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大隊長とヘンドリック様の模擬戦。
刃をつぶした剣を使って行われていたけど、ドキドキした。
エレノス分隊長との戦いよりも、動きが早くてはっきり言って見えなかった。
エレノス分隊長とカノン分隊長補佐の会話から、どのような動きになっているか、補足して観戦する。
刃をつぶしていても、物凄い速さで掠れば血も出る。
白熱した戦いは長く続き、ヘンドリックス様の剣が大隊長の頬を掠ったところで、終了した。
騎士経験もない、事務官だったヘンドリックス様は、入隊試験、大隊長との模擬戦によって、隊員たちにその強さを認められた。
「ケッセル。いや、ユリア。無様な姿ではなかったはずだ。どうだっただろうか」
「かっこよかったです!」
素直に気持ちを伝えるとヘンドリックス様は少し照れてらっしゃった。
私も少し恥ずかしい。
「ユリア。ここで褒美を上げたらどうかな」
「ほ、褒美?!」
エレノス分隊長!
考えてなかった。
何が喜ばれるのかな。
「それでは、あなたの口づけを褒美としていただけますか?」
ヘンドリックス様は物語の騎士様のように優雅に片膝をついた。
まるで夢物語のよう。
緑かかった青い瞳がとても優しい。
出会った時はとんでない人だと思ったのに。
今はこんなに胸がどきどきして、彼への想いが溢れてくる。
私は平民だ。
だけど一度くらい夢見るのはいいのかな。
ヘンドリックス様に近づき、緊張しながらその頬に唇を当てた。口づけなんてしてことがない。物語の真似事だ。
間近で見るヘンドリックス様は本当にかっこよくて、目がつぶれるかと思ったくらい。
わっと歓声が沸いて、私は夢から覚める。
ヘンドリックス様が隊員たちに囲まれて、嬉しそうだ。
揶揄う人もいなくて、私はほっとして、自身の唇に触れる。
初めての口づけ、なんだか変な感じ。
でも大切にしたい。
胸がきゅんとして、私は自然と胸元に手をやり、服の上からいただいたネックレスの宝石を掴んだ。
☆
翌日からヘンドリックス様はエレノス分隊長の元で、学ぶことになった。
というのも、警邏隊員としての経験はゼロなので、一から学ぶ必要があるから。
カノン分隊長補佐はものすごい嫌そうで、ヘンドリックス様も気が進まない感じだった。でも以前のように食って掛かったりしない。
本当に変わったなあ。
エレノス分隊長の元で警邏隊として働く。
そのため、毎日私の送り迎えなどできるわけがなかった。
私も望んでなかったのだけど、時間あるとヘンドリックス様は朝来てくれたり、家まで送ってくれたりした。
そんな中、色々は話をきかせてくれた。
ヘンドリックス様が変わった理由は、騎士と同じように人を助ける警邏隊員を知ることが多くなってからみたいだった。
騎士になりたかったけど、騎士団入団試験の数日前に怪我をして断念。その後、エレノス分隊長にも勝てない自身に嫌気がさして、騎士を断念。
騎士団は警邏隊と違って年齢制限がある。
十八歳を超え、ヘンドリックス様は法的にも騎士になれなくなった。けれども訓練を絶やすことはなく、たまたま見かけたガマガエルの横暴を止め、警邏隊に左遷。
訓練に参加するようになってから、再び騎士になる夢を抱くようになった。そしてそれは隊員の夢へと変わる。
ガマガエルが処罰されて、王宮に戻ってからも夢は変わらなかったようで、警邏隊に戻る方法、隊員に戻る方法を模索した。
そして見つけた方法が大隊長の後継者になるということだった。
ヘンドリックス様は最近毎日楽しそうだ。
たまに迎えにきてくださったり、送ってくださったりすると、街の女性の嫉妬の視線がめちゃくちゃ怖い。
ヘンドリックス様はエレノス分隊長と一緒に街の見回り等をしていて、人気者になりつつある。
カッコいい人だから、当然だと思う。
ある日、偶然にヘンドリックス様は貴族の令嬢を助けたことがあった。その令嬢は一目ぼれしてしまったらしく、ヘンドリックス様に交際を迫った。
でもなぜかヘンドリックス様は断った。
可愛いのになぜ?
そんな疑問を持っていたら、ヘンドリックス様が誘拐されてしまった。
浚ったのはその女性だ。油断したヘンドリックス様に薬を持ったらしい。怖い……。
私も救出隊に加えてもらい、攫われた現場に向かった。
そこでヘンドリックス様は貞操の危機一髪で、令嬢は本当に怖かった。なんていうか、綺麗なのにもったいない。
救出劇の中、令嬢の護衛が入り交じり乱戦。警邏隊員は令嬢のことは貴族の令嬢だからと抵抗戦力に数えてなかった。それが油断で、私は彼女がヘンドリックス様に小剣を突き立てようとしていたところを見た。
日ごろの訓練と護身術はこういう時に役に立つ。
私は彼女の手から小剣を奪い無力化した。
だけど護身術なので、相手を倒す力量は私にはない。
エレノス分隊長が気が付いてくれて、彼女を拘束してくれた。
罰が悪そうにヘンドリックス様にお礼を言われた。
そしてある事実が判明した。
ヘンドリックス様は女性が嫌いで、触られたら全身の毛が逆なでするくらいらしい。でも私は大丈夫みたい。
女性扱いされていないのかな?
ヘンドリックス様の女性嫌悪症を心配していたご両親は私の話を聞くと喜んだらしい。そのことは私への圧力になるとしていわなかったみたい。
そのこともあって、ご両親には警邏隊に戻ることは賛成され、副大隊長への道も開かれた。
現時点で結婚できる可能性が私しかしない。
それはまずいだろうと、私はヘンドリックス様と女性に慣れる訓練をすることにもなった。
手を繋いだり……。
なんていうか、物凄いドキドキする。
ヘンドリックス様も照れるので、私の胸はますます早鐘を打つ。
練習になっていないような気がする。
そうこうしているうちに、ヘンドリックス様が訓練をやめると言われた。
理由を聞くと、他の女性に触れられなくてもいいからと。
兄がいるので跡取りは心配しなくてもいいらしい。
それでも結婚はしたほうがいいのではと聞くと、私のことを聞かれ、笑うしかなかった。
私も結婚したくない。
だから、ヘンドリックス様に色々言う事はできない。
そうして、私たちは訓練をやめた。
でも、時たま、ヘンドリックス様との距離が近くでドキドキする。
送り迎えしていただくときの女性たちの嫉妬の視線も徐々に収まり、今は本当に心地よく過ごさせてもらっている。
「ユリア」
「なんでしょうか」
「ありがとう」
「どうしてお礼なんて……」
「君のおかげで私は大切なことを思い出すことができた。感謝している」
「いえ、私は何もしてませんから」
そう言ったのに、ヘンドリックス様は優しく笑う。
毎日不機嫌そう、だけどどこか悲しそうなヘンドリックス様が今はこんなに穏やかだ。
それがとても嬉しい。
「ヘンドリックス様」
「どうした?」
「なんでもありません」
こんな日々が毎日続けばいいですね。
そう言いたかったけど、私は口をつぐむ。
「毎日、君とこうして過ごせたらいいな」
代わりにヘンドリックス様が私の考えを読んだように言った。
「そうですね」
私たちは微笑みを浮かべ、同じ道を歩く。
数年後、私とヘンドリックス様は結局結婚をするのだけれども、その話はまた別でお話ししましょう。
(終)




