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457●『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026)②グレースよ、地球人を甘やかしすぎでは? そして『宇宙からの脱出』(1969)

457●『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026)②グレースよ、地球人を甘やかしすぎでは? そして『宇宙からの脱出』(1969)



 タウセチ星系で一人目覚めたグレース氏の境遇は、ある古典SF小説に似ていますね。

 アルフレッド・ベスタ―の『虎よ、虎よ!』(1956発表)。

 何者かの悪だくみによって、意図的に宇宙の果てに放置されたスクラップ宇宙船に、ひとり遭難の身。

 ロビンソン・クルーソーみたいなものです。誰も助けてくれません。

 そんな主人公、あの手この手で苦境を脱出し、地球へ舞い戻って、自分をハメた悪い奴らにビシバシと復讐します。

 この展開、アレクサンドル・デュマの『巌窟王…モンテ・クリスト伯…』にインスパイアされているとかで、いわば、“未来宇宙版の巌窟王”でしたね。

 これとは別に、『巌窟王』を未来宇宙社会に置き換えてアニメ化した『巌窟王』(2004)がありまして、それを観て、「なるほど『虎よ、虎よ!』にそっくしだ」と驚きましたけど、まあ要するに、最初に『巌窟王』を書いたデュマ先生がいかに偉大であるかを示す出来事エピソードだったわけです。


 いや『巌窟王』って、凄いですね。

 ドラマに映画にと、21世紀に入ってもリメイクされているようですし。


 そんなわけでヘイル・メアリー号でたった一人、ほぼほぼ遭難中のグレース氏が、いずれ地球へ舞い戻って、憎きストラットのクソババーに復讐してザマァと嗤う話になっても不思議はなかったのですが、そうなる前に善良なる岩人がんじんロッキー君が訪ねてきたんですね。


 岩人がんじんロッキー君は、巌窟王エドモン・ダンテスが出会う獄中のファリア神父にあたるのではないでしょうか?


       *


 このあとの展開、やっぱダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』(1719)を思い起こさせます。

 クルーソーは現地民フライデーを助けて従僕とし、帰国を果たしますが、ヘイル・メアリー号のグレース氏は逆。

 近隣星系のロッキー君を友として、結局地球に帰らずにロッキー君の故郷の星へ帰化する道を選んだみたいですが……いずれは地球へ戻る希望も抱いているようですけどね。


 それはともかく、地球人ストラットに騙されて無理矢理メアリー号に乗せられて12光年も彼方のタウセチ星系に片道切符で“棄民”されたも同然のグレース氏ですから、地球人に対する恨みはメラメラのはず。

 だって、このままじっとしていたら、死ぬだけなんですから。

 太陽を蝕む単細胞宇宙生物アストロファージを退治するなんて強制的なミッションは“やんぺ”して、このさいガミラス帝国と手を結んで遊星爆弾の何発かでも地球にブチ返してやりたい心境ではないかとお察しするのですが……


 そんなグレース氏が、どんな仏心ほとけごころの吹き回しか、岩人がんじんロッキー君と力を併せて、アストロファージ退治に取り組むのです。


 その心境の変化、いかばかりか?


 これ、やっぱり謎なんですが……、そこで、ナルホドと解決してくださるYouTube投稿がありました。


 “『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の隠された意味とは?……町山智浩Channel”です。

 皆さま、ぜひご覧になってください。

 一言でまとめますと「主人公グレースは“イエス・キリストの再来”と位置づけられており、作品中にはキリスト教にまつわるキャラや事物が巧みに配置されている」 ということなんですね。


 そ、そうか! そうだったのか!

 目からウロコでした。


 だからグレース氏は、地球人への怨みを克服し、太陽系の危機を救ってあげようという、仏心ほとけごころを持ち合わせていたのですね。

 グレースと言えば、『アメージング・グレイス』<大いなる神のご加護>という讃美歌もありますように、“神のご加護”って意味。

 彼自身が、キリスト様の隠喩メタファーであると解釈すれば、異星の岩人がんじんロッキー君との関係も聖書の「汝の隣人を愛せよ」そのものです。

 最初から敵意がなく、善意をもってグレースに接近するロッキー君。

 グレースも「こいつはインデペンデンス・デイの侵略エイリアンの親戚かも」と疑って、核交渉するふりして突然に誘導弾で攻撃して国家指導者とその家族も虐殺して巡航ミサイルで女の子たち百数十人も虐殺してF15ストライクイーグルとA10サンダーボルトとE3セントリーを破壊されてブチ切れてホルムズ海峡はニッポンや韓国で何とかしろやと投げ出してしまわれるあのプレジデントな閣下様とは真逆の、美しい心根こころねをお持ちだったのです。


 基本、思いやりのある、優しい人物だったのですね。


 グレース氏と岩人がんじんロッキー君。

 二人は聖書の教えの通り、「汝の隣人を愛する」が如くに、互いを認め、互いの立場を思いやってあげたのだと……


 宇宙船ヘイル・メアリー号の船名って「アヴェ・マリア……いちかばちかで、お願いマリア様!」ってことですから、船内には聖書のワンセットも搭載していたはず。


 これは、宇宙の果てでめぐり逢った聖者とその友の物語。


 うん、いい話です。

 映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』って、聖書を下敷きとした、キリスト様とそのお友達によるこのけがれた世界の“救済”と、地球上へもたらされる、聖なる“福音”を伝えるお話だったのです。


 だって、アストロファージという悪魔サタンを退治する武器である天敵タウメーバのサンプルとデータを載せた四機の無人宇宙機ビートルズが地球へ向かって飛び立ちますよね。

 つまりあれは、地球の人々、迷える子羊たちを救うビートルズという名の福音であるのです。

 1960年代にベトナム戦争ですさみ切った世界に平和の歌声をもたらした四人の聖者ビートルズのように。


 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、グレースとロッキーという二人の救世主による、それぞれの故郷の救済の物語。

 そしてグレースとロッキーの友情と、互いを救う物語。


 素晴らしい作品です!


 この点、本作は高く評価されてしかるべきだと、全面的に納得です!


       *


 ただしそれは、本作を「聖書に基づく寓話」と解釈した場合のことです。


 「世俗的なエンタメSF映画」として受け止めれば、やはりそれなりに、モヤモヤした疑問点は少なからずあるわけでして。


 それら疑問点はこのあとの章で、項目ごとに考えていきますが……


 主人公グレースの優しさや人の好さは、作品の大きな魅力なのですが、それが、どうしようもなく切なく物足りなく感じる面は否めません。


 グレースは、地球から見捨てられた存在。

 立派に仕事を終えた後も、生存すら期待されていない、使い捨ての存在。

 それでも、地球を愛し、人類を救ってやろうとする……


 聖者グレース様よ。


 そんなに人類を甘やかしていいのか?


 ここはガツンと、「人類なんか滅びちまえ、それでも宇宙は滅びないさ!」と突き放してやった方が、教育的にもよかったんじゃないでしょうか。

 ね、中学教師のグレース先生!



       *

       *


●宇宙を拓く人々のヒューマンドラマ、その魅力と『宇宙からの脱出』(1969)。


  同じ作家様の映画化前作である『オデッセイ<火星の人>』(2016)では、偶発的なトラブルで火星に一人取り残された男の壮絶なサバイバル作戦と、彼一人を救うために奔走する宇宙の仲間たちが描かれました。

 たった一人でも、宇宙を開拓する仲間であるからには、絶対に見捨てはしない。

 ライバル国家の宇宙関係者たちは支援船を宇宙へ送り出し、地球へ帰還途中の仲間たちは大胆にも船を火星へUターンさせて、彼の救出に向かう。

 宇宙の同胞の命を救うために、それぞれがベストを尽くすヒューマニズムの誇らしさ。

 胸のすくような快作でした。


 宇宙を拓く人々の熱い絆を物語る、この種のヒューマニズムは映画『宇宙からの脱出』(1969)に象徴的に描かれています。

 これ、歴史に先駆けた傑作だと思いますよ。

 衛星軌道上で逆噴射ロケットが故障して、地上へ降りることができなくなった三人乗り宇宙船<どう見てもアポロ>を救うために、逆境をものともせず奮闘するNASAの幹部を演じたのは『アラバマ物語』(1962)でアメリカの良心を体現したグレゴリー・ペック。

 ハリケーン吹きすさぶ発射台からついに打ちあがる救援船のまばゆい噴炎に彼が「GO!」と叫ぶ場面は感涙ものでした。だってその寸前まで、宇宙船の調達と整備にムチャクチャリスキーな苦労があり、よく打ちあがったなァ、落っこちなくてよかったなァ……と、まさにヘイル・メアリーなリフトオフだったのですから。

 そして当時の敵性国ソ連も支援船を打ち上げて、ロシア人飛行士が懸命の船外活動で、酸素不足に陥った遭難者を延命させます。

 死の真空に包まれた宇宙での、人道をかけた、緊迫の人命救出劇。


 それは翌1970年のアポロ13号の遭難で、まるで予言されたかのように現実のドラマとなりました。

 それがのちの1995年に『アポロ13』として映画化されまして、主演したトム・ハンクス氏は宇宙の物語に縁あってか、三年後の1998年に『フロム・ジ・アース/人類、月に立つ』という12話に及ぶ宇宙開拓史ドラマのナビゲーターを務めています。


 そして『オデッセイ<火星の人>』は、宇宙を舞台にしたレスキュードラマの珠玉作として、21世紀に結実した傑作だと思います。


 つまり、私的わたしてきには、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』よりも圧倒的に、『オデッセイ<火星の人>』の方が素晴らしく感じるのです。

 その真髄は、絶対にあきらめずに人命を救うヒューマンドラマであり、アポロ13号で実証された、宇宙を拓く人々の矜持であり、誇り高きリアリティですね。


 この点、最初から地球のお偉い人々にハメられて、死を前提としたカミカゼ特攻の旅に送り出され、スペースデブリ同然に見捨てられてしまった主人公を描く『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、宇宙を拓く人々のヒューマニズムの真逆に位置づけられるでしょう。


 逆に、だからこそ岩人がんじんロッキーとの友情が冴え渡るのですが……


 それでもやはり、結果的にグレースにとってクソババーなストラットをはじめとした地球人たちの薄情さも際立つわけでして。いやストラットさんは、心では泣いていると思いますよ、しかしそんなことは、キリストの再来たる聖者として人類の犠牲に甘んじるグレースにとって何一つ救いになっとらんのです。


 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、観るまでも無く、“後味の悪い傑作SF映画”の筆頭格に君臨してしまいました。あ、あくまで私の個人的感想ですよ。

 なにぶん、現在の現実世界の超大国の指導者の薄情さと、綺麗に重なるような気もいたしまして。



    【次章へ続きます】


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