第965話 試験小隊別班の行動。(警棒と訓練場の様子。)
「・・・」
ジーナは試験小隊のアーキン達4名を探しながら街中を歩いていた。
ジーナはまずは部屋に行き、次に家具屋とハワース商会に行ったのだが会えなかった。
だが、昼食の為に寄ったパン屋で目撃情報を得て今は目的地に向かっている。
「あ!ジーナさん!
丁度良かった!」
とジーナを見た誰かがジーナに声をかける。
「ん?」
ジーナが声をした方に顔を向けるとそこはステノ技研だった。
で。テイラーの店先で鈴音が声をかけていた。
「どうされましたか?」
ジーナが近寄ってから声をかける。
「警棒の試作が出来たんで持って行こうとしていたんです。
とりあえず振ってみてください。」
鈴音は小箱をジーナの前に出す。
「え?ええ。
すみませんが、持って頂いて良いでしょうか。」
「はいはい。」
ジーナの荷物を鈴音が抱える。
「では。」
ジーナが小箱を開けるとそこには武雄が発注した通りの長さ30cmの鉄の棒があった。
先端と思われる所には木のキャップがされている。
「・・・」
ジーナは右手で握る。
「?・・・えーっと・・・スズネ様。これをどうすれば良いのでしょうか?」
「あ。そっか。
一回、素振りのように下に向けて思いっきり振ってください。
そうすれば中に納まっている棒が出て来ますよ。」
「・・・」
ジーナが持っている腕を上げる。
「ひぇ!?私に向けないでください!」
鈴音が慌てる。
「・・・えいっ!」
ジーナが向きを変え警棒を上段から足元まで勢い良く振ると「ガキッ」という音と共に中の棒が出てきて小太刀と同等の長さの警棒になっていた。
先端のキャップは吹っ飛んでいます。
「おおおぉ♪」
ジーナが目を煌かせながら顔の前に警棒を持って来て見ている。
「ステノ技研製3段伸縮式警棒です。」
鈴音が満足そうな笑顔をジーナに向ける。
ジーナは何回も素振りをしている。
「・・・?
あのスズネ様。これはどうやって元に戻すのでしょうか。」
「先端を垂直に床に打ち付けて納めますよ。」
「打ち付けるのですか?」
「ええ・・・どうしても伸ばした時の棒同士のハマりは手とかの力では戻らないんですよね。
なので床や道で石のような固い物に垂直で先端から打ち込むと戻るようになっています。」
鈴音が腕を組みながら「こればっかりはどうしようもない」と苦笑している。
「・・・」
ジーナはしゃがみ込み地面に先端から打ち付ける。
「?・・・収まりません。」
「純粋に力が足りませんね。」
「・・・えいっ!」
ジーナが力を込めて打ち込むと「ガチャガチャ」と今度は上手く元に戻る。
「・・・」
ジーナは立ち上がり警棒をしげしげと見つめると。
ガキッ・・・ガチャガチャ・・・・ガキッ・・・ガチャガチャ・・・ガキッ・・・
伸ばすと収めるを繰り返しし始める。
「・・・えいっ!・・・えいっ!・・・えいっ!」
ジーナが何が気に入ったのか連続でどんどんしていく。
「・・・あ・・・ああ・・・あ・・・」
鈴音の顔色がどんどん悪くなっていく。
「ん?・・・スズネ様。収まった状態で先が少し出ています。」
「うぅぅ・・・ジーナさん。振りと収めをし過ぎです。
この警棒は大体3回か4回しか伸縮させないだろうとの考えで出来ています。
実戦は1、2回したら使えないだろうと考えているんです。」
鈴音がガッカリしながら言ってくる。
「え?・・・なら。」
「収まりが悪くなったという事はたぶん収める時にどこかを曲げたのではないのでしょうかね。
新品に取り替えます。」
「もうダメなのですか?」
「消耗品という括りですね。
予備で3個くらい渡しておきます。」
「実用に特化しているのですよね?」
収まっている警棒をジーナが見ながら言ってくる。
「・・・意匠はないですね。早く言えば使い捨てですし。」
「・・・使い捨て。」
「後生大事にされなくても結構です。
予備は多くを用意しておきますからね。
とりあえず。今予備を持ってきますね。」
鈴音が一旦、ステノ技研内に戻っていくのだった。
・・
・
小道を通って試験小隊の訓練場に到着。
「居ましたね。」
車座で休憩している一団を見つけ近寄る。
「ん?ジーナ殿。どうしましたか?」
ブルックが気が付き声をかける。
「今後のご予定を聞こうと思いまして参りました。
で、姿を見ないと思っていたら夕霧はこっちでしたか。
時雨も初雪もですね。」
一団にはアーキンとブルック、ミルコにアニータと夕霧、時雨、初雪、彩雲が居た。
「雰囲気を楽しんでるっス。」
時雨が笑顔で答える。
「雰囲気???」
ジーナが首を傾げる。
「私達とは栄養の取り方は違う。
話しながら食事を取るといろいろ為になる話が聞けるという事がユウギリの経験でわかった。
私とシグレもやってみたいからここに居る。」
「そうですか。
んー・・・まぁ良いでしょうかね。」
ジーナが軽く首を傾げながら言う。
「で。ジーナ殿今後の予定ですか?」
「はい。
試験小隊の方々の大まかな行程をお調べして伯爵様に報告をします。」
「毎日の予定としては朝は毎日裏城門の外壁を散策をしているね。」
「「散策・・・」」
アーキンの言葉にアニータとミルコがビクッとする。
「朝食後からはここの敷地の境界線を作っているのよ。
アニータとミルコの訓練を兼ねてね。
午後3時頃に終わるかな。」
「馬の手入れをして夕飯を買って部屋に帰宅。
その後夕飯まで座学を1時間してから自由時間と湯浴みをして就寝かな。」
「なるほど。
ならばほぼここに居るのですね。」
ジーナが頷く。
「ええ。でも明日は午後は居ませんね。
各部屋の契約をまとめに行くので。」
「あ。なるほど。
前金等々はどうなっていますか?
必要なら研究所の方から出しますが。」
「それが・・・ないのよ。」
ブルックが首を傾げる。
「え?ないのですか?」
「ええ。ないの。
伯爵家の総監部の紹介で私達は子爵家の部下でしょ?
信用が最高点らしくて・・・なくて良いらしいのよ。
それに入居後の2か月以内の不具合は全部無料で交換が確約されたのよ。
・・・どんだけ皆信用を置いてくれているのかしらね。」
ブルックが苦笑する。
「・・・あ。そう言えば私とお父さまの時も何も言われなかったですね。」
「ジーナ殿の場合はどうだったのですか?」
「総監部で用意が終わっていて・・・家具も薪も全部完備された状態でした。」
「・・・改めて凄い家の部下になったという事ですかね?」
アーキンが考えながら言ってくる。
「・・・後は今後の予定ですね。
明後日辺りに彩雲をウィリプ連合国との関に向かわせようと思っています。」
「某ですか?」
彩雲が顔を向ける。
「はい。王都を経由して頂きますが、基本は街道沿いで飛んでください。
後程伯爵様の所で国全体の地図を見ながら覚えて貰います。」
「わかりました。」
彩雲が頷く。
「所長が王都に着く頃に私達も行きます。
今回はアニータとミルコに緊急時の強行軍を想定させるので2日で到着の予定ですね。
予定的には2週間くらい後ではないでしょうかね。」
アーキンが考えながら言う。
「わかりました。
でしたら彩雲が一度戻って来てから出立になるのですね。」
ジーナが頷く。
「・・・ジーナ。」
「どうしましたか夕霧。」
「ん。私も王都に行って見たい。」
「・・・んー・・・夕霧は馬には乗れるのですか?」
「・・・乗れない。」
夕霧が首を傾げながら言う。
「んー・・・無理じゃないですか?」
「もうすぐ王都までの通路が出来るからそこを通って行く。
服だけアーキン達に持って行って貰う。」
「それはダメです。」
夕霧の提案をジーナは即却下する。
「なぜ?」
「王都のどこに通路が出来ているかはわかりません。
現状夕霧の存在は王都には伏せている状態です。
またアーキン様達と合流がスムーズに行かない場合、王都で騒ぎになる可能性があります。
なので魔物の討伐になってしまう可能性がある以上、夕霧を単独で行かせる訳にはいきません。
行くのなら誰か付き添える者が居ないと許可出来ません。」
「ん。わかった。
私が行くのは諦める。」
ジーナの言い分に夕霧が頷く。
「なら。私が行きたい。」
初雪が手を上げる。
「初雪がですか?」
「そう。
アーキン達の荷物の一部にスライム状態で同乗させて欲しい。
そうすれば私と服のみで問題ない。」
「「おおお。」」
夕霧と時雨が初雪の提案に拍手している。
「・・・んー・・・
アーキン様達が許可し、彩雲にご主人様への許可も取れたらとします。」
「私達は問題ないわ。
あとは所長の判断待ちで。」
ブルックが言う。
「わかりました。
なら彩雲はその旨をご主人様に伝え判断をお願いしてください。」
「わかりました。」
彩雲が頷く。
「では、今日はこれまでですね。」
ジーナが皆に礼をしてその場を後にするのだった。
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