第959話 試験。4(終了。)
「すぅ・・・はぁ・・・」
12番が深呼吸をしている。
「・・・」
武雄は見守っている。
12番は獣人になっていた。
種族がという意味ではなく、虎耳と尻尾と爪が生えて見るからに人から獣人になっていた。
ジーナと違い、2足歩行のままだが。
人から獣人に変身する型の獣人だった。
で、今は剣での勝機は逸したと判断したのか、12番は武雄に断りを入れ獣人になっていた。
そして獣人になれば剣よりも爪で攻撃する旨を武雄に言っていた。
「・・・行きます!」
そう言うと12番が武雄に走り込んでいく。
武雄は小太刀を終い、半身のまま左手を向けて構えている。
12番は少し離れた所から飛び込みながら右手で武雄の顔に爪を立てようとした。
だが、武雄の顔には到達せず、顔の横に抜けてしまう。
さらに武雄に左手で右手首を掴まれ、背負い投げを食らわされる。
もちろん飛び込んだ勢いのまま床に叩きつけられ威力は倍、さらに武雄が一緒に倒れ込んでいたので追い打ちをかけられていた。
「ガッ!?」
受け身も取らずに床にたたきつけられ、全身に激痛が走っていた。
12番は天井を見つめながら思った「精一杯してこの完敗・・・言う事はない」と。
「・・・さてと。終わりましょうか。
3人の実力はなんとなくわかりましたし。」
12番を投げ終えた武雄が起き上がり服の汚れをパタパタ叩きながら言う。
「了解しました。遮音の魔法終了。
それとパナ殿。」
アンダーセンが頷く。
「はい。」
パナが12番に近寄りケアをかけて治す。
「んっ!・・・やっと終わりですね。
ん?ベルテさん達どうしましたか?」
武雄が軽く伸びをしながら席に戻って来る。
そこには呆気に取られている面々が居た。
「いえ・・・なんだか凄い物を見た気がして。」
ドナートの言葉に一家とニルデとジルダが激しく頷く。
「あ~・・・ま。私は1対1ならこんな感じですよ。
相手が2人以上だと私は使い物になりませんからね。」
武雄が苦笑する。
「あ~?」
ビエラが武雄に抱き付きながら聞いてくる。
「・・・主。ビエラが広場でやろうと言っています。」
ミアが武雄のポケットに入りながら言う。
「・・・誰が?」
「タケオ。が。」
ビエラが武雄を指す。
「・・・誰と?」
「あたす。と。」
ビエラが自分を指す。
「・・・やるの?」
「はい。」
ビエラが頷く。
「ん~・・・最低でもアズパール王国領まで行かないとダメですね。」
「あ~・・・」
ビエラがガックリとしている。
武雄は「可哀想だったかな?」と思いが過るが相手はドラゴン。
下手にやると死にかねないし、回りへの被害も考慮しないといけない・・・他国では無理と結論付ける。
「じゃあ。冒険者組合事務所に行きましょうか。
皆さん。湯浴みをしましょう。」
「「は~い。」」
エンマとフローラが返事をする。
「あの~・・・キタミザト様。
俺達はしないのですよね?」
ジッロが武雄に恐々聞いてくる。
「ええ。ベルテさん達は確かに闘技場で見つけましたが、兵士として雇う気はありませんからね。
害獣駆除や簡単な狩りとかをしたくなるかも知れませんからある程度、自己研鑽に励めば良いですよ。
ジッロさんを兵士として雇わせたいという話はこれとは別ですから私はする気はありません。
もし兵士になっても良いとなったら国家を守るのはお仕事ですからして貰いますが、最終的には家族の警護が目的ですからね。
自ずとやる内容が変わると思いますけど。」
武雄は朗らかに言う。
「そうなんですね。」
「私がそう思っているだけでジッロさんがどういう動機で入るかは別ですけどね。
幹部を目指したいならしても良いですし。
その時はその時でまた違う事を考えれば良いのです。」
「それは・・・良いのですか?」
「むしろなぜ遠慮しますかね。
確かに首輪はありますが、身に付けた実力やそこに至るまでの努力はジッロさんの物ですよ?
そのうえでジッロさんが上を目指したいというならしてみると良いと思います。
まぁ。多少は種族的に差別されるでしょうが、最初なんです。
差別はあって当たり前と思って何事もしてください。」
ジッロの疑問に武雄は不思議に思う。
「はい。」
ジッロが頷く。
「ニルデもジルダもエンマもフローラもドナートさんにボーナお母さんもです。
異種族の国家に行くのです。
差別されるのは当たり前くらいの気持ちでお願いします。
一応こちらでも手は打ちますが隅々まで見れるわけではありません。
まずは人を見る。こちらも見せる。お互いに努力は必要だと思います。
そして何を言われようとも腐らずに何度も足を運べば関係も徐々に良くなるでしょう。」
「はい。畏まりました。」
「「はい!」」
ベルテ一家とニルデとジルダが頷くのだった。
------------------------
建物の外にて。
「ん~・・・
さっき奴隷商と思われる面々は出て来たけど、おっちゃん出て来ないね。」
「躾をしているのだろう。」
セイジョウの言葉に横に居るバロールが答える。
「・・・普通はそうだけど・・・
ま。周りの人達がしているんだろうね。」
「だろうな。
御仁が剣の達人とは見えぬな。」
「まぁ~ねぇ~・・・
で。バロール。昨日の話だけどさ。」
「ん?何かあったか?
タンポポ茶の生産者は本国に送る手はずは終えたのだろう?」
「うん。今は安宿で休んで貰っているし、本人達も移住に賛成してくれているから安心だよ。
いやいや。そっちでなくて。
おっちゃんが保護施設に行ったんだよね。」
「あぁ。1人での監視だったからな。敷地の外壁上で見ていたが・・・中で何をしているかは実際の所はわからないがな。
あの御仁が出て行った後に我の所にドゥルジが来てな。
・・・少し押し問答をしたが概要は教えて貰った。」
「・・・おっちゃんは視察だけしたんだね?」
「ああ。ドゥルジはそう言っていたな。
それとドゥルジの主はエルダームーンスライムだと。
あの地でスライムの安住の地を作りたいから手伝えと言われたが・・・
昨日言っただろう?」
「・・・バロール。どう思う?」
「どうとも思わん。
確かにスライムが仲間に入ればお主の本来の仕事はしやすくなるだろうがな。
だが、多くの人間種がスライムとの共存なんて出来ないと思っているのは確かだ。
その中で堂々とスライムの世話をするというのは、いろいろと風評的にマズいとは思うぞ。
特にこの国家内ではな。」
「だよね・・・んー・・・やっぱり帰ってから考えてみるよ。」
「そうだな。あの施設が早々に潰れるとは思えないからな。
いろいろ想定して見るのも良いだろう。
お。御仁達が出て来たな。」
「さて。尾行の再開だね。」
「向こうは気が付いているのに尾行も何もないだろうに・・・」
セイジョウの言葉にバロールがため息を付くのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




