第14話 脇役
体は普通に動くし、筋肉痛もあったのかもしれないけど時間が開きすぎて治った。だから体には異変は何も無いのに立てないのだ。
「魔力を使いすぎて体が上手く動けなくなってるんですね」
やっぱりか……。さっきのカナタの説明を聞いて薄々はそうなってるんじゃないかと思ったけど……。
「魔力の筋肉痛……略して魔痛は予想以上に長引きます。そろそろ治ってもいい頃合いだとは私もおもいますが……」
こんなに体に力の入らない脱力感は初めてだ……。このまま寝たい……。そう言って俺は仰向けでベッドに寝転がる。
一週間……か。こんなに長い時間寝ていたのは初めてだ。これが魔力の影響か……。恐らくよく有る転生特典って奴がこの魔力なんだろうな。
それにしてもこれしか与えてくれないこの世界はやっぱり無理ゲーでしかない。
勇者はみんな、この世界以外の人物なのだから必ず戦いに慣れている人ばかりとは限らない。だからこれしか特典がなくて戦いに慣れていない勇者が戦えるわけが無い。
「とりあえず、この一週間、言えてなかったのでこの場で言います」
そう言ってカナタは大きく息を吸って呼吸を整えた。そして──
「お疲れ様です。そしてありがとうございました」
俺はこいつの力を信用しきれていないからそういう行動にでたんだ。それはカナタも安易に予想つくはずだ。
戦う者のプライドを俺が傷つけてしまったんだ。それだと言うのにカナタは怒りもしなく、ただ優しく微笑んで礼を言ってきた。
礼を言われるのに慣れていなくて照れくさくなった俺は腕で顔を隠す。
「なぁ、カナタ」
俺はそのままの体制で呼びかけるとカナタは「なんですか?」と優しい口調のまま聞いてきた。
「お前は……戦うのが怖くないのか?」
俺はあの時に感じた言葉を聞いてみた。
走りながら、血を吐きながら俺はずっと考えていた。
「俺は怖いんだ。あの魔物が出てきた時に足が竦んで、一瞬思考が固まっちゃったんだ。カナタが呼びかけてくれなかったらきっと動けなかったと思う」
俺は本音を打ち明けた。
俺は全てが灰色に見えて人生なんて捨てたも同然だった。だが、全力で生きているカナタに影響を受けたんだ。
カナタは俺には本物の勇者みたいに見えたんだ。
俺より幼いのに魔法使いで勇者を召喚するって大役を任されて……。そして魔物を見て怖気ずに詠唱を始めて……。
俺なんかよりカナタの方が勇者に向いて──
「きっと……それが普通の感覚なんですよ」
俺はその言葉を聞いて腕を退かしてカナタを見る。
カナタはさっきと同じ位置にいたけど、あの時と同じ目をしていた。
「私も怖いです。戦って死ぬのが……」
静かにそう呟いた。
「怖くて怖くて……。戦っている時に詠唱を唱えている間も膝が震えて、心拍数が上がって目眩がして、倒れそうになって……。でもそんな時、いつも頭に浮かぶんです。私の好きなこの街の光景が……。だから私は戦えるんです。大切な物を守るために……私は戦うんです」
あの勇敢な姿の裏にはそんな思いがあったんだ。
そう思うとあの姿をただの勇気で済ませてはいけないような気がする。
カナタが戦っているのに俺はただ怖くて……動けないで……。情けねぇな。
また。借りを作っちまったな。
一つ返したのに、またひとつ増やしてしまった。
「カナタは本当に俺のやる気を出させるのが上手いな。心理学者になったらどうだ?」
「しんりがくしゃ? なんですかそれ」
「いや、こっちの話だ気にするな」
しかし、カナタのお陰でやる気が出て来たのは本当だ。
剣があるからな。俺も戦える!
「カナタ。俺、勇者にはなりたくねぇけどさ。出来る範囲では協力する」
俺がそう言うとカナタはパァァっと笑顔になった。
俺は自分自身で主人公にはなれないということは自分でも分かっている。
だから主役じゃなく、俺はカナタの脇役として戦うことに決めた。
カナタが主人公。俺がカナタの仲間。完璧だ。
「それじゃ、この間探索隊の身に何があったのか。知ってもらうね」
そう言ってカナタはこの前、探索隊の身に何があったのかを語り始めた。
「探索隊が報告会をしてる時に言ったことなんだけど、今回は森の方に行ったみたいです」
森の方と言うと、壁に登って見た左側にだな。
それがどうしたんだろうか?
「森の中は光があまり入らなくて暗かったそうです。そんな森の奥に洞窟があったらしいです」
洞窟か……。
よく洞窟には普通よりも強い魔物が居るって言うからな……。
「その洞窟の奥地に、すごいでかい魔物が居たらしいです。そいつは斧を振り回し、探索隊のみんなを壊滅状態まで追い込んだらしいです」
他の魔物よりも強い魔物か……。
よくある設定だが、いざ実際に体験してみると息を呑んでしまう。
普通の魔物と戦ったことが無いからどれほどの強さなのかは分からない。
だけど強そうだというのは分かってしまった。
「今はその魔物を倒す会議をしています。私も倒しに行く気です」
カナタは力強くそう言った。
俺は戦いなんてごめんだが、今回だけは──
「俺も協力する」
俺も戦うことになった。