第960話 奴隷商組合に報告。(どうやって誤魔化すか。)
武雄とマイヤーは皆と一緒に冒険者組合に行ったが、出金したのちに奴隷商組合に向かった。
応接室に通され、セスコに金銭を渡していた。
「金貨345枚になります。」
「はい・・・では、こちらが領収書になります。」
「頂きます。」
武雄が書面を見てすぐに懐に仕舞う。
「若旦那。
これで用件は終えられたのでしょうか?」
「終りましたね。
用もなくなりましたから明日にでも出立したいですね。」
「若旦那。奴隷市を見なくてもよろしいのですか?」
「奴隷市を下手に見てしまうとまた買いたくなりそうですからね。
今回は遠慮しましょう。」
「そうですか。
他に入り用な事はありませんか?」
「中古で良いので幌馬車を取り扱っている所はありませんか?」
「ふむ・・・
ならここからの行き方と紹介状を書いてお渡しします。
おい!誰かいるか?」
セスコが呼ぶと扉がノックされ許可を出すとナサリオが入って来る。
「すまんが至急、幌馬車の紹介状を用意してくれ。
若旦那が買いに行く。それと店までの順路もわかりやすくな。」
「はい。畏まりました。
すぐに作ります。」
ナサリオが礼をして退出していく。
「ありがとうございます。
それと再度、王都で奴隷が欲しくなった際はセスコ殿宛でここに来れば良いのですか?」
「はい。こちらにお越しください。
ですが、王都から来たと言われただけでは・・・なので、アズパール王国からの推薦状を最低限持って来て頂ければ私が対応します。
それでも私も商売をしている関係で毎日居るとは限りませんので、私が居る際はという条件でよろしいでしょうか。
居ない場合は他の上位の者を付かせますのでそれでお願いします。」
「わかりました。
そのように伝えます。」
武雄が礼をする。
「それにしても・・・先ほど会ったエルフ一家ですが・・・」
「立っていたでしょう。」
武雄がニコッと笑う。
「重度の故障、動けない者が居たと話には聞いていましたが・・・
若旦那。何をしたのですか?」
セスコが前のめりになりながら聞いて来る。
「んー・・・何をしたわけではありませんけどね。
ただ単にケアをして貰っただけですよ。
ただ少し・・・なんて言っていたかな・・・ゆっくりとする?とかなんとか・・・」
武雄が考えながら言う。
「部下の方がしたのではないのですか?」
「私の部下でも完全に治すには1日が精々らしいです。」
「そうですよね。
普通は1日程度しか治せないですよね・・・ならどういった方に?」
「・・・たまたま知り合った旅人さんにお願いしたらしてくれました。」
「まさか・・・囲わなかったのですか?」
「今はのんびりと旅をしているからどこにも所属する気はないと言われましたね。
暇だから治しても良いと言われました。
最大でお願いしたのですが、まさか歩けるようになるとは・・・私も不思議ですけどね。
ま。それでもこれから元の生活が出来るまで訓練というか慣れをさせないといけませんけどね。
本人達も喜んで一生懸命に歩く練習をするそうです。
ふふ。おかげで離反の心配は全くなくなりました!」
武雄が楽しそうに言う。
「はぁ・・・その者の名前はわかりますか?」
「詮索はしない事・・・行き先もこれまでの経歴も聞かない事を条件に治すと言われましてね。
私はダメでも致し方ないと考え試させました。
早期に治すにはこれしかないだろうと・・・ダメでもこれ以上の悪化は私達のケアでさせませんからね。」
「んん~・・・若旦那。思い切った事をしましたね。
いや。その判断が出来るからこその使節団長なのでしょう。」
セスコが考えながら言う。
「失敗していたらあの一家から何を言われていたか・・・
治って良かったですよ。」
「ええ。そうですね。
ちなみに代金はいくらだったので?」
「夕飯代と金貨3枚。」
「安っ!
いや・・・でもその安さで治せると豪語されると逆に心配になりますか・・・
どのような風貌でしたか?」
セスコがそう聞くと武雄が天井を見上げて目を細める。
「・・・小さな女性でしたね。
端整な顔立ちですが・・・年齢が初老・・・いや。あれはワザとなのか?」
武雄が顎に手をやり考える。
「どうしましたか?」
「いえ。最初から最後までフードを被っていたので全体像はわからないですが、あの方は女性で初老の顔つきでしたが、ケアをかける際に見た腕と手首が若かったんですよね・・・」
「腕と手首が若かった?」
「手首等の皮膚と皺の感じが顔の年齢と違っていた印象です。
あれは・・・偽装だったのでしょうか・・・
そうするとどちらかが?・・・いや二つとも偽装という事も・・・」
「・・・全てが謎なのですね?」
「ええ。すみません。
詮索をしないと言っていましたが・・・向こうも見た目を誤魔化している可能性はありますね。」
「・・・そうですか。
他の街でもそういった情報が出てくれば良いのですが。
次はどこに向かうと?」
「・・・んー・・・山の幸でも食べに行くかとは言っていましたけど・・・
他国に行くのか?近場で済ますのか?・・・んー・・・」
「山の方・・・わかりました。
気ままな旅人が怪しいのですね。」
「としか私は言えません。」
「若旦那の素性は言ったのですか?」
「言いましたが、特に何も。
関心がない感じでしたね。
まぁあれほどの人物なら元々相当上の貴族にでも抱えられていたかもしれませんからね。
アズパール王国の新貴族だけでは印象に残らないのでしょう。」
「そういう物ですかね。」
「ま。皆が欲しがるケアを持っていてのんびりと旅をしたがる人ですから。」
「なるほど。
願わくば私の前にも来てもらいたいですね。」
「私からは何とも。
部下の恩人ですが、もう会う事はないと思っていますよ。
ま。旅人ならふらりとどこかの街で会いそうですけど。」
「ふむ・・・そうですか。」
と扉がノックされ許可を出すとナサリオが入って来る。
「副組合長。用意が出来ました。」
ナサリオがセスコに書類を渡す。
「ああ。ありがとう。
若旦那。これを。」
「ありがとうございます。
では。セスコ殿。私達はこれで。」
「はい。
またのご利用をお待ちしております。」
武雄とマイヤー、セスコが立ち上がり武雄が礼をして退出していくのだった。
・・
・
武雄とマイヤーが冒険者組合に向かう道すがら。
「所長・・・」
マイヤーが横を歩く武雄の方に目を向けながらため息をついて言ってくる。
「だって・・・しょうがないじゃないですか。
正直に話す訳にはいかないでしょうし。」
「ですけど良いのですか?」
「ならどうやって誤魔化せと?
あの程度で勘弁してください。」
「はぁ・・・向こうは本気で探すかもしれませんよ?」
「居ない人物を探すって・・・徒労も良い所ですよね。
まぁ・・・探すのは無理と判断するのではないですか?
具体的な事は何もわかっていないんですから。」
「それはそうですが・・・はぁ・・・
あの副組合長が気の毒ですね。」
「・・・そこは心の中で謝罪しますよ。」
武雄とマイヤーが若干肩を落として冒険者組合に向かうのだった。
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