守護者の裏に隠されしもの
レンジが吼えた。
レンジは無意志だったが、ミクスを守るべきものと認識していた。
それは単純に彼女が女性だからというのもあるが、彼女が単にレンジの部下に似ていたため思わず、と言ったところだろう。
その思わずというのは、レンジがこの世界に来て得たジョブというなれないものによる無意識でもあるし、そして無意識にジョブに付与されたスキルに連動もしていた。
〈復讐者〉というスキルが人知れず起動していた。
内容は簡単。守るものを殺されたとき、殺したものに対するあらゆる特効、強化が付与されるというものだ。
これは、かつてミレイを殺されたレンジの為した偉業そのものであり、彼の業でもある。
心優しき正義の守り手は守るべきものを失い、無念と後悔の中、憤怒に燃える鬼となる。
その瞬間、レンジのスキルが文字化けを始める。
〈守護者〉―――〈守あjn〉―――〈gfvsん〉―――〈kz者〉―――〈復讐者〉
戦うものが放つ特有のオーラ。
それは今練度を高め神威の域へと達した。
それはうねりを上げて形を変える。
その姿はまさしく鬼。
鬼には静かに男をにらみつけると、レンジと一体化する。
彼の足元に埋まる狂戦士。それの持っていた斧を彼はつかむ。
すると斧に込められていた狂化のための精神支配がレンジを侵食する。
しかし、それは鬼の中だった。
たわいもない概念は、そこで大いなるちからに吸収された。
斧はやがてその刀身をもとへと戻してゆき、美しき輝きを取り戻す。
狂戦士も両手でしか振り回せなかった斧を片手で持つと、それを地面に振りぬいた。
―――ドゴンッ
地面は抉れ、壁が壊れ、外が見える。
無窮の荒野にポツンと建てられたこの地。
その荒野に渓谷を作るかのようにおおきな、跡がレンジの降った斧の線上に伸びていた。
不老者の男の召喚した精霊は姿を消し、斧も砂のように崩れていった。
そしてレンジは男を見て構えを取る。
男はそれに対して何もしなかった。
ただ眺めているだけ。
その目には失望の色が見えていた。
「これは私の望んだ強者ではない」
※※※
「復讐を、仇討ちを私はなさねばならい・・・」
そうつぶやいたレンジの目は虚ろである。しかし、その目には男がはっきりと映っていた。
理性は無いが、ただ目的である一人を見て、静かに怒り、そして蹂躙する。
レンジは己が起こした最大の罪にして汚点という。
しかし、世界はそれを偉業と認めた。いや、むしろ認めさせた。
本来であればあれは単なる虐殺に過ぎない。
国々のルールが彼を許さず、何もしない、しらない者たちは死者の数だけを見て彼を許さなかった。
だが、世界は違う。己の中で起こるすべてを見て、感じ、久々に心震えた。
故に彼が異世界に写るとき裏にスキルとしてそれを潜ませた。
守護者という彼の存在意義の裏に。
世界としてより好ましい彼を引き出しやすくするために。
しかし、世界は一つ間違えた。
全てを見ているがゆえに、人の、短命な生き物ゆえのあらゆるものが刺激であるこの生き物心のありようが理解できていなかった。
※※※
レンジは動き出す。
先ほどの何倍もの速度で。
先ほどまで流れるように手数の多さで攻めていたレンジの今度は短いためを作り、一撃一撃が重いながらも、敵に反撃の隙を与えない連打で攻める。
不老者と呼ばれる男はその攻撃をかわし、受け流し、弾く防戦一方な展開となっていた。
男はレンジの瞳から消えた光に不快感を覚える。
―――くだらない。これはスキルに動かされているものだ。
―――つまらない。これらの攻撃には心がない。思いがない。
―――楽しくない。次に来る攻撃が全て読める。
よって、一撃で沈める。
不老者はそして大きくそして違和感なく自然な形で隙を作る。
すかさずレンジはそこを狙った。
―――ああ、先ほどまでの君ならここは狙わないだろうに。
その瞬間、レンジのあごに男は拳をめり込ませていた。
上にきれいに吹き飛び、天井にぶつかったレンジは地面に自由落下を決めるとそのまま動かない。
男はとどめを刺すための構えを取る。
その瞬間レンジの体が動き、両足が男の頭をつかみバク転のように回ったレンジ。
男は体をねじり頭の拘束を外すと、頭上に迫る床を手で押し返しレンジから距離を取った。
「いやー、すみません。ちょっと我を忘れていたみたいで。いい寝覚めになりました」
満身創痍のレンジは男を見据えて飄飄とそんなことを言う。
その様子に男は笑みを浮かべ、もはや言葉は不要と手をクイッと挑発するように動かす。
レンジはそれに対し、立ち上がり息を整える。
「我にも守るものはすでになく、あるのは目の前に敵のみ。この一撃は我を神と呼称するに至りし一撃」
その言葉と共にまるで転移したかのように男の前に現れたレンジは拳をふるう。
「鬼神天翔牙!」
※※※
観客席で彼女は笑う。
「ああ、その顔、憤怒。やはりあなた様なのですね。また、あの女狐を殺せば私だけを見てくれますか?」




