第345話 強くて弱い少女2
「それじゃ、詳しい説明に入るぞ。これより、君たちにはスノーランド王国に遠征に行ってもらうことになっている。理由はさっきも話したとおり、国王の動きが不穏だから動向を調べてきて欲しいのだ。敵対してくるのだとしたらこっちも然るべき対処をしよう。で、ここからが本番なのだが、出発は明日。こちらで用意した馬車に乗って向かってもらう。既にスノーランド王国にはハルト・アルファと精鋭部隊であるユージック・ロマンが向かっている。二人には先陣を切ってもらって、先に下調べをしてもらっている。その2人に合流してモーデンの動向を調べて欲しいのだ」
道理でこの場にハルトがいないと思ったらもう既に向かっていたのか。
それにしても、今度はユーさんと組んで戦うことになるのか。
前回も精鋭部隊の人と協力してあんな結果になってしまった。そのため、今はあまり精鋭部隊の人と協力するのは気が進まないものの、何とかするしか無いだろう。
とりあえず、ハルトがいる安心感はなかなか凄い。
しかし、今回はかなりの大所帯だ。
なにせ、前回のメンバーよりも三人ほど増えているのだから。
それにしても、久々のユキがいない戦いになる。ユキを仲間に加えてからずっと一緒に戦ってきただけあって、いないと少し寂しくはある。
しかし、ユキはもう立派な一里の長だ。こんなことで引っ張り出すのも悪いだろう。
「これで説明は以上だ。今日はこの城に泊まっていくといい。明日出発だ」
『はい!』
そして俺たちはひとりひとり泊まる部屋を提供された。なかなか手厚い待遇のようだ。どうしてここまで手厚くするのかは分からないけど、期待してくれているのは確かなようだ。
俺は借りた自室で光に翳していた。
今回の遠征では全部こいつで戦うことになる。このバンブーさんが作ってくれたこの剣を信用していない訳じゃない。ただ、今までユキが居ると言う安心感があったため、なかなか心の余裕ができていた。
どうやら俺の中でカナタと同じく、ユキの存在は大きくなっていたようだ。離れてようやく気がついた。
「さて、やることも無いし、この剣を磨いたら寝るか」
そう思って俺は刀身を出現させる。
この剣の刀身は実態がないものの、やはり磨かないと刃こぼれはするらしい。なので、剣の手入れは欠かしては行けない。
幸平に関してはユキが健康状態であれば刀身も良い状態が保たれるらしいので問題は無いだろう。
そして、磨いていると突然、部屋の扉がノックされた。
「はいどうぞ」
俺が入ってもいいと許可を出すと恐る恐る扉が開かれた。
そこに居たのは妙に塩らしいスイだった。
「ごめんなさい。突然お邪魔して」
「いや、大丈夫だけど……どうしたんだ?」
「となり、いいかしら」
「あぁ、別にいいが」
スイがこんなに塩らしい状態は珍しい。やはり、明日はスノーランド王国に行くという事なので、不安なのだろう。
そしてスイは俺の部屋に入ってくると俺の横に腰をかけてきた。
「ねぇ、あなたは何があっても仲間は助ける人?」
「質問の意図が理解できないが、そいつが仲間であれば俺は助ける」
「例えその人に拒まれたとしても?」
今日のスイは妙な質問をしてくる。やけに塩らしいし、もしかしたらスノーランド王国に行くからだけが理由じゃないのかもしれない。
とりあえず、スイの質問には答えてやろう。
「そうだな。俺は一度サキを失ったことによって大切な人を失うことがトラウマになっているらしい。だから、あまり仲間に優劣はつけたくはないけど、その人が俺にとって大切なのだとしたら俺は死んでも守ろうとするだろう」
「死んだら意味ないわよ」
「かもな」
苦笑いをうかべるスイ。その表情はかなり曇っていた。
今まで俺は色んな人の表情を伺って生きてきた。その俺にとってスイのその表情は迷っているように見えた。
何に迷っているのかは分からないけど、恐らく何かに迷っているのだろう。そして、その迷いは恐らく今の質問と何か関係がある。
だから俺は安心させるために心の内を明かす。
「安心しろ。お前は俺にとって大切な仲間だ。どんな事があっても守ってやるさ」
「あ、あんたは何小っ恥ずかしいことを言っているのよ!?」
「悪い悪い。つい言わずにはいられなかった」
ポカポカと叩いてくるスイだが、全く力が入っていないので痛くない。
顔を真っ赤にして、俺に顔を見られないために俯いている。しかし、耳まで真っ赤なので俯いたところで顔が真っ赤なのはバレバレだ。
しかし、こんな姿のスイは新鮮すぎてかなりドキドキしてしまう。なんというか、今日のスイは異常に可愛い。今までの男勝りのスイを見てきたからだろうか。ギャップがすごい。
一頻り俺を叩いたスイは突然立ち上がってローブを羽織った。
「質問に答えてくれてありがとう……それと、守ってくれるって……」
「あぁ、絶対に守るからな」
「……それじゃ、また明日」
「あぁ、また明日な」
スイは部屋から出ていく。
終始様子がおかしかったスイ。恐らくあの状態になったのにはスノーランド王国に行くということが関わってくるはずだ。
明日からスイからは目を離さないで見ておこう。悩みの種が分かるかもしれない。
そう決意しながら俺は剣をベッドの隣に立てかけ、ベッドに入って眠りに着いた。
☆☆☆☆☆
その頃、裕斗の部屋の前でスイはペタンと力なく座り込み、そしてローブに顔を埋めて悶える。
スイは先程の裕斗の言葉を思い出して悶えているのだ。
(なんでこんなにドキドキするのよ……あんな変態相手でなんで私はこんなに悶えなきゃいけないのよ!)
初めての感覚だった。今までスイは誰にもドキドキしたことがなかった。
だけど、最近の裕斗を見ていると、自然とかっこいいと思ったりだとか、ドキドキするようになったのだ。
(だいたい何よ、あの臭い台詞は……でも、少しだけ嬉しかった)
しばらく悶えていたスイは立ち上がると誰にも聞こえない小さな声で呟いた。
「バカヒロト……」




