第208話 『HOPE』8
マイを仲間に引き入れ、俺たちはすぐにマイをメンバー登録。するとマイはあの問題児クラン『ブレンド』のメンバーであったことから俺たちのクランはすぐに噂になった。
ひっそりとやって行くつもりだっただけにこの視線はきついところがある。マイは謝る癖があるようですぐにこの事について謝ってきたが、これくらいで怒るような心の狭い男では無いので謝らなくてもいいと言ってきたのだがせめてお礼がしたいと言ってきたのでとりあえずその事は保留にして仲間になった報告を兼ねてマイと一緒に宿屋に戻ってきた。
「しかし、今日俺の行きたかった場所は行けなかったな……まぁ、あそこはいつでも行けるっぽいし別にいいか」
「どんな所なの?」
「確かパンフレットによるとどんな魔法でも思い描いた魔法が会得できるって所だったはずだ。ただし、一人一回らしいが異世界物に付き物の転生特典やらチート能力が無いから代わりにそれを行いたかったんだが」
「てんせい? ちーと?」
「あ、聞かなかったことにしてくれ」
そうだった。この世界にはラノベやらゲームは無いからこういう日本での話は通じないんだった。ユキは不思議そうな表情をしている。
まぁ、何故そんなところに行きたいのかというとこの言葉通り、チートが欲しいからだ。何せ今の今までこの魔力量はチートだと言われ続けたものの、無属性が使えるとはいえ、少し筋力が上がる程度の一般人だ。こんなのは異世界としてふさわしくない。もっと異世界として渡さなくてはいけない能力があるはずだ。俺はそう考えたのだ。
「でも思い描いた能力ね……どんなのが欲しいの?」
「そうだな……俺のいつもの戦闘スタイルを崩さずに着けそうな魔法か……『模範』ってのはどうだ?」
「もはん?」
「模範ってのは相手の動きを真似するって意味なんだが、さすがに魔法までは模範できない。それをこの魔法で出来るように出来るんじゃないかってことだ」
動きまでなら何とか練習したら模範することが出来るけど魔法はさすがに無理だ。だから俺は模範の魔法が欲しい。これがあれば全属性の魔法を使えるようになるし、今までの戦い方で使うことも出来て充分チートって呼べる魔法だと思う。
即死魔法なんかも考えたが、パンフレットによるとあまりにも強力過ぎるとデメリットまで付加されてしまうらしい。だから模範程度に留めておくことにした。
だけど俺は急いでいるわけじゃないし、今日じゃなくても別にいいかなと。
そんな話をしていると前方に二人の人影が見えた。スイとサキだ。二人はもう帰ってきていたようでもう荷物は部屋に置いて来たのか手ぶらでそこに立っていた。
「あ、お兄ちゃん!」
「じゃ、ジャック……」
サキは元気よく走ってくる。だけどスイが物陰に隠れてこちらを伺ってきていた。変なやつだ、もう見つかってるんだからこっちに来ればいいのに。
「もう、スイちゃん何やってるの!」
「だってさっきー、やっぱり恥ずかしい」
「恥ずかしくない! だって可愛いもん!」
サキは必死にスイを引っ張りだそうとしている。しかし、スイもなかなか抵抗する。何この状況、全く何が起きてるのか分からない。
「何やってるんだ?」
「わぁぁぁぁっ! ジャック来ちゃダメー!!」
スイがものすごく慌てるがスイのことを覗き見てみたら、その姿を見て俺は言葉を失った。
白色の清楚感を出す普段のスイとは真逆のイメージの服。髪に花の髪飾りを付けている。そんな普段見ないスイの姿に息を飲んだ。
正直言って可愛かった。スイは全く清楚な感じはしなく、清楚な服は違和感があるかと思いきや全然そんなことはなく、むしろそのギャップがより一層可愛さを引き立たせている。
さらにその表情と仕草だ。普段は強い態度だが、今はこの服装が恥ずかしいのか顔を真っ赤に染めてモジモジとスカートを押さえている。その状態で俺の方を見てくるもんだから必然的に上目遣いになる訳で、このスイの上目遣いは反則級だ。
はるか昔の俺だったら告白して振られていたところだ。
「普段ポーカーフェイスなお兄ちゃんが真っ赤になってる!」
「うるせぇ」
「ジャック、えと……どうかな?」
「え、と」
本を読んでいたらよく出てくる台詞だ。本当に言われる日が来るとは思ってなかったがこんなに可愛いんだな。
「可愛いと思うぞ」
しかし、俺は内心を悟られないようにいつもの調子で言った。
「可愛い……か、へへっ」
するとさっきまで恥ずかしがっていたスイは途端に頬を緩めてへへへと笑いだした。どうやら俺に可愛いと言われたことが嫌すぎて壊れてしまったようだ。
すまないサキ、お前の親友はお兄ちゃんが壊してしまったようだ。
「良かったねスイちゃん!」
自分の親友が壊れたと言うのに嬉しそうなサキ。何かスイに対して恨みでもあったのか?
「そういえば二人とも、話があるんだ」
「話?」
すぐにいつもの調子に戻るスイ。その切り替え能力はさすがだと思う。
「あぁ、新しく仲間ができた」
「そこに居るマイね」
「さすがの察し能力だな」
スイは俺の隣に居たマイを見てすぐにマイが新しく仲間になったんだと気がついたらしい。相変わらずの洞察力だ。
「マイちゃんって『ブレンド』に所属していなかったっけ? 私達と行動していて大丈夫なの?」
「それがな、マイは『ブレンド』を辞めさせられてしまったらしい。本当に自分勝手な連中だ」
マイが『ブレンド』を辞めさせられたと聞いてサキは驚いた表情に、スイはやっぱりかと何となく察しが着いていたようであんまり驚いていない。
でもあんなクランは辞めて正解だ。あのまま『ブレンド』に所属していたらダントに殺されていたかもしれない。なら良い機会だったと言えるだろう。
「で、ヒロトは『ブレンド』をどうしたいと考えているの? 正直私はあのクランが気に食わなくてさ、ヒロトが今から潰しに行くと言い出したら喜んでお供するけど」
「そ、それはダメ!」
初めてマイが声をはりあげた。その声からは心配の色が感じられた。マイは今まで『ブレンド』のみんなの力を何度も見てきたのだろう。だから強さもよくわかっている。それに加えてまだ俺たちの力は未知数。あんな魔法を使う奴らだ、きっとものすごい力を持っているのだろう。
だから俺たちがたった四人だけで挑むのには不安があるのだろう。
「他のみんなはどうにかなるにしてもダントとショウトだけは敵に回したら死んじゃう」
「どんな力を持っているんだ?」
「ダントは闇属性、強力な魔法を使えるし何よりスキルを持っている。『空間操作』って言ってどんな空間でも操れたり空間内を自由に移動出来る、このスキルを使って負けたことは多分無い」
いきなりのとんでも能力だな。空間を操るって……あの大地を作りかえるやつよりはマシだけど、それでもむちゃくちゃだな……。
「ショウトは……分からない。どんなスキルなのかは誰も知らない。ただ一つ、知っていることはスキルを使えるってことだけ。だけどスキルらしいものを使ったら目の前のたくさんの敵が一瞬で倒れたってこと。絶対に近づけないスキル」
これまだとんでも能力を……この世界はちょいとハードモード過ぎないですかね?
だけど大体の検討は着いた。相手を一瞬で蹴散らす能力。そして仲間ですらスキルを認識出来ていないところを見ると大体分かった。だけどこのスキルは分かったところでどうしようもないんだよな。
スキルを使われたら俺の考えが正しかったら俺のスキルなんかじゃ対応出来ない。
「そうか……それはキツそうだ。だけど安心してくれ、今のところ『ブレンド』に勝負を仕掛ける気は全く無い」
勝負するのはクラン戦でだ。絶対に勝利してマイにした数々の行いをダントに謝罪させる。




