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419●『果てしなきスカーレット』(2025)⑪まとめ:五つの問題点とその対策(後)。そして最も大切な“未完の約束”。

419●『果てしなきスカーレット』(2025)⑪まとめ:五つの問題点とその対策(後)。そして最も大切な“未完の約束”。



(5)結末が全編を台無しにする? 素人目にもどうにかしてほしい能天気なハッピーエンド。そして最も大切な“未完の約束”。


 『果てしなきスカーレット』最大の問題点で、こればかりはどうにも救いがたいと思われるのが、あの能天気でおめでたすぎるハッピーエンドです。

 「閉じたまぶたが、ハッと大きく見開かれた」(文庫P260)ということで、その最終章サブタイトルの通り、“死者の国”という臨死の夢から“帰還”したスカーレット。

 目が覚めた彼女を待っていたのは、この上ない朗報。

 要するに、彼女の“復讐”に関わる問題はすべて偶然の椿事によって寝ているうちに解決され、たちまち全国民の歓呼の渦の中、彼女は女王様に戴冠、すなわち、トントン拍子に下剋上が完成しちゃったわけですね。


 なんとも凄いことに、スカーレットはしばらく臨死体験しただけで、つまり事実上、現世では何一つ努力も苦労もしていないのに、ポロッとタナボタ式で大願成就と相成りましたわけです。


 もう、笑うしかありません。まるでギャグ落語みたいなフィナーレです。(すみません、失礼でしたらお許しを)


 だって彼女、何もしていないんですよ。

 油断して毒殺されかかっただけですから。

 それでハッピーな大団円。

 ではそもそも、あの“死者の国”での艱難辛苦と冒険と、なによりも聖青年との相克と愛と死、二人の別れ、ありゃいったい何だったんですかい?

 そのあたりぜーんぶチョッキンとカットして、文庫のP43とP260をつないでも、このお話は完全に成立してしまうのですから。

 “死者の国”の体験があってこそ、彼女は「子供は絶対死なせない!」といった公約を掲げる“善君ぜんくん”になれたということかもしれませんが、そもそも父王が健在のP20で「敵対よりも友好と信頼を」と語る模範的な王女様でしたから、そのままP43からP260へすっ飛んでも、結果は同じだったと思います。

 これが、もともと性格がどうしようもなくヴィランな悪役王女だったなら、臨死体験を経て善なる正義の女王様に成長する物語とすることもできますが、この結末では本来の善人少女がそのまま善人女王になられただけなので、さすがに面白くありません。


 『果てしなきスカーレット』へのネット評価などが芳しくない、その最大の原因はここにあるかと思います。つまり……


 “終わり悪ければすべて悪し”と受け止められたのでしょう。


 このタナボタハッピーすぎる結末は、全編の味わいを台無しにしたのでは?


 それにP266と267で広場を埋める、見渡す限りの臣民たちの熱狂ぶり。

 ウソでしょ?

 だって女王に即位して「隣国とは友好と信頼を、子供は絶対死なせない!」と公約しても、それを実現する政策は用意しているのですか? “おこめ券”みたいなものを配ってお茶を濁してはいけませんよ。

 国民、いや女王様の臣民としては、子供に人並みに食べさせてやるために、税金や年貢やらをどれだけ減免してもらえるのか、それが最大の関心事なんですから。

 そのためには食品の消費税をゼロにして、金利を上げて円高に誘導することです。 

 貧しい庶民が望んでいるのは“減税とデフレ”なんですから!

 あのおぞましいABノミクス以前は、五千円で輸入ベッドやチェストが買え、イチゴは正価で1パック330円を悠々と半額セールで買って食えてたんですから!

 国際の借金を無制限かつ無責任に頻発して、利上げできなくしたABノミクスの後遺症をどっかで荒療治しないと、この国はアジア有数の貧乏国に転落しますよ。


 と、愚痴はさておき。

 スカーレットに思いっきり迎合して喝采する臣民たちを前に、女王様が笑顔を振りまくのはいいのですが、内心は相当に用心し警戒すべき場面なんですね。

 反論が一言も出ない群衆は、心理操作されていないか?

 大勢のサクラが混じって「女王万歳!」とやり、反抗分子は目立たない場所で兵士たちが逮捕し袋叩きにして断頭台へ送っているとか、ですね。

 実態は、そうだった可能性も無きにしもあらず。

 だってスカーレット、民主的な手続きで選出された大統領ではない、エスカレータ式完全世襲制の専制君主なのですから。あ、といっても専制君主みたいな王様大統領が、21世紀でもアリアリでしたね。

 最終ページの幸せなスカーレットの実態は、ニコニコ笑顔の裏に残酷な恐怖政治を隠した、“じつは悪役女王、なんちゃって”かもしれません。現実的には、むしろそう考えた方が妥当ではないかと。


       *


 まあ何にせよ、P260からのタナボタハッピーエンドは、P44からP259までの“死者の国”体験の物語をまったく無に帰してしまいました。

 なくてもよかった毒殺臨死体験。

 せっかくスカーレットが決意した復讐計画も目出度く水泡に記してしまったわけで、その意味では「復讐の無意味さ」が語られたことになり、この作品のテーマは破綻していないことになりますが……


 何はともあれ、ひと寝入りして目が覚めたら“復讐が完遂されたのと同じ結果になっていた”というタナボタハッピーエンド。

 観客なり読者として、「こんなんアリかよ!」と絶句するしかないわけです。


 では、どう解釈すればいいのか。

 こう考えるしかないと思います。


 P260の「閉じたまぶたが、ハッと大きく見開かれた」から後の全ては、“夢から醒めた夢”だったのです。

 臨死体験を経て現世に目覚め、たちまち女王様に戴冠し、国民の歓呼を受ける幸せな時間……

 あれはまだ、“臨死体験の夢”が続いているのです。

 前章で触れました『パプリカ』がそうでしたね。

 夢から醒めたと思っても、それ自体が夢の続きだった。


 シビアな解釈ですが、お話の筋道を矛盾なく通すためには、そうとでも考えるしかなさそうです。と言いますのは……


       *


 このお話、文庫P254にみるように、主人公スカーレットが「生きるべきか死ぬべきか」というハムレットな人類普遍の命題に悩み、呻吟し、ついに結論を出す場面に心理的なクライマックスが置かれています。


 「生きるべきか死ぬべきか」という命題に、いかに答えるのか。


 これが作品テーマの核心。

 そこに細田監督様も苦心なさったはずなのです。

 で、スカーレットは二者択一のどちらかを選び取ります。

 しかし!


 もうひとつ、選択肢がありましたね。

 「生きるべきか死ぬべきか」は、実は三者択一なのです。

 第三の選択は……

 “無期限に迷い続ける”


 これが永久に続くのか、半永久的なのか、明日にでも終わるのか、それは誰にもわかりませんが……

 “このまま悩み続ける”のも、“死者の国”ではあり得るはずなのです。

 なにしろ“生も死も混じり合い、未来も過去も混じり合う”世界なのですから。


 “無期限に迷い続ける”を選択した結果、スカーレットは夢の続きで“現世に目覚めた”のだ、という解釈もあり得ると考えたいものです。彼女は物語が終わってもまだ、ずっと、夢を見続けている……


 コジツケの屁理屈と馬鹿にされるかと思いますが、そうとでも考えないと、この、どう見てもムリムリなタナボタハッピーエンドを説明できませんよね。


       *


 で、なんでそんな説明を付けようとするのかといいますと……


 スカーレットが、ものすごく重大な約束を果たしていないまま、物語が終わってしまったからです。


 文庫P256。

「未来が変われば、きっと聖は殺されたりしないよね? そのために私、なんでもできることをするから! そしたら、聖はもっと長生きして! (以下略)」

 こう、スカーレットは聖青年に約束しているのです。

 このセリフ、大好きですよ! だって、『時をかける少女』や『未来のミライ』に通じる、細田監督キャラならではの、すばらしく青春な言葉ワードなんですから!


 この約束、彼女が果たさずにおくものか、でしょ?

 物語の本当のラストシーンは、この“未完の約束を果たす”シーンでなくてはならないはずです。


 なぜなら、この約束を果たすことこそ、スカーレットの聖への、真の“愛”の証となるのですから。


       *


 ですから、例えばこのように、お話が追加されてもいいかもしれません。


 スカーレットは、第三の選択肢「無期限に迷い、悩み続ける」を選んだ。

 ダンテ流に言えば、煉獄での無期滞在ですね。

 つまり「生きるべきか死ぬべきか」の「生きる」選択肢を選ぶか拒否するかを決めず、決定を保留したのです。

 そうすることで、文庫P248にあるように“二人のどちらかが生きる”と条件づけられた場合、“生きる”選択肢が、聖にも残されることになるのですね。


 しかし、“無期限に悩み続ける”ということは、悩み続けている間、彼女が現世に戻れなくなることも意味します。


 スカーレットは、現世に戻らなかった。

 彼女の生死の記録は定かでなく、歴史の闇に埋もれてしまいました。

 16世紀のそのころ、史実としてはデンマークは国王クリスチャン4世(在位1588-1648)の治世であり、スウェーデンとの慢性的な戦争に明け暮れながら国力を伸長し、後半生では衰退気味になった時代だったようです。

 ということで、スカーレットがいなくなって、たとえば親戚のクリスチャン4世が即位した……ということで、史実との整合性を図れるのではないでしょうか。


 そして……

 スカーレットの遺品として、幾つかの装身具や衣服などが残され、持ち主を転々としてかれこれ四百年、東京は渋谷の裏道の非公式フリマにて、道端の露天に陳列されるに至りました。

 そこで目を留めたのが、聖青年。

「そこな坊主頭、そなたはお目が高い、このペンダントは中世デンマークの高貴なお方の持ち物じゃ、チョイとお高いが、円安だから仕方ないとあきらめて買い求めるのがよろし、それが運命じゃて」

 とのたまう店番は、あのハナクソバーサンであった。

 なんだか押し売りっぽく買わされてしまったが、そののち暴漢に襲われたとき、ポケットに入れたまま忘れていたその金属製ペンダントがナイフの切っ先を止め、聖君の命を救ってくれたのだった。

 見ると、錆びついていた蝶番がナイフの衝撃で動き、ペンダントの蓋が開く。

 16世紀のブツなので写真ではなく、美少女の精細な肖像画がそこに現れていた。

 聖青年はまじまじと見つめ、心打たれる。

 出会ったことのない人物だが、記憶の奥底に秘められていたかのような……

 聖青年は夜空を見上げ、まだ見ぬスカーレットの面影を思い出そうとする。

 スカーレットの消息は不明のままだ。

 しかし彼女は四百年後に、一人の青年の命を救ったのだった。

 聖青年はこののち、生きている間に何人かの命を救うだろう。

 子供たちの命も、そこに含まれるはずだ。



 この場合、聖青年はいずれ年取って死に直面した時、“死者の国”すなわち今わのきわの夢で、スカーレットの夢とつながって彼女と出会うか、それとも出会わずに終わるか……というパラレルワールドが発生することになります。


       *


 たとえば……ですが、そのようなエピソードが最後に追加されて欲しいものです。

 スカーレットは、とても大事な約束を、まだ果たしていないのです。

 スカーレットの果てしなき未完の約束。


「未来が変われば、きっと聖は殺されたりしないよね? そのために私、なんでもできることをするから!」(文庫P256)


 監督様、いずれ円盤をおつくりになる際には、ディレクターズカットとして、彼女スカーレットのこの約束が果たされる場面を、作品のラストにぜひ追加してくださいますよう……!!


 これが、この作品全編の、画竜点睛に当たる場面だと思うのです。

 これが無いと、残念無念のまま、物語が終わりません。

 ぜひお願いいたします、細田監督様……


       *


   【次章へ続きます】

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