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第21話 朝の騒動

 次の日。俺が目を覚ましてみると目の前に脳処理が追いつかなくなる光景が映っていた。

 なんとユユが俺の横でぐっすりと眠っていたのである。

「えへへ〜大好きですよヒロさん」

 寝言だ。これは寝言で無意識にそう言っているんだ……。だから頭を抱えてしまう。


 そして起きたらここにユユが居る。これはさすがに誰かに見られたりしたら……。

 するとコンコンとノックの音が聞こえてきた。

 この時間に来る人といえばいつも朝飯を作って持ってくる……。

「ヒロ! 起きてますか?」

 カナタだった。


 まずい。この状況はまずすぎる。この状況をカナタに見られたら社会的に死ぬ! 昨日はあんな事を行っておいて結局連れ帰ったと思われたら俺の信用がカナタだけに留まらず街全体で俺の悪評が広まるであろう。すると俺はこの街から追い出される訳で、平穏な暮らしが出来なくなってしまう。

「ヒロ! まだ寝ているんですか?」

 そして困った事がもう一つ。

「いや、起きている。起きているからまだ入ってくるな!」

 ドアノブに手をかけたらしい音が聞こえてすぐさま返事する。

 カナタは俺が寝ていると起こすために勝手に入ってくるんだ。

「ん? よく分かりませんが分かりました」

 素直な性格で助かった!


 その時、

「んぅ〜?」

 隣で寝ていたユユが目を覚ましてしまった。

 まずい! 俺、人生最大のピンチだ!

「あ! ヒロさんおはようございます!」

 と大声で言ってから抱きついてくるユユ。嫌な予感がした。

「ヒロ。女の子の……それも聞いた事のある声がしたんですが……。連れ込んでませんよね?」

「あははー。そんなことする訳ないじゃないか」

 嫌な汗が背を伝う。

「入りますよ!」

 そう言ってドアノブを回してカナタが入ってこようとする。──ドアを押さえたいのは山々だけどユユに抱きつかれていて動けない。


 だから俺は止めることも出来ず。

「ヒロ〜。朝ごはんを作ってきました」

 見られてしまった。カナタが入って来て見られてしまった。今のこの状況を……。

 ここで俺は社会的に死んでしまうのか?

「やっぱり居ましたか……」

 はぁ……とため息を着いてカナタは入ってくる。──何その薄い反応! いや、俺としては驚かれた方が嫌なんだけど、これで薄い反応って神経が図太すぎませんかね?

 そんな俺の言葉に答えるようにカナタは──

「私が来る時にユユちゃんがこの宿に入っていくのを見たからあまり驚きませんでした。どうせここだろうと思いましたし」

 と言った。正直助かった。見られていなかったら俺が連れ込んだと勘違いされるところだった。


 しかもユユが俺に抱き着いているこの状況。本当に助かった。

「ユユちゃんも食べる? 朝ごはん」

 そしてカナタは重箱のような大きさの箱を取り出す。恐らくあの中に料理が入っているのだろう。しかし、寝起きの俺には多すぎる。いつも朝ごはんの量が多すぎて頑張って口の中に詰め込んでいる。


 美味いけど朝だからもっと少なめにして欲しいところではある。

 だが、今はユユが居るからまだマシだろう。

 そして俺とユユはテーブルにつく。

「ユユ、テーブルは広いんだからわざわざこっちによってこなくても良いんだぞ?」

 そう言うとユユは不満そうに頬を膨らましてこう言ってくる。

「私はヒロさんにくっついてないと魔力が減ってしまうんですよ!」

「何その設定!? 聞いた事が無いわ!」

「有り得なくはないですよ?」

 とカナタが口を開いた。

「魔力は精神力です。精神的に参ると魔力が減少する事は実際にある事です」

 そうだったな魔力は精神力だったな。魔法を使う以外にも減らさるとは思わなかったな。でも精神力ってことで全てを理解出来たような気がする。


 そしてカナタはテーブルの上に重箱を置いて俺達の正面に座る。

 重箱を開けてみるとこれまた大量の飯が入っていた。

「おぉっ! 美味しそうです! これ全部カナタさんが作ったんですか?」

「そうだよ〜。いっぱい食べて良いからね」

 二人のやり取りを見ているとなんか姉妹の様に見えてくる。


 きっとカナタは小さい子が好きなんだろうな。面倒見が良いお姉さんだこと。

 そして三人で揃えて「いただきます」と言って重箱に箸を伸ばす。

 これは魚の切り身を甘辛いタレで焼いたものだ。結構焼肉なんかのタレで使えそうな味なんだが、日本で手に入るような肉はあんまり手に入らない高級食材だと言うから残念だ。

 そしてこっちは日本のレストランでよく付け合せとして出てくるコーンとグリーンピースだ。結構日本の食材なんかもこの世界には沢山ある。

 だから慣れ親しんだ味が出てくる事も少なくはない。


 そしてこっちは魔物、カッシュの肉のステーキだ。朝からステーキは重いというか前に、結構グロテスクな見た目をしている。なんか普通の肉で言うところの赤身が紫で肉汁の色が緑だ。

 だが、これが一般庶民にとっては一番のご馳走なんだとか。

 そして勇気を出して食べてみると豚肉の様な食感でジューシーな肉汁が口一杯に広がって美味い。ここでカナタが作ってこなかったら一生食べようともしなかった。

 そしてこっちは魔物、フライドチキンの肉の唐揚げだ。既に名前で調理済みのような気がするがちゃんとした魔物らしい。

 見た目は鶏みたいな感じなんだがトサカの色が青いらしい。

 食べてみると鶏肉のように淡白な味わいなんだが、ちゃんとジューシーさもある子供が好きそうな味だ。

 現にユユが一心不乱に唐揚げに食らいついている。


 ユユはニコニコしながら口一杯に唐揚げを頬張っている。リスみたいだ。小動物みたいで小さい子って可愛いよな。

「おいしいです!」

 やっとの思いで口の中の唐揚げを飲み込んだユユがそう言った。

 そんなユユを見て無意識にユユの頭を撫でると「ヒロさん大好きです〜」と言われて俺は正気に戻って慌てて手を離す。

 やべぇ。普通に年下の女の子に接するような感じで接してしまった。好意を抱いてる女の子にやるのは重みが違うって分かってるはずなのに……。

「カナタは料理、いつから出来るようになったんだ?」

「えと、物心着いた時には……。実家が飲食店だったもので」

 悲しそうだ。恐らく家族で楽しく飲食店を経営していた頃を思い出したんだろう。

 また辛いことを思い出させてしまった。

「よし、食い終わったら遊びに行くか?」

「行く!」

 ユユはいい返事だった。

「あなたがそんなことを言い出すなんて珍しいですね」

 と言われたので俺はどや顔で答える。

「俺の行動源は二割の強制と八割の気まぐれで出来ている」

「それどや顔で言うことじゃないですよ?」

 カナタに突っ込まれてしまった。だが、ユユは目をキラキラと輝かせて「カッコイイ」と呟いた。よく分かってるじゃないか、今の俺の言葉のカッコ良さが分かるならヒロ検定一級を与えてやってもいい。


「で、何処に行くんですか?」

 カナタに聞かれたが、正直何も考えていなかった。

「それじゃ温泉行きませんか?」

「それがいいかもしれませんね」

 二人で盛り上がる女の子組だが──

「俺は反対だ」

 キッパリと言った。そして二人は驚いた表情になる。


「俺はこの部屋についている釜風呂だけで済んでいるし、わざわざ出かけてまで入ろうとは思わない」

 実はこの宿の設備も凄いもので、部屋に風呂が完備してある。しかし、さすがに機械で温度調整が出来るシステムは無くて釜風呂である。だから長時間一人で入っているとどんどん寒くなっていく。と言うかこの宿ってめちゃくちゃ高いんじゃないの? 結構居心地がいい宿なんだが……。

「ヒロが言い出したんでしょ? 出かけない? って」

 仰る通りです。

「なら言い出しっぺなら文句言わない」

「はい。すみません」

 負けてしまった。負けて……。

 だが、悔やんでいても仕方が無い。元からカナタには勝てない運命なのだ。

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