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445●戦争映画としての『風の谷のナウシカ』⑫まとめ1:戦争に引き裂かれたペジテ市長一家の、隠されたドラマ。

445●戦争映画としての『風の谷のナウシカ』⑫まとめ1:戦争に引き裂かれたペジテ市長一家の、隠されたドラマ。



ネットのニュース

●「最も激しい攻撃はこれから」とアメリカ イランも報復続行、ホルムズ海峡を封鎖と

2026年3月3日 BBCNewsJapan

(前略)アメリカとイスラエルは2月28日にイランを攻撃。イランの最高指導者アリ・ハメネイ師を殺害した。(中略)

トランプ氏はこの日(中略)イランへの攻撃について、目的は「明確」だと主張。同国の核兵器保有を永久に阻止することに加え、「イランのミサイル能力の破壊」と「海軍のせん滅」が目的だとした。(中略)さらに、イラン政権が核兵器と長距離ミサイルを持てば、中東地域だけでなくアメリカ国民にとっても「耐え難い脅威」になるとした。


       *


●イスラエル・ネタニヤフ首相「北朝鮮を止められなかった結果、彼らは弾道ミサイルと核弾頭を手に入れた」

2026 3/4(水)3:06配信  FNNプライムオンライン

ネタニヤフ首相は(中略)「あと数カ月もすれば、イランの弾道ミサイル計画と核爆弾の開発は完全に無敵となる。今、行動を起こさなければ、将来的に行動が不可能になる」と主張しました。


       *

       *


「巨大な力を他国が持つ恐怖ゆえに、私はペジテ攻略を命令された」

                    (トルメキア帝国第四皇女クシャナ)


       *

       *

 

 これまでの本稿のまとめです。

 『風の谷のナウシカ』を、環境保護エコロジーテーマではなく戦争映画として再解釈してみると、従来は着目されていなかった、新たな視点がいろいろと浮かび上がってきましたね。

 その最も重要と思われる骨子を、抜き出してみます。

 これまで本稿で書いた内容との重複が多くて恐縮ですが、本作の大事な要点でもあると思いますので、何卒ご容赦下さい。


       *


●作品の進行時間は「最短で四泊五日」


 『風の谷のナウシカ』。

 タイトルバックのテーマ曲に重なって、広大な腐海の森の上をひとりメーヴェで飛ぶナウシカが現れて、本編の物語が始まります。


 風の谷の王女ナウシカを中心に物語られた時間は、全部で何日くらいだったでしょうか。


 ナウシカが本編で何回、夜を過ごしたか数えてみましょう。


 まず、ユパ様を風の谷に迎えた夜、明け方に近い時刻にトルメキアの大型船が飛来して、海岸近くに墜落炎上します。これが第一夜。


 翌朝、日が昇って間もなく、クシャナとクロトワに率いられたコルベットとバカガラス編隊が風の谷へ侵攻、谷は占領され、父王ジルの殺害に怒ったナウシカが大暴れしたのち、ユパの手の中で気を失います。

 クシャナたちが侵攻した時に、城の壁面への日当たりに注意しますかと、石橋のある方向すなわち東(正確には南東かもしれません)の方から日が差しているようです。明らかに朝、少なくとも午前中ですね。

 続いて、石橋のたもとに村人が集められ、その前で城をバックにしてクシャナが「王道楽土を建設するために来た」と演説した時はどうでしょうか。

 トルメキアの旗が翻るカットから、城の石橋のたもとを見下ろすカットに移った時、石橋のすぐ外、すなわち東側に並ぶ民家の壁の日当たりに注目します。

 家屋の西壁が明るく、白く映えていますが、家屋の影は手前にも左右にも延びておらず、家屋と家屋の間はひさしによって陰になっているようです。

 なので、このとき太陽は中天に高く、正午を過ぎたあたりではないでしょうか。

 クシャナの白いマントを見ると、真上から照らされているような印象ですね。

 そして村人たちや戦車が巨神兵のはいを引っ張ってゆく場面を眺めるクシャナを見ると、海に面して西向きに立っていて、そのマントは正面から西日を受けているようです。つまり午後ですね。

 そして夜となり、場内で「人質五人にガンシップに食糧」を徴発して、ナウシカをペジテに連れて行くと命じるクシャナ。そしてナウシカは地下に降りて、腐海の植物の秘密実験室を閉鎖します。これが第二夜となります。


 翌朝、バカガラスに乗せられて飛び立ち、アスベルの襲撃、ガンシップで脱出、腐海に降下したバージの救出、そこからメーヴェで移動したナウシカがアスベルと出逢って腐海の底に落ち、その清浄な世界で一夜を明かします。これが第三夜。


 メーヴェにアスベルを乗せて飛行、炎上するペジテ市の郊外でペジテのブリッグに遭遇、ナウシカがブリッグから脱出、ガンシップで駆けつけたミトがコルベットを撃破、王蟲の暴走を食い止めるために風の谷へ向かって飛行するところで日没。そして王蟲の幼生を吊り下げた飛行ガメとのあれやこれやがあって、ナウシカは王蟲の幼生とともに、爆走する王蟲の大群の前に降り立ちます。これが第四夜。


 夜明けの光とともに、王蟲たちは去り、生き返ったナウシカはアスベルたちと無事を喜びあって大団円となります。


 ということで、本編に物語られた時間は、最短で「四泊五日」となりますね。

 もしかするとどこかで、描写されないままに一夜くらい挟まっているかもしれませんが、「最短で四泊五日」という、ぎゅっと凝縮された時間に展開した白熱のドラマであったということができるでしょう。


       *


●描かれたのは「後半戦」、ナウシカは開戦を知らない。


 しかしこの「四泊五日」の物語は、本編を“戦争映画”と捉えれば、これが全体ではなく、ストーリーの一部分であることは明白です。

 最初の場面、ナウシカが“腐海遊び”で探検している間に、トルメキア軍に攻略されたペジテ市は壊滅的打撃を受けていたのですから。


 つまり『風の谷のナウシカ』に描かれた物語は、ペジテとトルメキアの“ペ・ト戦争”(私の勝手な仮称)の後半戦なのです。

 “巨神兵のはい”が風の谷に持ち込まれたことで、ナウシカは否応なくこの“ペ・ト戦争”に巻き込まれるのですが、それ以前にナウシカの知らないところで戦争が勃発し、戦禍が拡大していたのですね。


 戦争は知らないうちにどこか遠くで始まり、それがある朝突然に、私たちの頭上から降りかかってくる……

 一般の国民にとって、戦争とはそういうものだと、最初に語られているのです。


 冒頭の記事のイラン攻撃の場合、イランの人々が知っていたのは「米国と核兵器交渉が続いている」という事実だけだったでしょう。それが突然、ある日の朝九時過ぎに、テヘランのハメネイ師の施設に数十発のミサイルもしくは誘導爆弾が落とされて、その地響きとともに戦争の渦中に引き込まれてしまったことになります。


 昭和十六年十二月のある朝、大日本帝国の臣民は「米英と戦争状態に入れり」とのラジオ放送を突然に聞かされました。それまで米国とは、外交交渉が続いていたはずですが……

 2026年2月のある朝の米国によるイラン奇襲攻撃は、まさに真珠湾を見るかのようだったと、後年の歴史家は語るかもしれませんね。


 たぶん、世界が動く、その瞬間まで、国民は何も知らされないのです。


 戦争映画としての『風の谷のナウシカ』は、まず、この冷徹な事実を教えてくれています。


 戦争は私たち国民の知らないところで始まる。


 知らされないことを覚悟しなさい……と。


       *


●隠された「前半戦」、ペジテ市長とオッペンハイマー。


 では、仮称“ペ・ト戦争”はどのように展開したのでしょうか。

 作品の画面に全く現れていない“前半戦”を紐解いてみます。


 そこでクローズアップされるのは、ひとつの家族。

 ペジテの王である“市長”と、その一家のファミリードラマです。

 “戦争”という視点から眺めたとき、究極の大量破壊兵器“巨神兵”によって引き裂かれた悲劇の家族が、ストーリーラインに浮かび上がって来るわけです。


 ペジテ市長とは、ナウシカとアスベルがメーヴェでペジテ市に飛んだ時、郊外に降りてきたペジテのブリッグを指揮していた、自国がボロ敗けのくせに自信満々だった、あごひげおじさんですね。

 「作戦の第二弾も発動したよ。今夜にも風の谷のトルメキア軍は全滅だ!」と豪語する人物です。作品中には、「この人がペジテ市長だ」とは明示されていませんが、ペジテ市を代表する指揮官として発言している事実と、ウィキペディアの『風の谷のナウシカの登場人物』から、ほぼ断定できますね。


 ということは、仮称“ペ・ト戦争”の、そもそもの発端を握っているのが、このペジテ市長なのです。


 物語のそもそもの始まりは、おそらく数か月前、ペジテ市の地中から、孵化前の休眠状態にある巨神兵が、はいに入った状態で発掘されたことにあると考えられます。


 以下、私の想像を交えた推測となります。

 作品に描かれていない「前半戦」は、このように展開していったのでは?


       *


 はいの中で眠る巨神兵を前に、ペジテ市長はその利用価値を分析したはず。

 巨神兵の威力は、その強大なプロトンビームによる熱的破壊にあります。


A:平和利用:有害な腐海を焼き払って、人類(ペジテ市民)の生活圏を広げる。

B:軍事利用:敵性国家に対する軍事的抑止力として活用する。


 平和利用の場合、焼き払うのは腐海の森林です。

 軍事理由の場合、焼き払うのは敵国の兵士です。


 このうち、表向きは平和利用を唱えて、ペジテ市長は巨神兵の復活を決定したのでしょう。

 ただし隠された本音として、軍事利用は織り込み済みです。


 復活した巨神兵はペジテ市の守護神としてその破壊力を世界の列強各国に誇示し、ひいてはペジテをして、人類社会の最強国家として君臨することすら可能にするでしょう。


 無敵の国家を実現する。

 その指導者として世界を支配できる。


 ペジテ市長の脳裏にムラムラと湧きあがった、砂漠の蜃気楼のような、強欲な野心の幻です。


 「人の欲はブラックホールよりも深い」は私の戯言ですが、本当にそうだと思うのですよ。銀英伝に観るまでも無く、一人の人物が銀河系をすっぽり欲しがるってこと、実際にありえますね。

 それでも、某超大国の某指導者ほど底無しの欲深よくふかではないのかもしれませんが……


 ともあれ、ペジテ市長は、巨神兵に魅せられてしまったのでした。

 巨神兵の魔力に取り込まれてしまったというべきか。


 『オッペンハイマー』(2025)という映画そのままに、ペジテ市長は核兵器の魔力に魅せられ、その技術に溺れた“オッペンハイマー”になったのでした。


       *


●戦争の芽が出る前に、火種を潰すべきだった! ラステルの呻吟しんぎん


 巨神兵をわが手に!


 そうなれば、私は世界を手に入れる!

 世界の何者も恐れることなく、全てをペジテの威光の下にひざまずかせ、そしてペジテ市民たちはいかなる侵略も恐れることなく、平和の安寧を享受できるだろう。

 ペジテの繁栄、ひいては人類の繁栄が約束される。

 私は、最も偉大な政治的指導者として、世界史に足跡を残す。

 世界に恒久の平和をもたらした偉人として。


 ペジテ市長はそのような野心に酔いしれて、巨神兵を復活させる“孵化プラント”(仮称)の設計と製造の作業を命じたでしょう。


 ペジテ市は古来より工業都市であり、その住民の支配層である貴族は主に技術官僚テクノクラートであったと思われます。かれらは単に巨神兵を発掘しただけでなく、巨神兵をはいから孵化させるノウハウを解明し、その設備を製造するテクノロジーを持っていたのです。


 しかし一方で、巨神兵の孵化プラントが完成する様子を、潜入したスパイによって、じっと監視している国家がありました。

 巨神兵発掘の情報をつかんでいたトルメキア帝国。

 孵化プラントの設備製造が完了した段階で、電撃的な侵略を開始すべく、手ぐすねを引いていたのです。


       *


 思い返せば、この時が運命の分かれ目だったのですね。


 ここでペジテ市長がはたと気づけば良かったのです。


 巨神兵は世界にさらなる大戦を巻き起こす災いの“火種”だ。

 これが芽吹く前に、種の段階で潰しておくのが、人類を救う正しい行動だ……と。


 たぶん、最初にそのように主張したのが、市長の娘であり王女のラステル嬢だったと思われます。


       *


 ペジテ市長は、「アスベルとラステルの父親である」とは作品中で断定されてはいませんが、ウィキペディアの「風の谷のナウシカの登場人物」の項に、このように記述されていますので、本稿もこれに準拠します。

「ペジテ市長(映、英:Mayor of Pejite)声 -寺田誠  ペジテ市の最高責任者で、族長(王)でもあり、アスベルとラステルの父でもある」


 なお、ペジテ市長はアスベルとラステルに限らず、他に数名の子をもうけていたと思われます。市長は世襲のペジテ王であり、政権を安定するためには王位継承者をできるだけ多く確保して、血族の将来勢力を強化しておかなくてはなりません。21世紀のニッポンとは異り、ナウシカの世界の王様は「産めよ増やせよ」と子孫繁殖に熱心だったはずです。


 というのは……

 ペジテのブリッグがトルメキアのコルベットに襲われて、ペジテの人々が機内の一室に追い詰められた場面で「ペジテの誇りを思い知らせてやる!」とペジテ市長が自爆装置に点火しようとする画面の左側に注目。その少し前に「ラステルの母です」とナウシカに自己紹介したご婦人、すなわちペジテ市長の妻(王妃)が、幼い子供を二人、抱きかかえている姿があります。

 たぶん二人とも、ペジテ市長婦人(王妃)のお子様だと思います。

 つまり、アスベルとラステルの弟や妹たちですね。

 王妃は、多産な家系のご出身だったのかもしれません。


 また、ペジテ市長夫人(王妃)がバツイチの再婚者で、アスベルとラステルは彼女の“連れ子さん”だった可能性も完全否定はできませんが、本稿ではいちおう、二人とも「市長の実子である」という前提にさせていただきます。


 ちなみに黒髪のアスベルが「双子の妹」というラステルの髪は、なぜか赤毛です。

 となると二人は一卵性でなく、二卵性双生児だったであろうと推測します。

 遺伝子的には別人だったのですね、たぶんですが。


       *


 巨神兵の復活プロジェクトが進んでいる事を知って、まず強硬に反対したのは王女ラステルでした。

「巨神兵なんて、世界を滅ぼした恐ろしい災いの火種よ! 芽を吹く前に燃やしてしまいましょう! お父様!」

 しかしペジテ市長は無視します。

 王家ゆえの“男尊女卑”が理由ですね。

 男の王子は王位継承者、男らしく勇敢であるように育てる。

 女の王女は政略結婚の道具。他国の王子に嫁がせて同盟関係を築く。ただしそこで男子を産んでペジテ市長の血を引く王位継承者をつくれなかったら離婚されて妾に降格となり、ペジテ王家が差し出した人質に過ぎなくなってしまいます。

 女は王位継承者の出産装置。

 ペジテ市長の女性観は、その程度のものだと感じられます、ひどい話だ。

 まあ、ほぼほぼ戦国時代に近い時代背景ですから、トルメキアは豊臣、ペジテは北条、風の谷は両勢力の間に翻弄される真田幸村の一族あたりに位置付けても理解できそうですね。

 ナウシカの時代も女性の人権は貧弱で、王家では概ね“子作りの道具”と見做されていたのではないでしょうか。もちろん庶民の家庭では事情が様々で、“亭主関白”があれば“かかあ天下”もあった事でしょう。


 そのようなわけで、王女ラステルの反論は完全に無視され、父のペジテ市長からは「目障りだから、引っ込んでいろ!」と一蹴されたと思います。


       *


●巨神兵に引き裂かれるペジテ市長一家


 ではアスベルはどうだったかというと、ペジテの王位継承者として特に目をかけて育てられ、戦士のプライドを身に着けているはずですから、父王のペジテ市長に黙って従ったことでしょう。

 ナウシカと一緒に腐海の底の清浄な世界で一夜を過ごしたとき、ナウシカから「あなたもクシャナと同じように言うのね」と指摘されたアスベルは「違う! 僕らは巨神兵を戦争に使う気なんかない! 明日、みんなに会えばわかるよ」と反駁しています。


 このことからアスベルは……

  ①巨神兵の復活には賛成。

  ②ただし平和利用のみ。

 という立場であることがわかります。


 巨神兵を核兵器になぞらえてみますと、

 アスベルは「核兵器保有には反対だけど、平和利用の原発は推進オッケー!」

 ラステルは「核兵器も原発もいらない!」

 父のペジテ市長は「表向きは原発を推進するが、核兵器も持つぞ!」


 そのように家族の意見が分かれ、深刻な対立関係を生んでいたと察せられます。


 一家は、巨神兵という魔物によって、引き裂かれてゆくのです。



    【次章へ続きます】


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