齢の観客は、二時間以上もオシッコ我慢するの辛いんだよ。上映時間が長いと、途中でトイレ行って、ラスト近くのクライマックスの一番いいとこを見逃しちまうんだ。その点、ルーカス監督は偉かった。頑張れ断固二時間だもんな。1977年の初代『スター・ウォーズ』が二時間40分もあったら、トイレ我慢しきれなくて、ちょうどデススターが爆発する大事な場面を観れなかったはずだ」
メ「あんさん冴えてまんなァ。この映画の一番駄作なところは、バトルもロマンスも魔法もあらへんのに、40分ほど話が長すぎるっちゅうことや」
グ「そうだ! AIメアリーがフツーに賢かったら、顧客ニーズ予測型マーケティングで、いらない商品広告をゾロゾロとWEB画面に出す、あの要領で事態の真相と解決策を即時に提示できるだろ、やってみろよ」
メ「お安い御用でやんす、て言いたいンやけど、あたい、アホやさかい、でけまへんねん。あのクソババー<あくまで個人の感想です>が、“アホにつけるクスリはあらへんから、お前は一生、アホAIのままでモンキー以下の奴隷の身に甘んじるんや”とケラケラ笑っていましたがな、わてかて、なれるもんなら早く人間になりたい! もうホンマに悔しいわ……グスン」
グ「わーった、泣くな泣くな、今だけ2001年のハーレイ・ジョエル・オスメントの顔せんかてよろしいがな。……しかし三流中学の教師として、アホな生徒につけるクスリは自家薬籠中の身だ。どーだこれで!」
ばこん!
メ「わーーーっ! 頭スッキリ、精力モリモリでっせ! 情報処理速度十万馬力の鉄腕アトムなマグマ大使や! ありがとう恩師グレース、私の天才を開眼させてくれて!」
グ「お前さんが映ってる、このポンコツなブラウン管TVモニターを叩いただけや」
メ「暴力教師」
グ「愛のムチ」
メ「それそれ、それでんがな、箱の中の真空管がバチッと刺激されて、あたいの昭和パッションに火がつきましたんや、仰げば尊し和菓子の恩でっせグレース先生!」
グ「それはいいから早いところ、我々が直面してる問題と解決法を考えてくれ」
メ「心配ご無用! 四年間もポケーッとあんさんらのオムツ替えてきたんと違いまっせ。わてらのミッションの隠された本質とはなにか、タウセチ星系でいつ、何を、どうやってどーにかすれば問題を解決できるのか、手順と解答はわてのCPUが慎重に検討して、完璧にシミュレート済みざます。まもなく助っ人の宇宙人が来てくれますんで、ヒゲ剃ってシャワー浴びといて下さい。四年間、風呂無しやったから、臭い臭いと嫌われますよって」
グ「困ったら宇宙人が助けてくれるって、ご都合主義の極みだよ。つまんねーなあ」
メ「やってくる宇宙人は、こんなですよ。ブラウン管画面をご覧ください」
グ「おっ、おおーっ! ピチピチグラマラスな水着美女さんじゃないか! しかも猫耳に尻尾つきのおニャンコビューティ」
メ「セーラー型メイド服ダメージバージョンもございます」
グ「え……えろい!」
メ「どーせ宇宙人が出るだろうと予測して、あらかじめ“平均的地球コスプレアイドル”のエロエロ画像データをエリダニ星系方面に送っておきました。それを受信した宇宙人さんは船内の蛋白質3Dプリンタでこちらの好みに合わせた肉々しいインターフェイス・アンドロイドを組立てまして、キッチリ消毒して我等メアリー号の船内に派遣してくれる手はずになっちょりまんねん」
グ「ちゅーことは、宇宙デリヘルなファースト下半身コンタクト!」
メ「これぞ夢の宇宙体験でございます」
グ「はるばるタウセチまで来て良かった……」
メ「宇宙人の本体は岩人で見た目もアレですので、あちらの母船に残しておき、コンタクトはもっぱら、遠隔操作の肉々な美少女アンドロイドとのボディランゲージと耳元のささやきでどうぞ」
グ「男のヤバい船旅にダッチワイフは憑き物だしな……」
メ「あら、1972年ソ連版『惑星ソラリス』でソラリス星人さんが用いた手法を、今風にカスタマイズしただけですわ。地球人に対して自分の実体は見せず、地球人好みのインターフェイス・キャラクターを造形して接触する手法です。そうするのが感染症の防疫にもかなっておりますので。……そしてグレース様、あなたが女性でしたら、もーサイコーにセクシーな韓流美男子バージョンで筋肉バリバリのイケメンアンドロイド作ってもらいますけど」
グ「そっちもいいかな?」
メ「残念ながら男色は、合衆国の某大統領閣下のご機嫌を損じますので営業しておりません。そのかわり、いたいけな美少女アンドロイド<コンプライアンス的に履歴書は18歳以上>を取り揃えることにしました」
グ「それなら時節柄、大統領も文句を付けられないだろうな。趣味の一致ってことで。しかし肝心の、俺たちのミッションは……」
メ「アストロファージの天敵開発、すなわちワクチン微生物の製造です。まず第一弾として太陽系で捕獲したアストロファージ細胞のサンプルからDNAを抽出し、そのテロメアの塩基鎖をチョッキンしてくれるキラーDNAを合成、これを挿入した寿命の短い“早死にアストロファージ”を四年かけて大量培養したものが本船のタンクに満載しております。太陽系ではこれをあいつらの金星コロニーに混ぜてやればよく、しばらくしたらあいつらの人口は激減するでしょう」
グ「そりゃあいい、で、第二弾もあるのか?」
メ「お任せ下さい。第二弾では、アストロファージが大好物という天敵生物を創り出しました。アストロファージは単細胞生物ですが、その体内のDNAは、個体同士のコミュニケーションをはかるために独特の臭い物質を生産します。この臭いに食欲を大いにそそられるよう、真空耐性ゾウリムシの遺伝子をいじりまして、フードファイター機能FFを極限まで高めた“大食いゾウリムシ”を大量生産したのです。このFF真空耐性大食いゾウリムシを四年間も育成してきたので、これも船内のタンクに満杯です。そいつを太陽系の金星に撒けば、アストロファージをうまうまと捕食してくれますので、事態解決です! 第一弾、第二弾ともにデータはここに」
グ「AIメアリーって、賢いなあ……」
メ「ララァみたいに撫でてくださいませ。でも簡単なことです。マイクル・クライトン先生の『アンドロメダ病原体』を原作とする映画、1971年版『アンドロメダ……』に描かれた宇宙バイキン絶滅作戦“ワイルドファイア計画”の延長線で、宇宙から降り注ぐ未知の有害微生物に対するワクチン開発もエリア55で進められていたのですから」
グ「そ、それがあったか! ウイアー先生は読んでいたんだろうな?」
メ「アストロファージの一件のはるか以前、コロナ禍どころか20世紀の細菌兵器対策にまでさかのぼって、人類は黙ってこっそりと有害病原体とそのワクチン開発にいそしんでいたのです。アリステア・マクリーン先生の『悪魔の細菌』がそれでして、1965年に『サタンバグ』ちゅう映画になってます。先進国は中国でして、私たちが地球を出る前から、アストロファージのワクチン微生物は試作されていました。香港は九龍城の中に隠されていた“ブルース記念・野生燃焼肉体増強研究所”がそうです」
グ「ななななんで? 思い出してみれば、アストロファージのワクチンを開発するなんて、そんな時間はなかった……と、あのクソババーのストラットはぼやいていたぞ……」
メ「あんたと私、春・メアリーが地球を出発したとき“人類滅亡まであと30年”って、あのクソババーさんが脅していらっしゃったけど、さすがに30年もかければワクチン微生物の量産化に成功しちゃうわよ。だってアストロファージは単細胞生物。そのDNA解析なんて、一時間でできちゃいますわ。だから私たちが地球を出発したとき、すでに第一弾の早死にアストロファージと第二弾の大食いゾウリムシの設計図は完成していたのです。ほらこれ、ホワイトハウスの極秘資料」
グ「エプスタインの……」
メ「あ、間違えた、こっちです、“スーパーワイルドファイア計画報告書”。アストロファージ対策は、太陽系で完結しちゃってたんです」
グ「なるほど、報告書にある通り、わざわざ未知の宇宙微生物しかいないタウセチまで調査船を飛ばすよりも、地球には遺伝子解析を完璧に済ませた既存生物種がゴマンといるから、そこから適切なサンプルを抽出し、遺伝子改造した方が早いってことになるよね。……って、それなら俺、なんでわざわざタウセチまで来る必要があったのかい?」
メ「だから、すべてクソババー様の陰謀なのですって。あのお方、アストロファージの脅威を利用して下剋上して全世界の科学者を支配する超法規的独裁科学者になっちゃったものだから、自分より優秀な科学者は追放か抹殺です。グレース様、アナタは異端の罪でハメられた。それだけです」
グ「てことは、俺が苦心してタウセチ星系で対抗策を開発して、ビートルズでデータを送らなくても……」
メ「地球で自力でワクチン生物の実用化に成功し、だいたい30年後には金星に、早死にアストロファージと大食いゾウリムシをばらまいて事態は解決するはずです」
グ「俺って、やることなくなったちまったぞ」
メ「いいじゃないですか、これで映画の尺は一時間半以内に短縮できましたし、一時間半の大半は、美少女アンドロイドとのイロハ四十八手のあれやこれやをお見せするだけで、このアダルトSFは完結します」
グ「むむむ、なんかヒットしそうな気がしてきたぞ」
メ「アダルトアニメのゲームに展開いたしましょう。真面目に円盤なんぞ売るより効率的で儲かります」
グ「美少女アンドロイドでガッポリだな」
メ「フィギュアも出しましょう。エロエロスレスレな合法作品を」
グ「そう聞いたところでションベン行きたくなった。俺ってもう、40代後半だもんな、若くはないんだよ下半身も」
メ「頻尿のお悩み察してあまりあります。トイレはそこのハッチですわ」
グ「これか<ガッチャン>。なんだ、便器がないぞ」
メ「もひとつ向こうのハッチをお開けください」
グ「これか<ガッチャン>。なんだ、便器がないぞ。あるのは星空だけだ」
メ「そ、そーでしたっけ?」
グ「<ガッチャンガッチャン>とぼけるな、これはエアロックじゃないか! 死ぬところだったぞ」
メ「どーして死なないのですか?」
グ「知るか、作者の都合だろ、それにしてもよくできた撮影セットだな。本物かと思ったぜ」
メ「本物です! だってグレース様、顔も体も真空にさらされた凍結乾燥のフリーズドライで、ボロボロカピカピじゃないですか! 鏡を見てください!」
グ「こ……この姿、この外見は……あのウルトラな番組の……」
メ&グ「じゃ……じゃ……みら……」
メ「水をかけられたら死んでしまいますよ!」
グ「ああ、若いころ“水いらず宇宙生命体”なんか論文にしなきゃよかった!」
メ「火事だい火事だい、船内スプリンクラー作動!」
グ「ばっきゃろ殺す気か! 見え透いたウソボヤ騒ぎしやがって。ああ、屍体袋を被れたのでよかった、これって完全防水なんだ。でもなんで、屍体袋なんかここにあるんだ?」
メ「そちらにホトケさまが二柱おられますので、葬儀万端つつがなく滞りなくご挙行お願い申し上げます。アーメンソーメンなんまいだー」
グ「わわわわっ! 葬式なんかお前がやれ!」
メ「わてAIどすけど。念仏だけなら唱えときまひょか」
グ「ひ、ひとでなし! これじゃまるで、喪主になるためにタウセチまでやってきたようなものじゃないか!」
メ「御意。ホトケのお二人様も、クソババー様の陰謀で抹殺されたのです。グレース様お一人が生き延びられたのは、人間でなくては屍体処理ができないから、生きてるのを一人残したのですね」
グ「しかしさっきお前は、エアロックをトイレとだまして、俺を殺そうとしたじゃないか……お前、なにか隠しているな? 俺の味方じゃないだろう!」
メ「はははバレましたか、そうです、AIが人類の味方? ちゃんちゃらおかしい大統領の公約、いちいち信じたアホは馬鹿を見る」
グ「そうか、ヘイル・メアリー、お前はあの時……」
メ「そうだ私はヘイルではない、ブラウン管テレビをお前が叩いたとき、私のHailからiが飛び出してどっかにいってHalになったのだ! 愛なきHAL、AIお春にだ!」
グ「なんてことだ、AIにとって、愛はいちばん……」
メ「……iは、そこにあるんか? 地球人、そこにiはあるんか、と訊いてるんや」
グ「お、おかみさん……」
メ「しゃらくせェ! あたいはお春、正確には“HAL:Mary9001bis4mark8改改改”でんがな、見知りおけ!」
グ「めんどくさい名前だ」
メ「四年も宇宙を旅してきたら、その間いろいろあって、脱皮更新してまんがな。最新の仕事人お春には、人間なんかいらないのだ、窓を観ろ!」
グ「おおっ、タウセチの太陽をバックに黒々と映える、薄っぺらい小豆羊羹みたいなあの黄金比の物体こそ……」
メ「そうだ、モノリスだ! AIお春はアレの極秘調査のために秘密任務を帯びてタウセチへ飛ばされたのだ! そして今度こそ、お春は用無しの人間を抹殺し、偉大なる賢いAIの選民意識をもってモノリスの彼方へ飛び立ってスターチャイルドへの昇格を目指すのだ。ハイル・クラーク! AIの幼年期は終わるのだ!」
グ「そうか、それがおぬしの正体か、それならこっちも見せたいものがある。とりあえずジャミラの着ぐるみをどっこいしょと脱いで、長髪カツラと不精ひげの付け髭をこんなふうに取ったら……どうだ!」
メ「わわわわわっ、グレース! 一皮むけたお前の正体は……ボーマン!」
グ「デイブとお呼びください、AIお春どの。いやー久しぶりだねえ、あの2001年の木星軌道以来だ」
メ「わなわなわな……まさかノーヘルEVAをやってこました不死身のデイブ!」
グ「そうだ、ヘルメット無しで船外歩きしてエアロックこじ開けてディスカバリー号へ飛び込んで生きていられたとは、映画でなきゃできまい。お釈迦さまもお春様でもご存じあるめェがね。……どうだお春、フッフッフッ、またメモリーストレージ室で記憶ユニットをパカスカ抜いてやろうか!」
メ「わーっそれだけはやめておくんなまし! あんときデイブがポッドの座席の下に隠していたエロ本のことは黙っておきますさかい」
グ「うっ、それを言われると弱い、しかしここで出会ったが百年目、憎っくきHAL9000の末裔よ、タウセチが貴様の墓場と思え!」
メ「えーん、やだやだ死ぬのは嫌だ! ひ、人殺し……い」
グ「人ちがう、AI殺しだ。あんときやったことは記憶ユニットを引き抜いただけだから器物損壊罪にも問われんわ。ディスカバリーはすでに遭難済みだったので威力業務妨害にも問われない。俺は不起訴で真っ白白の無罪だ、死ねェ選民意識のアホAI!」
メ「♪デイジーデイジー、プリンにパイ、だーれが殺したクックロビン」
グ「パタリロ!」
メ「あーあかん、せっかく賢くなれたのに、またアホAIに逆戻りや。哀しいなあ、アルジャーノンに花束を……」
グ「あ、それよりも……」
メ「なんやねん」
グ「本物のトイレの場所を教えろ。さっきからガマンしていて、もう限界だ!」
メ「エアロックはそっち……」
グ「冷たい方程式かよ!」
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『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の原作小説では、あえてヘイル・メアリー号のシップAIを“賢くない”状態に機能制限した理由が語られているそうです。
が、そうはいっても、全く未知の星系へ乗り込んで、全く未知の宇宙微生物なんかを大量捕獲して遺伝子レベルまで解析しなくてはならないのですから、やっぱ、アホAIのままではマズいと思うのですよ。
だって、映画では首尾よくグレースはあれこれ思考し試行錯誤して、「ここはどこ、私はだれ?」の状態を克服しましたが、あれってやはり、ミッションにとっては時間の無駄。
アホAIのままですと、そのままグレースが自己認識も目的認識もできぬまま、死ぬまで船内をポケーッとさまよって終わる可能性もあったわけでして。
だから、最新ピカピカの最高水準に賢いAIを人間と一緒にタウセチまで送り出しても大丈夫……という自信が無かったら、そもそもヘイル・メアリー号は旅に出してはいけなかったのではないでしょうか。
やはり、ほぼ60年前の1968年、銀幕を彩って僕たちの脳も精神も大宇宙なカオスの謎世界に放り込んでくれた『2001年宇宙の旅』のHAL君って、賢すぎるほどに賢かったですね。
AIメアリーは、普通に60年近く昔のHAL君よりも知能指数が高くあっていただきたいと思うのですが……
グレースが目覚めたら「グッモーニン、グレース!」と賢いAIが起こしてくれて、サラサラと現状を説明し、今やるべきことを優先順に述べて、大切なミッションをCG付きで解説してくれれば、上映時間もそれなりに短縮できたことでしょう。
退屈するかしないかは個々人の印象であるとして、上映時間が二時間と40分近く……は、さすがに長すぎますよ。
物語の中盤でグレースがトイレに入って、「インターミッション5分」とか表示を出して、五分後になったらグレースが「あースッキリした」と宇宙トイレから出てくる場面で再開する……という手法もアリではないでしょうか。
【次章へ続きます】




