第341話 師匠4
俺はヘトヘトな状態で家に帰ってきた。
もう空は朱色に染っており、世間ではもう飯の時間である。
そんなうちも飯の時間なので、玄関の扉を開けた瞬間に料理の美味しそうな臭いが鼻腔を擽った。
今日はカレーのようだ。スパイシーな香りがここまで届いている。
地味にカレーはカナタの作る料理の中で最も好きな料理だ。
この世界にはカレーやシチューの素などない。ということはこの世界でこれらのものを作る時は全部自作になるのだが、カナタの香辛料の配合が俺の好みにピッタリなのだ。
だけど、一番最初に食べた時と比べたら少しづつ味が変わってきているような気がする。どちらかと言うとこっちの方が好きだし、もしかしたら俺の好みに合わせてきているのかもしれない。まぁ、考えすぎだと思うが。
食卓に向かうと既にユユが席に座っていた。今は料理待ちのようだ。
「お疲れ様です。かなり疲れているようですが、何があったんですか?」
「あぁ、ちょっとな。弟子が出来た」
その瞬間、ピシッと音が聞こえたような錯覚を覚え、時が止まったように感じた。
そして、ユユが今まで見た事もないような顔をしている。いつも、どんなことをしても「さすがヒロさんです」と笑顔で褒めてくれるユユが珍しく驚いた表情をしているのだ。
そして、驚いてる人はこのユユだけではなかった。
ガシャンと鉄製の道具が落ちたような音がキッチンの方から聞こえてくる。概ね予想は着いているけど、恐る恐るキッチンを覗いてみると、やはりカナタが驚きのあまり震えながら固まってしまっている。
落としたものはどうやらおたまのようだ。
「そんなに俺が弟子を取る事が驚きか?」
「「「当然です!」」」
「うわっ!」
突然上から降ってきた人影。その影は俺の知っている人物で――
「ルルか」
「久しぶりだね。と言うよりも、弟子を取ったってどういうこと!?」
まずは挨拶よりもこっちの方が気になるようだ。
っていうか、なんでルルは上から降ってきたんだよ……。まぁ、概ね俺を驚かせようと上に構えていたんだけど、俺の話が衝撃的すぎてその事を忘れてしまっていたとかだろうな。
「実は、パイプに脅されたんだよ。弟子を取るか、俺と戦うか、どっちを選ぶって」
「それで弟子を取らせることができるパイプさん、凄いですね」
久しぶりに見たカナタの苦笑い。
でも実際に、あの耐久と戦うとなったら俺は逃げるね。スキル百パーセントとブーストを使って全力でそいつから逃げる。
なにせ、まともに戦っても全然ダメージを与えることが出来ないという事が分かっているから。
一度戦ったことがあるけど、あの時はまだあんなに強靭じゃなかったから勝てただけだ。今のあいつじゃ、俺がいくら攻撃したところでダメージは与えられないだろう。
「まぁ、パイプさんの耐久力はすごいですからね。戦いたくないってのは分かります」
言いながらカレーをよそって四人分をテーブルの上に並べていく。
「そういえばルルはなんで来たんだ?」
「まぁ、なんとなくかな。丁度暇だったから遊びにきた。ついでに泊まりに」
ルルは一里の長って立場だけど、多分ゴードンさんは公認してくれているんだよな。
俺たちの実力を知っているがために万が一の時には俺たちが守ると考えているのだろう。たしかに守るけど、自分の娘をそう簡単に預けるのはどうかと思いますよ。
「でも、久々だから色々と話があるから時間があってよかったよ」
どうやら女子たちは今夜はガールズトークに花を咲かせるようだ。
今日、俺は飯を食ったら直ぐに寝よう。今日はもう疲れた。
ということで、全員で席に座っていただきますと言ってから俺はカレーを一口頬張る。
やはりカナタのカレーは最高だ。すごく美味い。
特にこのスクの実がいいアクセントなのだ。こっちに来てから毎食スクの実を食べているけども全く飽きる気配がないのが凄いところだ。
これはカナタの努力の賜物なのだろうな。
そうして飯を食べ終えた俺は直ぐに自室に戻って睡眠に入る。
今日の疲れを癒すために――
☆☆☆☆☆
目を覚ますとまだあの場所に居た。
目の前には青い髪の女の子が居て、そして俺には以前と同じように「私にかかわらないで」と言ってくる。
そして、どうしてと聞いても全く声が届かない。この空間では青い髪の女の子から一方的にしか声が届かないようだ。
すると、以前とは違う点が一つ、なんと、スイの後ろから黒い霧のようなものが迫ってきていたのだ。
そして、その霧は俺たち二人を飲み込まんとする勢いで迫ってくる。
「逃げろ!」
俺は一切この空間では動けないので青い髪の女の子に逃げるように促す。しかし、俺の声は全く青い髪の女の子には届かない。
すると、青い髪の女の子は黒い霧の方へ走っていってしまった。そして、青い髪の女の子は黒い霧に飲み込まれていく。
様子を見てみると必死に黒い霧を抑えようとしているように見えた。どうやら俺を逃がそうとしてくれているらしい。
だが、俺は一歩も動くことが出来ない。そのため、逃げるための時間を稼いでくれても全くの無意味なのだ。
その事に申し訳なく思いながら見ているとついに限界が来たのか、青い髪の女の子は黒い霧に飲み込まれてしまった。
その様子を見ながら何も出来ない俺も同じく迫ってきている黒い霧に飲み込まれてしまった。




