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第22話 冒険家の夢

 俺達は温泉に来た。

 この世界にもちゃんと温泉があるんだなと感心してしまう。

「じゃあ早速入りに行きましょうか」

 朝から温泉か……。贅沢だな。そう思いながら男湯の方に行こうとするとユユがくっついてこっちに来た。

「おいここは男湯だぞ?」

「ユユはまだ十三なので大丈夫です」

 いや結構アウトだぞ? 何考えてるんだこいつは。


「でももし私の体を他の男の人に見られるのを心配するなら家族風呂の方に行きましょう」

「いや、お前と俺は家族じゃないだろ」

「仲間いこーる家族なんです!」

「それじゃカナタも家族になるじゃないか!」

「私とヒロさんが特別なんです!」

「何その謎理論!」

 疲れるんだけどこいつの相手をするの……。

「一人で入るのが怖いならあっちにはカナタが居るじゃないか」

 そう言うとブンブンと首を振るユユ。


「私は怖いんじゃなくてヒロさんと入りたいだけなんです!」

 俺もこいつの裸が他人に見られるのを心配しているわけじゃない。今は客が俺達以外には居なくて半貸し切り状態だって店員が言っていたからな。

 だが、そんな風呂の中に男女二人きりで居ることがまずい。

 こいつは俺に好意を持っている。二人きりになった途端、やばい行動に走らんとも限らない。やばい行動の内容は分からんけどな。

「むぅ……」

 と口を尖らせるユユだが、そんな顔をしてもダメだ。

「じゃあヒロさんが女湯に来てください」

「それこそ無いだろ」

 俺が女湯に入って行ったら日本だとサイレンが鳴る車でどこかに連れていかれてしまう。


 そこに遅いからか心配して先に女湯の方に向かったカナタが戻ってきた。

「ユユちゃん。どうしたの?」

「ヒロさんとはいり──」

「強制連行頼むわ」

 俺は力強くそう言った。

 そう言うとカナタは頭にハテナを浮かべながらユユの手を引いて行った。暴れていたものの、脱出できずに女湯に連行された。それを見ながら俺は敬礼をする。

 そして見送った後、俺は安心して男湯に入る。


 入ってみると店員の言う通り、俺以外誰も居なくて本当に貸し切り状態みたいだった。

「ユユちゃんの肌、すべすべだね。真っ白でスノーランド王国の雪みたい」

「カナタさんだってすべすべじゃないですか。それと髪もサラサラで羨ましいです」

 そんな声が壁越しに聞こえてきた。


 確かにカナタの髪はサラサラだが、ユユの少し癖のあるふわふわとした髪も結構好きなんだけどな。

「そう言えば、ユユちゃんは水鉄砲を使ってたけど得意属性って」

「水です。因みに森がぬかるんでいたのも私が戦った後だからです」

 ユユの仕業だったのか。

「こんなのも出来ます」

 ユユがそう言った数秒後、カナタの「おぉっ!」と言う感嘆の声が聞こえてきた。

「これが私の魔法です」

 まじでどんな魔法を使ってるの!? 気になる。めっちゃ見たい。今だけは男である事が悔しい。

「凄い! お湯が水の柱みたいになった!」

 俺が悶々としているとカナタが解説もどきをしてくれた。感謝する。

「水に関連する事ならなんでも出来ます。凍らせたり蒸発させたり。私が使っている魔法は基本的にそこら辺を漂っている水蒸気を集めて水に戻したものを使っていることがほとんどです。水を生み出すことは出来ません。なので湿度が低すぎると私は圧倒的約立たずですね」

 実は水蒸気は圧縮すると水になるんだ。

 その事を魔法を使ってやっているんだろう。


「湿気が無くてもそこら辺に少しでも水があれば何とかなります」

 凄いような。不完全な様な……そんな魔法だなユユのは。

 しかし、壁越しに声が聞こえてくるのが何だか恥ずかしいな。

「水なら簡単に操れるのでジャグジーも出来ますよ」

 何それ凄い!


「これらの魔法を全て水操作ウォーターオペレーションと言います。珍しく、水属性の人でも使える人が限られていて、私みたいにそこらにある水を操るタイプの人にしか使えません。そして他の属性の人は使えないという特徴があります」

 なるほど……。でも使えたらめちゃくちゃ便利な魔法だな。

「わーい!」

 あっち、楽しそうだな……。一人で入っていると寂しいな。本当に俺以外に誰も居ないし……。


 暇だな……。まぁ、風呂でやる事なんて何も無いけど。

「波のお風呂です!」

「わー。凄い! 本当に波立ってる!」

「わーい!」

 なんか。そろそろやらかしそうな気がする。


 でもまぁ、アイツらでもそんなことにはならねぇよな。まさか上の隙間からお湯が大量に降り掛かってくるなんてことは無いよな。

「水柱!」

「おー! どこまで高くできるの?」

「ふっふっふー。これはですねこんなに高く出来るんですよ」

 そして壁の隙間から水の柱が見えた。

 あれ、やばくね? まさか倒れてこないよな?

「ば、バランスが!」

 そして水柱がフラフラとし始めた。

 嫌な予感がするんだが?

 その瞬間、水の柱が倒れてその水が男湯に流れ込んできた。そしてちょうど真下の位置にいた俺は頭からお湯を被った。


 アイツら。ふざける限度を知らんようだな。

「大丈夫ですか?」

 とユユが上の隙間からひょこっと顔を出して聞いてきた。

 俺は一回頭を洗って拭いたというのにまた頭からびしょびしょに濡れてしまった。

「あー。ダイジョウブダダイジョウブ」

「なんか声に抑揚がないですが……」

「怒ってないよ? うん」

「何も言ってないですよ!? それ絶対怒ってるじゃないですか!」

「そんなことよりも、いつまで男湯を覗いている気だ?」

 そう言うとユユは頬をかぁっと染めて落ちていった。

 何だったんだ一体。

 あいつ、乗れる水も作れるのか? あの高さ、このツルツルの壁をよじ登れるとは思えないし、乗れる水の柱でも作ったんだろうか? あいつの魔法の謎は深まるばかりだな。

 そろそろ出るか……。これ以上ここに居ると向こうの二人に殺されそうだ。


 風呂から出て休憩所でこの街の名産、ハルムジュース──この世界特有の動物、ハルムから取れる牛乳みたいな飲み物。牛乳より少し甘みが強いけど濃厚で、この世界では牛乳よりも主流──を飲んでいるとカナタとユユも風呂から上がって休憩所に来た。

「あー。私も飲む! フルーツジュース!」

 ユユが飲みたいと言ってきたので俺はフルーツジュースを買ってきて渡す。

「ありがとうございます!」

 そして瓶のフルーツジュースに口をつけて少しずつ飲むユユ。


「私も飲もうかな?」

 そう言ってカナタもハルムジュースを買ってきた。

 ハルムとは、今では動物として親しまれているが、昔は魔物だったらしい。一回カナタが持ってきた魔物辞典に載っていた。確かに魔物とも動物とも取れる容姿だった。

「気持ちよかったですね」

「あ、そう。良かったね」

「怒らないでください! すみません! 謝りますから! ヒロさんに嫌われたら私……私……」

 涙を流すユユ。


 するとカナタが俺の肩に手を置いて言ってきた。

「ユユちゃんはヒロに凄い依存しているようだけど、そんなに依存するような事、何かあったんですか?」

「ああ、こいつが逃げ出した時あったろ?」

「はい」

「その時に魔物に襲われてさ、助けてからずっとこうだよ」

 そしてユユの肩に手を置く。するとビクッと肩が震えた。

「俺はお前を嫌いにならない。だから安心しろ」

 そう言って手を離す。


 どうしてこうなった。確かに俺だって女の子に好かれたいと思った事があるさ。だけど、まさかこんなに面倒な事になるなんて……。俺の平和……。と肩を落とす。

「ヒロさーん!」

 と言って勢いよく抱きついてくるユユ。

「大好きです!」

 分かったから抱きつくな。周りの目が痛いから。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 そして俺達は温泉を出てバンフーさんの鍛冶屋に向かっていた。

「そう言えば、冒険家になりたいって言ってたのはどうなんだ?」

 俺は歩きながらユユに聞いた。

 まぁ、答えはもう分かっているんだが──

「勿論、なりたいです! ヒロさんが手伝ってくれるって言ってくれたので」

「あぁ、そうだな」

 あの時は仕方が無かったとはいえ、面倒な約束を取り付けちゃったな……。

「正直、冒険家で私の力が通じるかは分かりません。ですが、やるだけやってみたいんです!後悔しないために……。なので私は冒険家の夢を諦めません」

 そうか……。それがユユの夢か……。ならこいつの夢を応援するし、約束だからな。手伝う。

「そうか。頑張れよ」

「はい!」

 今までで一番いい返事だった。

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