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第221話 昇格試験3

 スイが部舞台に上がると対戦相手のスイの姿が見えたからか盛り上がりを見せる観客席。聞こえてくる声は「あいつ弱そう」とかのスイの実力を知らないで憶測だけで決めつける言葉だ。

 だけどそんな言葉はスイの耳には入っていない様子で平然とギルドマスターに近づいていく。


「うむ、これに指を」


 その言葉に少しの躊躇いもなくスイは親指を枠の中に押し付けるとスイとギルドマスターは光出した。無敵時間に入ったのだ、この時間にスイは深呼吸をする。

 対するギルドマスターは腕を組んでスイの様子を探っているようだ。俺にとってもあんな様子のスイを見るのは初めてなので、どんな戦いをするのかが全く予想がつかない。


「……頑張れば報われる、ね」


 スイは小声で呟いた。その言葉になにか思い入れがある様子で慈しむような表情をしている。

 スイがその言葉を呟いた瞬間に二人を覆っていた光が消えてしまった。これが開戦の合図だ。


 しかし、どちらとも動き出さない。ギルドマスターは腕を組んで動かないし、スイは元々遠距離型の魔法使いなので杖を構えてギルドマスターを見据えている。


「ほう、君は魔法使いなのか」

「ええ、普段はローブを着ているんですが今日は持ってきていないもので」


 探り合いを始めるスイとギルドマスター。この探り合いに負けて先に動きだした方の負けとも言えるだろう。

 この局面は大事だ。ピリピリとした雰囲気が辺りに漂う。しかし、そんなものは観客には関係ないのだろう。空気を読まずに「早く戦え」などの野次を飛ばす奴もいる。

 その言葉を聞いてさすがに戦い始めないとダメだと思ったギルドマスターは腕組みをやめた。


「それじゃ、始めるか」


 ギルドマスターのその言葉を合図に戦闘が開始された。スイも杖を構えて身構える。

 最初に動きだしたのはギルドマスターの方だった。

 ギルドマスターは素手で走っていくので防御手段はどうやら無いようだ。スイもそう考えたようで回避したら爆発する水爆弾を発動させた。


「ほう、水爆弾(ウォーターボム)か」


 どうやらギルドマスターにはこの程度の誤魔化しは通用しないようだ。ギルドマスターは水爆弾に当たると既にスイは対策を打っていたのだ。

 水爆弾をぬけた瞬間、ギルドマスターに鋭い水が直撃した。水爆弾を見破られた時の対処として水爆弾の裏に設置してあった水斬だ。これはさすがに見破れなかったようだ。いい魔法の使い方だ。

 これは詠唱の必要の無い水斬だからこそ出来ることだ。他の技だったら出来ないテクニックだ。

 これにはギルドマスターも感心した様子。しかし、水斬の元々の威力が低いせいで大したダメージにはなっていない。


「では今度はこちらから行くぞ!」


 ぞう言ってギルドマスターはあらぬ方向に魔力の玉を放った。その玉は外しただけ、そう思われたのだが――その数秒後、俺は驚きの光景を目にした。

 なんと魔力の玉は周囲のものを吸い込み始めたのだ。まるで闇属性のブラックホールやカラタさんのスキル『風の民』。その奥義のように見えた。

 石ころや何から何まで吸い込まれる。観客席は結界で守られているらしく、戦いの影響は無いのだが、それでも現場がどれほどの状況なのかが分かる。

 スイも今にも吸い込まれそうになっている。


「俺のユニーク魔法、重力核だ。まぁ、言うなればものすごい重力をその一点に集めるという魔法だ」


 なるほど、って言うことは実質ほとんどブラックホールみたいな物なのか。スイも何とか耐えている様だが、吸い込まれるのも時間の問題。

 万事休すか……そう思ったのだが、何やら早口で詠唱をし始めた。


「あれが重力の塊ならどんなものでも吸い込む、そういうことよね」

「ああ」

「ならこういうのも吸い込めるかしら『最悪の災害(デルタディザスター)』」


 この魔法は俺と決闘した時に使った魔法、津波やら竜巻やらの自然災害が一度に襲ってくるという普段使ったら大変なことになりそうな魔法だ。

 その魔法を放った瞬間、スイの背後から竜巻と津波がギルドマスターに遅いかかった。しかし、その竜巻と津波すらも引き寄せる魔力玉。

 だが、さすがに魔力玉も引き寄せる限界容量を越えたようで、そのままギルドマスターに最悪の災害が襲い掛かる。


「なるほど、そう来たか。まさか水属性最強魔法が使えるとは思っていなかった」


 ギルドマスターの裏を完全にかいたようで、ギルドマスターも諦めて魔力玉を解除した。

 しかし、ギルドマスターはその直後、違う技を発動した。しかも無詠唱で――


「波割り!」


 ギルドマスターはそう叫ぶと拳を突き出した。その瞬間、俺は信じられないものを見た気分になった。なぜなら――津波を拳の衝撃波だけで縦に割ったのだ。

 その行為はスイにとっても予想外だったようで一瞬の隙が生まれてしまう。その隙をギルドマスターは当然見逃さない。

 ギルドマスターはスイに殴りかかったのだ。この一撃で分かった、この人のメインウェポンはあの拳だ。

 何とかスイはその拳を杖で防いだようだが、なかなかの威力だったようで少しだけ飛ばされてしまった。あの部舞台から落ちても敗北。部舞台ギリギリで立ち止まったので何とか落ちずに済んだ。

 しかし、あの一撃はなかなか厄介なものだ。今度受けたらもう耐えきる事が出来ずに敗北するかもしれない。

 マイの表情から焦燥感が見て取れた。


「マイ、落ち着け。落ち着くんだ。慌てたら負けだぞ」


 しかし、そんな声はマイに届いていない様子だ。

 多分ギルドマスターはもっと色んな技や経験での作戦はあるだろう。対するスイは今の最悪の災害が切り札だったんだ。しかし、その切り札でさえ、縦に割られて回避された。正直絶望的と言えるだろう。


「アイスロック? いや、これは一対一の時には危険すぎる」


 スイの万策は尽きた。あとは敗北するだけ、そう思われたのだが、その一瞬だけ俺には俯いて考え込むスイの顔がニヤッと笑ったように見えた。


「これで終わりにしよう。大地割り!」


 ギルドマスターは最後の一撃とばかりにスイに殴りかかった。しかし、スイは全く動く気配はなかった。だけどそれは視覚だけの話だった。

 俺は分かった。今どういう状況なのかが、そしてスイが何をしようとしているか。

 ギルドマスターが拳を振った瞬間、スイはガスのような気体となって消えてしまった。その事にギルドマスターも驚くものの、さすがのギルドマスターだ。直ぐに後ろに振り返ると、ギルドマスターに水斬が飛んできているのが見えた。しかもギルドマスターを囲っている。

 そして少し離れた位置には水爆弾が――この状況はスイが作り出したのだ。


「ここよ」


 そういうスイの居る位置はさっきとうって変わって部舞台の上の中でもギルドマスターに最も遠い位置に居た。

 この技、俺が思うにただの身代わりだとか、分身だとか、そんなものでは無いと予測できた。多分この技は湖などでよく起きる現象、蜃気楼だ。

 俺らは蜃気楼を見せられていたせいで偽物のスイが見えていたのだ。巧妙な罠、さすがにこれを回避する手段が無くなったギルドマスターは衝撃に耐える体制に入った。

 その瞬間、水爆弾は回避反応となり大爆発、それにより煙が巻き上がる。

 これは大ダメージになっただろう。そう思ったのだが、なんと驚くことに爆発による煙の中からスイに向かってものすごいスピードでギルドマスターが走って行ったのだ。

 スイもこれが無理ならほかも無理だと諦めた様子でひとつの単語を呟いた。


「降参」


 その瞬間、会場が湧き上がった。みっともない戦いをすると思っていたら、なかなか健闘していたのでそれを讃えているのだ。

 試合が終わってギルドマスターの体力はどれだけ削れたのだろうと思っていたら、少しの擦り傷は負ったみたいだけどまだまだピンピンしていた。


「いい戦いだった。ところで君はなんで戦うんだ?」

「理由ですか……」


 ギルドマスターの唐突な質問、その質問にどう答えるべきか悩んでいるのかスイは少し俯いてから静かに答えた。


「戦いによる犠牲者を減らしたい。悲しい思いをする人を増やしたくない。だから私は戦い続けます」


 その言葉にはとてつもない重みがあった。それは俺らがスイの事情を知っているからだろう。

 スイの両親は戦死を遂げた。スイはその後、悲しい思いをしたのだろう。そんな人を増やしたくない、他の誰が言っても出せない言葉の重みを感じた。


「うむ、なるほど」


 その重みはギルドマスターも何となく感じたようだ。するとギルドマスターは、その回答がお気に召したのかニカッと笑った。

 そして告げたのだ。


「合格だ。冒険者スイよ、君は今日からDランクだ」


 その言葉を聞いて俺らは大歓声を挙げた。部舞台に居るスイは何やらほっとした表情。

 こうしてスイは晴れてDランクの仲間入りを果たした。次は誰になるんだろうか。

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