表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/47

⑨神社開店の日

後日、放課後T駅に戻ってきためりいとろいこは、呼木を迎えに行った。

ヨシアから神社の場所と運賃はもらってある。先に神社に近いM駅でヨシアと待ち合わせだそうだ。


「よっ」

M駅に着くとヨシアは駅入口の方で待っていた。

「これからバスで行くんだよね?マップで見ると徒歩1時間ぐらいだったし・・・」

「俺はいつも走って行ってるけどな」

「嘘でしょ!?」

「今日は呼木のじーさんもいるし、バスに乗ったらあ」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

バスに乗った4人。

「いやあすみませんヨシアくん。お金払ってもらっちゃって」

「いいよいいよ。安いもんさ」

呼木さんはホームレスだ。見た目はそこそこ汚れている。ある程度清潔にしているようだが、それでもとても目立つ。周りの白い眼が痛かった。

「すみませんね、皆さん」

呼木さんが謝った。

「なんで謝るのさ?」

ろいこが聞き返す。

「いや、ただただ迷惑をかけて申し訳なくて……」

「そうかしこまらないでよ。私たちと呼木さんの仲じゃない。遠慮禁止!」

「そうですか・・・・ありがとう、ありがとう」

不審者呼ばわりしていた最初と比べ、ろいこは呼木さんにかなり打ち解けていた。私はとても嬉しい。

「・・・着くまでに暇になりそうだから、しりとりしようぜ」

「小学生か!」

「いいじゃんめりい。やろうぜやろうぜ」

「じゃあ聖書の『よ』からだね」

「呼木さん!?」

バスの中で、4人は楽しくしりとりをして暇をつぶした。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

神社に到着した。

鳥居になにか書いてある。

「んん〜〜?」

めりいは顎に手を置き、その達筆を分析しようとする。が、全然読めない。

「愛川八幡神社」

ヨシアがそう呟くと、階段をスタスタ歩いていった。

「あっ!待ってよ!」

ろいこが追いかける。


呼木さんは、足がすくんでいた。

心配になり、めりいが声を掛ける。

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ……。いやはや、歳は取りたくないもんだね」

「私が手伝いますよ」

「すまないね」

呼木の右腕を肩に掛け、めりいは呼木を幇助する。

力があればおぶさることが出来ただろうが、めりいは運動オンチである。


「はぁ、はぁ……!コラふたりとも!置いてくなって〜」

「わりーわりー」

ヨシアの手には杖があった。

「じーさん大変だろうから、うちのじーちゃんが使ってたヤツをいま持ってきたんだ」

「そんな勿体無い!いいよ私は──」

「ウチのじーちゃん、もう亡くなってるんだ。もうウチじゃ誰も使わないし、使ってくれ」

ヨシアの瞳は悲しそうだった。きっとおじいちゃんのことが大好きだったのだろう。

「そこまで言うなら、謹んで使わせていただきましょう」

杖を貰い深く一礼する呼木さん。やはり礼儀深い。


「じゃあ、俺の部屋へ案内するよ」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

境内の右隅に離れの一軒家がある。そこがヨシアの家だという。

「苗字が書いてあるね、ふくわ?」

扶桑(ふそう)だ扶桑。日本の雅称(がしょう)が由来だよ」

初めてヨシアの苗字を知った。自己紹介で言ってた気がするが、名前しか覚えてなかった。

「へっえ〜おしゃれ〜」

プアーンと(しょう)()が聴こえてきそうな苗字である。雷雲綿と並んで珍しい苗字だ。


家の中はやや古めの内装だった。木と畳の香りが漂う昔なつかしの雰囲気だ。

「2階上がるぜ。急だからめりい、呼木じーさんを手伝ってやれ」

2階にあるヨシアの部屋は男の子の部屋という感じだった。

の〇太くんの部屋を想像してほしい。あんな感じの部屋だ。

ただ目を引くのは、バスケ選手のポスターがいくつかデカデカと貼られている。

「これが偉大なるコービー・ブライアントだ。でこっちがマイケル・ジョーダン。一般常識として覚えとけ」

バスケの世界では「天才」だとか「神」だとか称えられる両者。しかしバスケに興味のない女子高生の関心は2人には向かなかった。

「男の子の部屋に招待されるなんて初めてだなぁ……」

「さっそく物色したい!エッチな本ある?」

「ねえよ!あっても見せねえよ!

と、ああ。飲み物持ってくるからさ。ジッとしてろよ?」

ヨシアは1階に降りていった。


押すなよ!絶対押すなよ!?という前フリはもはや押してくれという裏返しである。

「さっそく漁ってやろ〜笑笑」

「やめなさい!!!!!」

唐突に呼木さんが怒り出した。ビクッとなるろいことめりい。

「ご、ごめんなさい……」

「人には知られたくないものの1つや2つあるでしょう。それを無闇にほじくり返すものではないよ。ろいこちゃんも自分の部屋を他人に物色されたら、不愉快極まりないでしょう?」

「まあ、泥棒とかに物色されるのはやだなあ」

親しき仲にも礼儀あり。人の家では大人しくしているのが礼儀である。

それにしても、呼木さんがあんなに感情を剥き出しにして怒ったとこ、初めて見たなあ。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「なんか大きな声したんだけど、大丈夫か?」

ヨシアがジュースを持って戻ってきた。

「それ私です。すいません」

「いいよいいよ。今の時間帯誰もいないし」

ヨシアが持ってきたジュースは、ん・・・・?

「抹茶ソーダだ。冷蔵庫にそれしかなかった」

「罰ゲームかな???」

案の定不味かった。全員吐き出した。

呼木さんは辛うじて堪えていたが、やはり耐えられなかった。


「とまあ、口直しに水道水でも飲んでくれ」

「ひどいもてなしだよ!ったくもー」

ろいこは酷くむせたようで、ゴホゴホ言っている。鼻水も出ていた。


「色々あったが、聖書の話をしよう」

「そうだね。で、なんでヨシアの家に?」

「うちのMomさ。もしかしたら、聖書を持っているかもしれない」

「あと1時間したら帰ってくると思う」

「お母さんは普段何をしてるの?」

「専業主婦さ。今は買い物に出かけてると思う」

ヨシアの瞳はジッとよく観察すれば、やや青い。宝石のような瞳で、まつ毛がもう美しい。

「でも、ヨシアくんのお母さんはクリスチャンじゃないって、前言ってなかった?」

「そのはずだ。聖書も親父に取り上げられたんだと思ってたけど、思い立って親父にMomの話を聞いてみたんだ」

「なにか事情があるみたいで『知らない』の一点張り。なにかおかしくないか?」

「あまり深繰りしない方が良いのでは?」

呼木さんが提案する。

「でも、Momが持ってる聖書は多分英語の聖書だと思うぜ?

持ってるなら英訳聖書だ。貴重じゃないか?」

「本人に聞けばいいじゃん」

「1回聞いた事あるけどさ、なんか不機嫌になっちゃてそれ以来聞きづらいんだ」

「だから呼木さん直々に説得してもらって、英訳聖書を手に入れるんだ。Momの部屋にきっとあるはずなんだ」


ヨシアの瞳は真剣そのものだった。

宝を有効活用するような、冒険家のような顔立ちだ。


「お客さんかな?」

部屋の入口に、メガネの男がひとり立っていた。


続く。


「そういえば静岡と山梨が舞台だった・・・」と思い、方言について色々調べました。


段々出せたら出していくと思います、シュワッチ!


話を進めていくと増えていく設定が多々ありますね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ