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192●この国が良くなる気がしないのは、なぜだろう?⑦『薬屋のひとりごと』と『ハケンの品格』

192●この国が良くなる気がしないのは、なぜだろう?⑦『薬屋のひとりごと』と『ハケンの品格』



      *


 蛇足ですが、アニメの『薬屋のひとりごと』で、ひとつ気になったことが。

 明晰な推理力で、まるで後宮版“名探偵コナン”な猫猫女史ですが、あれだけ活躍されると、1クール12話を終えて、作中では一年が経過したあたりでは、主人公の猫猫自身の名前が知られて、かなり有名人化しているでしょう。

 すると、どうなるか。

 彼女が後宮内の毒殺ターゲットナンバーワンになっていても不思議はありません。

 なにしろ妃の一人を毒殺しようとした一大疑獄事件を解明した輝かしい実績。

 後宮のあらゆる陰謀は大小くまなく猫猫一人に暴かれてしまいます。となると、陰謀をたくらむテロリストとしては、なにはともあれ真っ先に猫猫を抹殺しなくては、おちおち安心して誰かを謀殺することもできなくなるわけでして。

 だから13話以降、猫猫の最大課題は、自分の身を守ること……じゃないかな?

 あ、そのためにいったん後宮を退職して、外邸に再就職したとか?

 うーん、浅学菲才の私めに深い事情はわかりません。ごめんなさい、原作本はサワリしか読めていないもので、すでに今後の展開をご存じの方は失礼をお許し下さい。

 ……でも、今後、猫猫が何者かから密かに本気マジで狙われる(それも自分と同レベルの薬学知識を持った毒殺魔に!)ことで、白い薬屋と黒い薬屋のタイマン対決!!……という、ホームズvsモリアーティな鬼気迫る展開になることは必然なので、これも楽しみにしています。


       *


 さて『薬屋のひとりごと』の作風はどことなく、実写ドラマの『ハケンの品格』(2007)に似ているような……

 後宮で最も無力な下女の立場でありながら、持ち前の知識と才覚で難題を解決してゆく猫猫の姿は、幅広い専門知識と資格を駆使して活躍するスーパーハケンの彼女と重なります。後宮を会社組織に置き換えて、下女を派遣社員に見立てれば、なんだかぴったり?

 周囲の環境や人々をニヒルにとらえ、「お時給の分だけはしっかり働かせていただきます」といった“冷めた職業観”も、両者に共通するようですね。

 『ハケンの品格』は平均視聴率20%越えのヒット作。

 女性の“おひとりさま物語”のルーツは、このあたりにあるのかも。


 2022年公開のデータでは、就労者の男性の21.4%、女性53.2%は非正規であるとされています。若い世代の女性が今置かれている現実の労働環境の厳しさを、TVドラマやアニメも反映しているのではないでしょうか。


 そういえばNHKの大河ドラマ『光る君へ』の主人公、まひろも、“おひとりさま物語”を一路邁進していますね。女性という弱い立場ながら、安易に男たちに寄りかからない独立心の高さで、凛々しく世渡りしていきます。


 同じくNHKの朝ドラも、若い女性がシングルで奮闘する“おひとりさま物語”の傾向に染まって来たような。

 私個人としては、夫婦でゲゲゲな生活を辛抱したり、ラーメン作ったりウイスキーを作ったりするお話の方が好みで、特にゲゲゲは大好きですね。登場人物もけっこうゲゲゲしていて、あのネズミ男な怪男児といい、貧しさを漫画にして笑い飛ばすポジティブさにハマります。

 しかし、あの信楽焼の『スカーレット』(2019)で、“おひとりさま物語”の傾向が決定的になったような……

 高いプロ意識を持って、家族の不幸にもめげず、黙々と、ときに狂ったように焼き物に取り組む姿は、究極の“おひとりさま”を感じさせました。


      *


 ということで……

 『薬屋のひとりごと』に代表される、“おひとりさま物語”。


 「家族はいらない、家族愛はメンドクサイ、わたくし、おひとりさまで活躍するのですわ! ですわ! ですわ!」

 そんな女の子が主人公ヒロイン出張でばって来たような……


 そのようなアニメの潮流、裏返せば、旧来、理想とされてきた家族像、“家族愛至上主義”を掲げることのできる、“現実の家族”が、いまやバラバラに崩壊してしまったことを物語っているのではないでしょうか?


       *


 もうひとつ、『葬送のフリーレン』(2023-)は、微妙。

 旅仲間パーティのロードムービー的な語り口ですが、登場人物それぞれの家族関係はほぼ語られません。その意味では主人公フリーレンの“おひとりさま物語”です。


 しかし……

 その旅の出発点はフリーレン自身が自らの“人間関係への無関心さ”に目覚めて、“人間とは何か”を探求しようと決意したことにあるのですから、今後のお話のどこかで“家族愛至上主義”が復活してくるかもしれません。


 それはともかく、可哀想なのは一級魔法使いの試験でコロコロと死ぬ犠牲者たち。

 試験で死人を出していいのか?

 そりゃ、現実の受験戦争でも、思い破れて自殺するケースが無きにしも非ず、でしょうが……

 しかしこんなに人が死ぬ、それも前途有望な若手魔法使いが無駄に死ぬ試験、しかも最後は魔法でなく殴り合いすらオッケーというアバウトな選抜でいいのかな?

 だって、魔法力の試練でなくなってしまいますし。

 それに魔法界の頭目ゼーリエ嬢の「選別してやる」という上から目線の表現も、ちょっと引っかかります。

 不合格に“選別”されて死ぬはめになった受験者の救いのなさ。

 その親や肉親たちは、どう思うのか。

 ゼーリエに復讐したいと願う家族が続出しても不思議ではありません。

 少なくとも、呪いの呪詛は飛ばしてくるだろうなあ。


 そりゃあ、死ぬことも覚悟して受験しているのでしょうが、その家族感情としては、理屈で納得できるものではありませんからね。


 こちらも、今後の展開が楽しみです。


       *


 ともあれ、“家族愛至上主義”の作品が、“おひとりさま物語”によって圧倒的に駆逐されている感はぬぐえません。


 それでいいのか? このままでいいのか?


 一つの回答を示唆してくれる超有名作がありますね。

 『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-)と、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||……(EVANGELION:3.0+1.01)』(2021)です。


   (にしてもこのめんどくさいタイトル、何とかしてほしい……)





      【次章へ続きます】




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