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「ユリアちゃん、あの人、ヘンドリックス様だっけ。全然助けなんて必要ない人だったよ!」


 しばらくして出張所に戻ってきた警邏隊の隊員の一人がヘンドリックス様の武勇伝を聞かせてくれた。

 他の隊員を二人連れて、ヘンドリックス様を探したところ、喧噪が聞こえて行ってみたら、ヘンドリックス様が四人と交戦していたらしい。それで助けに入ろうとしているうちに、四人が倒されたと。


「ガタイはそんなに良いとは思わなかったのになあ」

「そんなに強かったんだあ」


 ジャンさんが相槌を打っている。

 

 ヘンドリックス様、強かったんだ。

 余計なことしちゃったかな。


「アウルスは強いぞ。子供の頃は私とよく対戦したしな。騎士を目指していたはずなんだけどな」

「エレノス分隊長!」


 私たちは同時に声を上げ、背後を振り返る。


「後ろからすまなかったな」

 

 満面の笑みを浮かべたエレノス分隊長がそこにいて、背後にはやっぱりカノン分隊長補佐もいる。


「どうしてここに?」


 私の疑問をジャンさんが聞いてくれた。

 もう一人の人、まだ名前思い出せない。ごめんなさい。

 

「ああ、とりあえずアウルスを襲った男たちを取り調べすることになってな。ユリアはその重要参考人だ。男たちの顔を確認してもらう必要もあるしな」

「そうなのですね」


 取り調べは必要。

 だって襲った理由とか知っていたほうがいいもの。

 

「それでわざわざエレノス分隊長がお迎えにきたんですか?」

「そうだ。従兄弟の恩人であるしな。ユリアは」

「恩人って、全然違いますよ。ヘンドリックス様は一人で大丈夫だったみたいじゃないですか」

「うん。だけど、もしものこともあるだろう。アウルスに口止めされていたんだろうけど、破ってくれてありがとう」


 何か、事情を知っているのかな?

 エレノス分隊長は。


「ジャンも、ケンもありがとうな」

「いやいや、エレノス分隊長が礼をいうことではありませんよ。当然です」

「本当、警邏隊はそのためにいるんですから」

「そうだな。だけどありがとう」


 エレノス分隊長は、謙遜するジャンさんとケンさんに再度お礼を言った。

 やっぱり従兄弟だもんね。

 嬉しいよね。

 うん。


「さあ、ユリア。行こうか」


 まるでダンスに行くように手を差し出され……。

 まあ、街のダンスでも踊りに誘われたことないので妄想ですけど。

 私はほくほくした気持ちで、エレノス分隊長の手を取った。



 ☆

 

「はい。あの四人で間違いありません」

 

 別の部屋の小部屋から四人の顔を確認して、私は大隊長に答える。

 今回の取り調べは、警邏隊の一番上の大隊長によって行われた。やっぱり被害者?が貴族のヘンドリックス様だったからだろうか。

 顔確認が終わり、大隊長から色々聞かれる。その間、エレノス分隊長が部屋の端っこに立ってくれて、圧迫感とか感じず良かった。

 ちなみに大隊長は貴族様で、風貌は山賊みたいな感じ。貴族様のはずなんだけど、山賊っぽい。だけどエレノス分隊長と同じで優しい。

 あごひげに顔の傷、ガタイが大きいので怖い。

 元は国境警備団の団長だったみたい。


「それでは質問はこれでおしまいだ。帰っていいぞ」


 大隊長から解放され、取り調べ室を出る。

 エレノス分隊長が付き添ってくれた。


「じゃあ、自宅まで送るから」

「そんな、いいですよ!」

「心配だから、送る。マルクスもいいよな」

「ああ」


 あ、カノン分隊長補佐もついてくるんだ。

 本当お二人はいつも一緒だ。


「では、よろしくお願いします。あ、その前に、ヘンドリックス様はどうしてますか?大丈夫ですか?」

「心配?会う?」

「馬鹿、やめとけ」

「なんでだ?」


 カノン分隊長が珍しくエレノス分隊長を止めてる。

 何かあったのかな?


「大けがされてるんですか?」

「ほら、心配してる。ユリア、おいで」


 カノン分隊長は頭を抱えているけど、どういうこと?

 とりあえずエレノス分隊長につき、別の取り調べ室の前に到着する。


「アウルス、入るぞ」


 扉を叩き、返事がないのに、エレノス分隊長は扉を開けてしまった。

 それはまずいですよ!エレノス分隊長!


「笑いに来たか」


 滅茶苦茶不機嫌そうなヘンドリック様が部屋の奥の椅子に座っていた。緑かかった青い瞳がエレノス分隊長を射るように見ている。


「笑うわけないだろう?」


 エレノス分隊長は苦笑して、ヘンドリック様が何か言い返そうと口を開く。

 その前に私に気づいたみたい。


「!」

 

 ひいい。

 なんで怒ってるの?

 凄い剣幕で、目だけで殺しそうなくらい、ヘンドリック様は私を睨んでいる。


「アウルス。何を怒ってるんだ?ユリアはお前のことを思って他の警邏隊員を呼んだんだろ?怒るよりも感謝すべきじゃないか?」

「感謝?私が弱いと思い、助けを呼んだんだったな。そうか。私は感謝すべきなんだな」


 う?

 怖い。やっぱり他言したのはよくなかった。

 あのまま誰も呼ばなくても、きっとヘンドリックス様は全員をやっつけたのだから。


「ケッセル。弱い私のために助けを呼んでくれて。ありがとう」


 弱い?

 え?

 ヘンドリック様は怒りを内包したまま、私に礼を言う。

 言ってることと表情が全然違う。

 

「なんだ。アウルス。拗ねてるのか?ユリアに弱いって思われて。お前が強いことはみんなに言ったから。もちろん、今回のことでみんな、お前の強さを知ったはずだ」

「それがどうした?私は強くない。だから騎士になれなかった」

「それはお前が試験の日に怪我をしたから」

「違う。騎士は警邏隊よりも強くないといけない。だが、私は君に勝てなかった。そんな私は騎士に相応しくない。だから私は騎士にならなかった」

「なんだよ。それ。警邏隊は騎士より強いぞ。騎士なんて、ああ、大隊長のように国境警備の者は違うだろうが、弱いに決まってる」

「君は騎士を馬鹿にするのか?」

「してない。ただ騎士には騎士に役目があって、警邏隊には警邏隊の役目がある。強さも違う。比べるものじゃない」

「お前も比べていたけどな」


 ぼそっと、カノン分隊長補佐の突っ込みが入る。

 う~ん。

 ヘンドリックス様は騎士になりたかったのか。それで怪我をして。その上、エレノス分隊長にも勝てなくて、諦めた。

 だけど、諦めたのは自分だから、エレノス分隊長に当たるのは間違ってるんじゃないの?


「私はケッセルに礼を言った。用は済んだか?出て行ってくれないか」

「アウルス」

「サヴィーナ。行くぞ」


 何か言いたげなエレノス分隊長の腕を引いたのはカノン分隊長補佐だ。


「ユリアも行くぞ」

「はい」


 カノン分隊長補佐に私も呼ばれ、歩き出す。

 やっぱり気になって振り返れば、ヘンドリック様に物凄い剣幕で睨まれた。だけど、ただ怒ってるんじゃなくて、そこに悲しさが漂っているような表情。涙なんて見えなかったけど、泣きながら怒ってるような、そんな表情に思えた。

 

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