予定
お久しぶりです(_ _)
夏休みの予定。
夏休みが間近に控えている今日この頃――。
今岡育と上浦俊一は、昼休みに教室でお昼をとろうとしていた。
「そろそろ夏休みかー、今岡は鳥塚と何か予定決めたのか?」
「ん? いや、まだ決めてない。それに女子たちにさっき囲まれてたし――」
今岡はさっきトイレから戻る時に、糸井を含む他クラスの女子たちに鳥塚 肇が囲まれているのを見かけた。
夏休みの予定を鳥塚と決めようとしているのが聞こえてきたので、今岡はそっと視界に入らないようにしながら教室に戻ったのだった。
「モテるやつは大変だな、あれじゃあ夏休みも引っ張りだこだろ」
そう言いながら、今岡は母が作った弁当に箸をつけながら続ける。
「夏休みなぁ、今年も家でインドアな夏休みを過ごす予定だが……。上浦は何か予定あるのか?」
今岡に話を振られた上浦は、待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた。
「今年の夏は、海に行こうと思う!」
「……海?」
「そう!」と右手で拳を作る上浦に、今岡は海に行く必要があるのか?と首を傾げる。
上浦は「フッフッフッ」と意味深に笑うと続けた。
「『異世界でハーレムを!』の砂浜のシーンあったろ? その砂浜が……、ここじゃないかって噂になってる所があって――」
上浦はスマホをいじると、ほらここ、と画面を今岡に見せる。
そこにはマンガの一コマと実物の写真が並べられていて、ごつごつと特徴のある岩が海面から出ているコマと、そのコマとほぼ同じ写真が並んでいた。
「……似てる」
「だろ――? 作者もその海を参考にしたって雑誌で言ってて、なら行くしかないと思ってさ。この夏休みで聖地巡礼ってやつ。ついでに海で遊んで、そんで今岡と鳥塚に砂浜のシーンを再現してもらえれば、一石二鳥!」
「は……?」
キョトンとする今岡に、上浦は「いいだろ?」と続ける。
「鳥塚も一緒に行けば思い出作りにもなるし、デートにもなる、そして俺たちにとっても聖地巡礼……、これはもはや一石三鳥じゃん! な?」
「……それで、あわよくばBL欲も満たそうとか思ってないだろうな?」
「あ、バレた?」
軽く舌を出して頭をコツンと小突く上浦に、今岡は「バレバレだ」と黒の四角いメタルフレーム眼鏡を押し上げた。
「……大体、鳥塚だって忙しいだろうし、一緒に行けるかなんてわからないだろ――」
「なになに、どこに行くって?」
話が終わったのか、戻ってきた鳥塚が口を挟む。
上浦はいいところに来たと、さっき今岡に話したことを鳥塚に説明すると、鳥塚は「いいじゃん」と目を輝かせた。
「行くいく。今岡も行くんだろ? なら一緒に行くよ。思い出作りたいし!」
それからそっと上浦に近付いて、鳥塚は確認するように耳打ちする。
「……海ってことは、今岡も水着持参するってことだよな……?」
「もちろん、再現したいシーンも海に入ってる所もあるからな、ちゃんと持ってこいって言うさ」
「だよな……!」
「何をコソコソ話してるんだ」
今岡が怪しんで二人を見ると、鳥塚はすっと離れてから「なんでもないなんでもない」と両手を振った。
「夏に海なんて、まさに夏休みだなって!」
「なんだそれ――」
明らかに怪しい鳥塚を今岡は軽く睨みながらも、一緒に行けるのは少し楽しみだなと思う。
それから気になったことを今岡は口にした。
「というか、さっき女子たちに誘われてなかったか? そっちは大丈夫なのか?」
「あぁ、大丈夫大丈夫。一応約束はしたけど、二、三個くらいしか予定決めてないから」
鳥塚は今岡と上浦の横に椅子を引っ張ってきて座り
「それに」と笑顔で今岡に言う。
「夏休みは今岡と思い出作りたいし、その方が楽しいかなって」
「そ、そうか……」
少し赤面して言葉に詰まる今岡を見て、上浦は「まあまあ」と微笑んだ。
「内心嬉しいのが丸わかりだわ、な、鳥塚」
「はは、そうだと嬉しいな」
二人から生暖かい視線を受けながら、今岡は「うるさいな……!」と二人を睨む。
それから時計を見て、今岡は鳥塚に言った。
「――それより、昼休みもうすぐで終わるぞ、お前昼食べたのか?」
「げっ、マジじゃん! まだ食ってない、購買行ってくる!」
「買ってなかったの?」
上浦がパックのジュースを飲みながら訊くと、鳥塚は「買ってない」と答えて続ける。
「二人が何話してんのか気になったから来ちゃったんだよ、とりあえず行ってくる!」
そう椅子から立ち上がると、鳥塚はさっさと走っていく。
そんな鳥塚を見送って「先生に怒られるぞ、あれじゃ……」と今岡は呟きながら、弁当に箸を伸ばしておかずを口に運んだ。
もぐもぐと咀嚼する今岡に、上浦はニヤニヤして言った。
「さっきの聞いたか? 何話してたか気になって、だってよ。今岡の口から、自分の話題が出てないか気になってんだな」
「……そうか?」
「そうだろ、じゃなきゃわざわざ来ないって」
と上浦は面白がるように今岡に言う。
「今岡が好かれてるのがわかって、俺は満足だよ。ご馳走様です」
両手を合わせて「リアルBLありがたやー」と拝む上浦に、今岡は「やめろ」と眉間に皺を寄せて、しっしと箸で払う仕草をして続けた。
「姉ちゃんみたいなこと言うなよな」
「仕方ないだろ、同志なんだから」
そう口を尖らせる上浦に、そういう問題じゃないだろと思いながらも、今岡はご飯を口に運ぶのだった――。
*
そして放課後。
今岡は鳥塚と一緒に帰っていた。
「今岡は夏休みってどう過ごしてんの?」
「ん? とりあえず宿題を早めに終わらせて、家で録画したアニメ消費したり、アニメのDVD観たり、マンガ読み返したりしてる」
「……驚きのインドア」
思わず目を見張る鳥塚に、今岡は「インドアで悪かったな」と答えて続ける。
「俺にとったら普通だ――そういうお前はどう過ごしてるんだ?」
「宿題を計画的にやりながら、友だちに誘われたら遊びに行ってる。……でも、基本出掛けてるかもな――」
と鳥塚は思い出しながら「うん」と頷く。
そんな鳥塚に、今岡は疑問に思ったことを訊いた。
「毎回誘われて、大変じゃないのか?」
「え? いや、そんなこと思ったことないかな、楽しいし」
「そうか……」
基本、家でゆっくり時間を過ごすことで休みを楽しんでいる今岡からすると、鳥塚の様に毎回外に出て何かをするなんてことは頭になかった。
「――今年の夏休みはさ、一緒に思い出作ろうな」
「無理しなくていいんだぞ? 他の友だちからも誘われてるだろ?」
今岡が心配そうな顔で言うと、鳥塚は「大丈夫大丈夫」と笑って続ける。
「無理してないし、今岡との思い出が欲しいんだよ。他の奴は去年遊んだし、今岡とは去年遊んでないんだから」
そう鳥塚は言って、今岡に満面の笑みを見せる。
「だから、この夏休みは今岡と過ごせるの、すげー楽しみ」
「っ……そうか――」
満面の笑みを食らって、今岡はそっと顔を逸らした。
そんな今岡に、鳥塚は微笑んで訊く。
「今岡は、俺と夏休み過ごせるの嬉しい?」
「え、……まぁ、嬉しくないことはない……」
「ええ? 何それ、嬉しいって言えばいいのに」
ニコニコと嬉しそうに笑う鳥塚の思う壺になるのは何か嫌なので、今岡はそっぽを向いたまま答えた。
「……た、楽しみ、ではある……」
「ぷっ、なにそれ――ははっ、ならよかった」
鳥塚の嬉しそうな声に今岡が顔を戻すと、鳥塚は照れたように笑っていて、今岡もつられて赤くなる。
「てか、何で今岡が赤くなんの?」
「いや、なんか、つられて……」
照れを隠すようにくいっと眼鏡を押し上げる今岡に、鳥塚は「そうだ」と思い出したように続けた。
「今岡は夏祭りとか興味ある? 去年もやってたんだけど」
「うーん、まあまあだな。去年も行ってないし」
「じゃあ、今年は一緒に行こう!」
「他の人じゃなくていいのか?」
不思議そうな顔で訊く今岡に、鳥塚は「だから」と前置きして答える。
「今岡と一緒に行きたいんだって、さっきも言ったろ? なんでそう今岡は自分を後回しにするかな」
「だって、鳥塚の方が友だち多いし、俺と遊ぶより他の奴と遊んだ方が――ッ!?」
今岡が最後まで言い終える前に、鳥塚は両手で今岡の頬を挟んで歩みを止めた。
それから少しむっとした顔で、今岡に言う。
「それ……、毎回言うよな。俺は、今岡と行きたいんだけど」
「……ふぁぃ」
頬を挟まれたまま、今岡が気の抜けた返事をするので、鳥塚は「はぁ」と小さく溜め息を吐いて手を離した。
「……毎回他の奴の方がいいんじゃないかって言われると、今岡が俺と居たくないんじゃないかって思うんだよ」
「え……」
「今岡にそのつもりがなくても、毎回言われるとそう思っちゃうんだよ。だから、今岡は気遣わなくていいから、わかった?」
そう苦笑いで言う鳥塚に、今岡はそんな風に思われていたのかと、反省する。
「……わかった。その……、悪かった。気遣っていたつもりが、逆に不安を与えていたのか……」
「そうだぞ。ちゃんと他の奴と遊ぶ時は遊ぶし、今岡を誘ってる時は、今岡と遊びたいんだ――だから、今岡がよければ、一緒に夏祭り行かないか?」
真っ直ぐ見つめて誘ってくる鳥塚に、今岡は「あぁ」と呟いて頷いた。
「行く――。夏祭り行くの久しぶりだな。何年ぶりだ……?」
首を傾げて考える今岡に、鳥塚は「そんな行ってないのか!?」と驚きつつ、隣に並んで互いに歩き出す。
「なんだか、今年の夏休みは楽しくなりそうだわ」
「……そうだな」
隣でボソッと同意した今岡は微笑んでいるように見えて、鳥塚は思わず笑みをこぼした。
そして、まだ始まってもいない夏休みに心を弾ませる鳥塚と、思いを馳せる今岡なのだった――
帰りながら。
鳥塚「(今岡と海…!そして夏祭りデート…!)んふふ…」
今岡「……?(何考えてるんだ?)」