第226話 過去と現在、そして未来へ2
あれから六日がたった。これよりサキスイ逃亡計画を遂行する。
今は深夜、サキとスイは布団の中に居ることは確認済み。これならサキとスイに見つからずに逃亡することが出来――
「なーにやってるの?」
その瞬間、背後から恐ろしい声が聞こえてきた。まるで悪魔のような――そんな事を考えていると頭に拳が降って来た。どれだけ怪力なんだよ、痛てぇ……。
「失礼ね。誰が悪魔よ」
最近、みんなは俺の心を読めるのではないかと思い始めた。
しかし、まさか起きているなんて思いもしなかった。確かに直前に部屋に起きているか見た時には布団を被って寝ていたはずだ。なのにスイは現に目の前に居る。もしかして憚られたのか?
例えばぬいぐるみとかで……ってかなりベタな方法だな。
「問答無用で明日、剣魔法王者決定戦を一緒に見に行ってもらうからね」
どうやら俺に拒否権はないようです。でもこれで俺たちの居場所がバレたらどうするんだよ……。そうなったら俺たちはもうここには居られないぞ。
でも行くのは別に反対ではない。むしろ色々な戦い方が見れるので良い戦い方が思い浮かぶかもしれない。
仕方がない、バレなければいいか……。当然アルケニアの人々も沢山来るだろう。ならば顔がバレないように仮面を被っていくか。
仮面に関しては確か売っていたはずだからそれを買ってから行くとするか。
「はぁ……分かったよ」
「よし、言質取ったから明日になって居なかったら……サキは私が貰うから」
「はぁ!? サキはお前にはやらん。俺を倒してからにしろ」
俺がそういうとサキは杖を構えた。その様子に何を言い出すか分かった俺は冷や汗をかいた。
「あんたを倒したらサキを貰えるんだよね……倒してしまっても良いんだよね」
目がマジだ。サキを手に入れる為ならばどんなものでも犠牲にするといった強い意志が感じられる。
杖を俺に向けて魔法を撃つ準備万端のスイ。それに対し、丸腰の俺。今戦って勝つのはどちらか目に見えていた。
普段面倒くさいことは絶対しない主義だが、利益があることは行う。今回の利益ってのが生存だ。それを認識した瞬間、俺の体は宙を舞っていた。そしてそのままの勢いでジャパニーズDOGEZAを披露した。ジャンピング土下座である。
「本当にすみませんでした!」
「うむ、分かればよろしい」
この瞬間、『HOPE』内の力関係がはっきりとしてしまった。
☆☆☆☆☆
次の日、俺達は馬車で集落へと向かっていた。
この馬車の中には俺、サキ、スイ、ユキ、マイの五人で乗っていた。今朝、ハバロンさんたちも誘ってみたけどハバロンさんたちは来ないらしい。しかしマイは来ると言ったので、この五人で行くことになったのだ。
しかし、剣魔法王者決定戦なんて行くのは久しぶりだな……。前に行った時は出場者だったから観戦で行くのは初めてだな。
今回こそ出場せずに観戦をする。
「で、今回の見所はなんだ?」
「今回はクラン戦の腕試しに出る方々も多いようなので相手のクランの情報を見られるかもしれないわ」
なるほど、もし『ブレンド』のメンバーが出るならば研究をしなくちゃいけないな。
それにクラン最強と歌われている『SWORD』にも勝たなくちゃいけない。その研究の舞台としては最適だ。
そこまで言うとスイは俺の耳元でもう一つ言ってきた。
「どうやら今回はパイプさんも出るようですよ」
「!? パイプが?」
パイプはアルケニアに居たことに共闘していた他の勇者だ。マナワ・スーパムさんという魔法使いに召喚され、あのカラタさんの弟子だった人だ。かなり強くなったはず、あのマナワさんも強かったからパイプの努力量なら強くなる。
久しぶりにパイプの戦闘を見たい。
「あ、みんな! 闘技場が見えてきたよ!」
マイが声を上げて興奮しながら言った。
とても大きな闘技場で、入口に大きく夏期剣魔法王者決定戦と書いてある。確かにあそこが会場の様だ。
どんどんと各地から馬車がやってきて会場の中に入って行っている。その様子を見てから俺は仮面を被った。この仮面は馬車に乗り込む前に商店街に寄って買ってきたものだ。
舞になんでこんな仮面を買ったのかと聞かれたが、単純に顔を見られたくないからだと答えた。それで納得してくれたからよかった。
そして俺たちも到着して馬車から降りる。その時、視界の端に見えたのだ。
俺の中でいつまでも忘れることのない大切な人――カナタとユユが馬車から降りてくる姿が。
その姿を見てボーッとする。どうやらこちらには気がついていないようだが、それよりも俺はカナタの顔が暗くなっているのが気になった。
そうか、もう会えないって言っちゃったしな……。もう少し色んなことをやりたかった――ってこれは俺の考えだな。でもカナタもそう思ってくれたら嬉しいな。
そんな事を考えていたら俺はボーッとしていて立ち止まっていた様だ。
「立ち止まってないで早く降りて、あとがつっかえているから」
「ああ、悪い」
話したわけじゃない。一方的に俺が見つけただけだ。しかし、俺の心を温めるのには充分だった。
この日、俺は過去との再会を果たした。
「ん? 嬉しそうじゃない。何かあったの?」
「いや、なんでもない」




